第7話 南洋の大怪獣
「
三神は見る見る身体を人間サイズに縮めると、船の甲板に上がり込んで来た。三神の親はいずれも分裂増殖で彼等を産み落とされたのだが、親の一部から誕生したせいか三神とも親に似て特撮好きだった。中でも女神のZdolliga様は特に大の特撮好きで、信者の所で見る事が出来るのに、今度隔週で刊行されるDVD付の、いやDVDに解説の付いたイタリア系出版社の雑誌を生贄に代わる供え物に指定していた。
自衛隊員二人が談笑しながら三神の横を通り過ぎる。二人の視界にはちゃんと三神の姿は入っている。別にゴジラの着ぐるみを着込んだ者が三人居るなどとは想ってはいない。彼等が何物なのか、この船に乗っている人間は全て承知している。だが、船の運航に携わっている自衛隊員達は、甲板で映画の怪獣そっくりの姿と行き会っても素知らぬ顔で通り過ぎているのだ。この砕氷船ゆきはらでは、既に見慣れた光景だった。自分だけ場違いだな、と佐藤は想う。この船に乗っているのは殆ど学者か自衛隊員だが、佐藤は神職だった。長野県の山間に在る町の神社で
『大怪獣バラン』のDVDを取りに自分の船室に入った途端、「あ、サトウだ。今日は~!」と云う声がして振り向くと、ねっとりと蠢く不定形の塊とドロドロとした不定形の塊とぐちゃぐちゃした不定形の塊と・・・つまり、どれがどれやら変わり映えのしない三つの不定形の塊がやって来た。「見終わったよ」と先頭の塊から伸びた触手がDVDのパッケージを渡す。Zdolliga様の子供達で外見からは判別不能だが、甲板を進んで来る時は長男次男三男の順なので先頭から
「それ、母様の親にそっくりだよね」Maakeeb様が云うと、「いや、
さて、佐藤がZdolliga様に『大怪獣バラン』のDVDを渡すとZodiglla様と二人(?)連れ立って船から出て行く。
七尾が到着しマンタと蝙蝠を掛け合わせた如き姿のMlzdrzkl様の姿にも、自衛隊員達はまるで関心を寄せ無かったが、流石に南極圏を離れる佐藤に対して別れの挨拶くらいはしてくれた。
日本に戻って佐藤は車幾郎が失踪したのは昨年の暮れ近くらしいと知った。行方知れずと成ってから二ヶ月も放っておかれたのは、この町ならではの事情が有る。召喚に失敗して肉体そのものが消滅した、召喚に成功したものの呼び出した何かに喰われたり浚われたりした、うっかり異世界に流されてしまった、などと云う事例が少なく無いのだ。失踪届けが出されるのは、大抵、何が起きたか判明してからだ。もっとも判明すれば、それは幸運な場合と云った具合なのだが。それに幾郎は経歴に依ると既にあちこちでトラブルを起こしていた様で、特定の神々の信者達に命を狙われてもおかしく無さそうだった。佐藤は消えた幾郎の事は考えずに業務にいそしむ事にした。
Dozaligl様に渡そうとしていたDVDを持って行ったのがOzlagel様、Gimega様、Maakeeb様の三神だと佐藤が確信出来たのは日本に戻って数日後の事だった。
夜半過ぎに佐藤が夕食を摂りながらテレビを見ていると、海外の「笑える」ニュースばかりを集めたコーナーで「南の海の孤島で怪獣が出たそうです」とアナウンサーが笑いながら伝え、画面が切り替わり白人の男性と黒人の女性が現れて如何にもわざとらしい「何と皆さん、南洋の孤島に突如大怪獣が出現ですよ!それも三匹も!」「まあ。それではトリオ・ザ・大怪獣と云う訳なんですね」と云う男女の会話が、恐らく声優が喋らされているのだろうが、テレビから聞こえて来る。原語では何と云っているのか判らないが画面上の二人の表情や身振り手振りから、似たり寄ったりの事を話しているのだろうと予測出来た。そして旅行客が撮ったと云う何枚かの写真が画面に映り、佐藤は飲んでいた味噌汁を噴き出してしまった。
写真に映る怪獣達の姿は陸に直立して歩く巨大なカミナリイカに、巨大なカルイシガニに、巨大なマタマタガメだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます