メッセージ・2年生
ユウへのいじめは、一向に収まることを知らなかった。学年が上がり、二年生になった今でも、起こり続けていた。
「ただいま……」
ある日、ユウは傷だらけになって帰宅した。その姿を見た母親は、驚きのあまり空の洗濯籠を後ろに放り投げてしまった。
「どうしたの、その傷!」
おかえり、と言う前に、心配の声が口から出てきた。愛娘がボロボロになって帰ってきたのだから、無理もない。
「今日、数人からガラスで切り付けられた……」
答えるユウの全身は、震えていた。今にも座り込みそうな様子だったが、下手をすれば傷が開いてしまうかもしれない。母親はユウに、じっとしているよう言い、薬箱を取りに行った。
戻ってくると、念入りに消毒して手当した。出血はなかったため、大した手間はかからなかった。終わると、ユウに数日の間、学校を休むよう指示した。
「もしもし、先生ですか? ユウの母です。実は、娘が高熱を出しまして、少しの間、学校を休むよう医者にも診断されました……ええ、はい……予定では、四日ほどだと……はい、わかりました。失礼します」
うその電話も済ませると、母親は自分の書斎へと向かった。そこには辞書や絵本など、さまざまな本が置いてあるけれど、踏み入ることはほとんどなかった。その中から一冊抜き出すと、娘がいる部屋へむかった。
そのころユウは、手当された自分の腕や脚を見ていた。どうしてこんな目にあうのだろう。自分のどこが悪いのかな。考えても、浮かび上がってくる自分への問いに対する答えは出てこなかった。
すると、母親が戻ってきた。一冊の、分厚い本が抱えられていた。
「ユウ、一緒に本でも読まない?」
母親の表情は、ユウには初めて会った時のトオルと同じように見えた。彼をきっかけに本が好きになったユウは、笑顔でうなずいた。
娘の喜んだ表情を見た母親は、寄り添うと本を広げ、読み聞かせを始めた。
「昔々、ある王国に一人の女の子が住んでいました……」
「……は、幸せに暮らしましたとさ」
最後の一文を読み終え、母親は本を閉じた。
「ねえお母さん、この本に出てくる女の子ってすごいね。魔法が使えるんだもの。私も使えるかな?」
ユウの質問に、母親はふふっと笑うと、笑顔で答えた。
「もちろん、使えるわ。お母さんが、使えるようにね」
冗談のような真実を言った母親に対して、ユウは驚くどころか、目を輝かせた。
「じゃあ、見せて見せて!」
せがむ娘に、母親は困惑した。今この場で使えそうな魔法が、思いつかなかったからだ。しかし、ユウを見て使える魔法があったことに気付いた。
「いいわよ。じっとしていて」
ユウはわくわくしながら、母親の言われたとおりにした。母親は、目を閉じながら何かをぶつぶつ言い始めた。そして、強く言い放った。
「『白の
一瞬、ユウには何が起こったのかわからなかった。しかし、体にはほとんど痛みがないこと、包帯などが自然と剥がれ落ちていくことに気が付くと、何が起こったのか悟ることができた。自分の傷が、たちまちのうちに治っていたのだ。
「すごい、お母さん! もう一回やって!」
「ダメよ。これは一回で、どんな傷でも治してしまう魔法なんだから。二回目を唱えても、効果はないわよ」
母親からの拒否に、ユウは頬を膨らませた。
「でも、これからあなたが学校に行行けまで、練習はさせてあげるわ。もちろん、お母さんがつきっきりでね」
母親が教えてくれると言ったため、ユウは先ほどとは一転して笑顔になった。
そんな娘を見た母親は、現金な子ね、と思った。
学校を休んでいた間、ユウは母親と一緒に魔法の練習をした。その結果、母親が最初に見せてくれた治癒魔法の他にも、攻撃に使える小規模な黒魔法、しばらく無敵になれる魔法などを覚えた。母親も、自分の娘は物覚えがいいことは知っていたけど、これほどまでとは思わなかったと驚いていた。
そして、ユウが学校に再び通い始める日の朝、母親は娘に一冊の分厚い本を渡しながら言った。
「いい? 学校内では、攻撃する魔法は使わないこと。魔法を使うときは、その本を使うこと」
「うん、わかったよ。いってきます!」
「はい、いってらっしゃい」
そうして、母親に見送られながら、ユウは元気に登校して行ったのだった。
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