第6話 性域

 彼女の指がパンツに触れる。そして、端を持ち、ゆっくりと下ろされていく。

 目に焼き付けるように見ながら、ごくり、と唾を飲み込んだ。あの奥はどうなっているのか、期待と興奮で胸と股間がはち切れそうになっていた。

 しかし、待っていたのは予想外の出来事。

 脱ぐためには腰を曲げなければならない。すると、髪の毛が重力に引かれて様々なものを覆い隠してしまった。

 しかも、それだけではない。拘束から解放された胸までもが邪魔をしている!

 なぜだ、彼女が脱いでくれているのに、なぜ俺は見たいものばかり見れないんだ!

 俺は、頭を抱えたかった。しかし、そんなことをすれば、ただでさえ見れない彼女の裸がさらに見れなくなってしまう!それはもっと嫌だ!


 そうしているうちに、彼女は脱ぎ終わっていた。しっかりと見ることがあたわなかった。

 彼女は脱ぎたてのパンツを机に置くと、何かに気づいたのか、俺の方を一瞬見た。そして、ブラとパンツを俺の見えないところに隠した。

 それは、つまり、あれですか?裸を見られても、下着を見られるのは恥ずかしいんですか?そんな彼女が愛しく思えた。

 しかし、性欲は健在であり、俺の目は、むっちりとしたヒップに吸い寄せられた。

 生……尻…………。

 あれは、本当に尻なのか……?そう思いたくなるほどそれは魅力的だった。

 胸とはまた違った柔らかさがそこにはあった。いや、触っていないから、実際は知らない。でも、そう感じた。

 そして、そのすぐ下には太ももが……。後ろから見るこれも素晴らしい。


「ねぇ、拓斗くんは、その、髪、下ろしてるのと、結んでるの、どっちが好き?」


 急に話しかけられ、俺は顔を上げた。彼女は背を向けてはいるが、顔だけをこちらに向けていた。そして、俺は質問の意味を理解することもなく、無意識に返していた。


「ポニー、テール」


「じゃぁ、ちよっと、待っててね」


 そう言って彼女はカバンからシュシュを取り出していた。

 そして、そのシュシュを使って髪の毛を頭の上の方で一つにまとめ始めた。

 その時、腕は上げている。わきが、はっきりと見えている。そう、わき、だ。だから、どうした。わきに何かあるのか?分からない。でも、なぜだか、俺の視線はそこに吸い寄せられていた。

 しかし、それも長くは続かない。俺が好きだと言ったポニーテールになると、腕は下りてしまった。


「やっぱり、恥ずかしい、ね」


 そう言いながら、彼女は振り返った。一糸纏わぬ姿である彼女をこれで見れる、そう思ったのだが、その期待は残酷にも裏切られた。

 彼女は右腕で胸を隠し、左腕は股の辺りを隠していた。しかも、足を少し交差させるようにしているので、肝心のところは何一つ見えなかった。

 ここまで来てこれなのか。『恥ずかしい』と言っていた。つまり、これが限界なのか……。でも、胸は、『心の準備ができてからで』とも言っていた。ということは……その両手を外してくれるのか……?

 いや、過度の期待は止そう。裏切られたときのショックが大きくなってしまう。今の、彼女の姿を目に焼き付けよう。そう思い、下から舐めるように見る。


 小さな足。

 キレイな足。

 可愛らしい膝。

 恥ずかしいからなのか、擦り合わせるように時折動く太もも。

 性域は左手に隠されて見ることはできない。

 小さく凹んだへそ。

 右腕で押さえつけられているけど、隠しきれないほどのボリュームの胸。

 ぷっくりとした唇。

 赤く染まった頬。

 いつもと変わらない赤いアンダーリムの眼鏡。

 一つにまとめられた絹のような黒髪。


 それら全てを脳裏に焼き付けた。二度と、忘れないように。

 彼女が嫌だと言うなら、これで満足しよう。そう思った。いや、思い込もうとした。

 彼女が深呼吸をした。そして……


「うん、もう、大丈夫」


 彼女はそう言った。

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