第5話 Tsathogguaの落とし仔達
新しい神々が増えていた。通りのあちこちに小さな社が建立され、あまり馴染みの無い神々が祀られる様に成っていた。彼等は
さて、此処でわたしの出番と成る。わたしは家も職も持ってはおらぬが、物事を順序立てて考え、噛み砕いて説明するのが得意なタチで、その為、弁舌屋とか弁護屋とか呼ばれる技を
塔内の螺旋階段を上がり、腐葉土の熱と臭いを足元に感じながら小路を進むと、そこも又、螺旋状の小路だった。夏で無くて良かったと、わたしは想った。まだ寒さが残る春に歩いていてさえ、汗が額から滴り落ちる程の熱気の中を歩いていると、向こうから黒い流動体状の存在が二体やって来るのに行き会った。『形無しの裔』達だ。挨拶をすると二体共、気さくに挨拶を返してくれた。既に神々として祀られているかも知れぬ相手だけに、きちんとした礼を尽くさねば成らず出身と姓名を名乗ると、片方はTsathogguaから数えて五十九代目の落とし仔で
階段を下から屋上へ上がるよりも、屋上をぐるぐる歩く方が長く掛かった気がするが、兎に角、目指す妖術師の庵には着いた。扉代わりに垂れ下がる布を捲ると、
数日後、妖術師の元を再び訪れるとどの池も空っぽに成っていた。皆、死んでしまったのだろうか、そう想うと何処か物悲しかったが、兎に角、仕事だ。それにしても拍子抜けする程、交渉自体大した事の無い仕事なのだが、どうやら顔役の連中、此処に来るのが嫌だったらしい。ああしたホムンクルスを作るぐらいの妖術師だ。多分、此処でもっと恐ろしい物を見たり、恐ろしい眼に遭った者が居たのだろう。庵を訪れると幾人もの妖術師達が集まっており、問題はどうやら解決したと云う。そして、その解決は彼等の師に依ってもたらされたとも云った。それを聞いて想わず貴方達の師はEibonでは無いかと問うと、その通りだと答が返って来た。Cycranoshの師とは通信が可能なのだと云う。そしてEibonが、Cycranoshの小さき神々が住民達に取り違えられる問題を解決していたと云うのだ。皆揃って蛙の如き姿をしたCycranoshの小さき神々は『形無しの裔』と似た様な、或いは同じ存在らしく、Eibonが教えた様々な地球の生き物の姿を個別に模す事で、取り違えを免れる様に成ったと云う。弟子達は師匠がCycranoshから送って来る通信で承知していたが、地球に居る『形無しの裔』達の間でも如何にしてか知られていたらしい。わたしが妖術師達の用意した解決策を拝聴していた処、黒い流動体が二体入って来て、そこで蛙の如き姿に変じ、庵の主に挨拶をすると、わたしに向かって親しげに挨拶して来た。それで先日の何とか云う二体だと判った。いや、今度祀られるのだから二柱の、と云うべきか。彼等は、今、正にわたしが聞いていた解決策を訊ねに来たのだった。そして妖術師達は予測していた。師匠から、いずれ『形無しの裔』達がその件で相談に行くだろうと示唆されていたのだ。実際、この二柱が特別なのではなく、この後、この二柱に続いて多くの『形無しの裔』達が、続々と弟子達の元を訪れる様に成って行くのだが、この時のわたしはそんな予測はしておらず、只、この二柱は向こうから来てくれたが、他の連中はどうする積りなのだろうか、と想ったりしていた。取り敢えずBatomuhorutoとBavhorrabhyaの二体、いや二柱が妖術師達と相談に入ってしまったので、これは又、出直そうと想いわたしは腰を上げた。基本だけでも判ったのだから、一応、顔役達の所に赴いてその事を伝えたのだが、果たして顔役達はわたしと同様、巷の『形無しの裔』達にどうやってその話を勧めるのかと云う事に、更には『形無しの裔』達が気に入る姿が見つかるのだろうか、そもそもその辺りの鳥獣の姿形を『形無しの裔』とは云え神々に勧めたりして失礼に当たらぬのだろうか、と面倒な方向に話が流れ始めたので、Cycranoshの『形無しの裔』達に、かのEibonが相談を受けて成功した方策なのだからと、わたしは本分を尽くして説得し納得させた。本領発揮と云うヤツだが、考えてみると、何で雇い主相手に我が本領を発揮せねば成らぬのか、妙に納得の行かぬ事だった。
しかしまあ顔役の手前、妖術師共の様子を見ておこうと、再び庵を訪れたのはそれから七日程してからだった。既に馴染んで来た屋上の螺旋状の小路を歩いていると、見慣れた池に再び獣達の姿が有った。又、作ったのか?ホムンクルスとやらを。しかし前に見た時とは違う姿の物も少なからず居た。先ず人間、或いは人間の娘の姿をした者達は見掛け無かった。熊は前と同じ様な熊が居たが、その熊と一緒に全身真っ白な毛に覆われた熊が池の湯水に浸かっていた。猿も大きな河鼠も居なかった。鹿は居たが色合いが妙におかしいと想っていたら、池から出て来た姿に仰天させられた。頭部から顔に掛けて明るい茶なのだが首の辺りが橙に成り、首から下は尻の方に掛けて赤、黄、緑、青に彩られ、背から胴の三倍くらいの長さが有りそうな孔雀の如き極彩色の鮮やかな翼が伸び、しかもその翼は注意深く観察すると一枚翼だった。鳥なら二枚、蟲なら四枚は有るものと想っていたわたしとしては、これには益々仰天させられた。あの妖術師、一体、何を考えてこんな物を作ったのだ、とわたしは想った。なので、そいつが「ねえ、わたし、そんなに綺麗?」と女の言葉で訊いた時は即座に言葉を返せ無かった。辛うじて首を縦に数回振ったのが、つまりは幾度か頷いてみせたのが、やっとだった。
「わたし、
漸くの事で既に見慣れた庵が視界に入って来て、又、驚かされた。黒い流動体か蛙を想わせる姿の物達が出入口の手前に列を成し、出入口からは時折、動物達が出て来る。人間の言葉を話す動物達だ。猪(
庵の外へ出るとのんびり日向ぼっこしていた蝙蝠状の翼を持ち
帰る途中、塔の階下へ降りるぽっかりと開いた階段穴に向かっていて先程の黄金の蝲蛄に出会ったが、先程の四倍以上の大きさに成っていたので驚いた。「うん。もう少し大きく成ってみようと想うんだ」と蝲蛄は語り「そうそう、我が名は、え~と・・・」と少し考え込んでから「・・・|Dettldottlbuttlghakkel《デットルドットルブットルガッケル》だった・・・確か・・・あ、そうだ。手伝って欲しい」何を?と訊ねる前に鏡を挟んだ黄金の鋏が眼の前に突き出される。「これを持っていてくれ。
あの妖術師は百日と云ったが実際は百二十一日程掛かった。だが、百日目を越える頃には既に事態が眼に見えて収束に向かっていたので顔役達もあまり気にしなく成っていた。そして百二十一日目が終わる頃に最後の小神が姿を得た。
かくして混乱は収拾されたが、最初の二柱の神々だけは、新たな形を選んだ後もしばしば信者達に取り違えられていた。ちなみにBatomuhorutoが選んだのは
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