第5話 Tsathogguaの落とし仔達

新しい神々が増えていた。通りのあちこちに小さな社が建立され、あまり馴染みの無い神々が祀られる様に成っていた。彼等はZottakwaゾタクワ神の眷属だと云う。云われてみれば眠たげな眼、何処か樹懶ナマケモノを想わせる姿、丸々と太った体形、蝙蝠コウモリの如き顔立ち、いずれを取ってもZottakwa神に似ている。いや、Zottakwa神の小型版と云っても良いかも知れぬ。流石にZottakwa神の様な貫禄や力強さには十歩も二十歩も引くとしても。しかしその分、日常の些細な祈りを捧げる相手として彼の神々は民衆にすっかり親しまれていた。いや、Zottakwa神と云い続けていたが、今は別な呼び名の方が主流に成っている。Yhoundehイホウンデー女神の信仰が衰退して行く中で、逆にZottakwa神の信仰がHyperboreaヒュペールボレア全土で増大し、それにつれてKnigathinクニガティン Zhaumザウムの為に放棄されたCommoriomコモリオム市を中心に呼ばれていたZottakwa神と云う名よりも大陸各地に伝わっていたTsathogguaツァトッグァ神と云う名にZottakwa神の名は塗り替えられて行った。それと同時に『形無しの裔フォームレス・スポーン』と呼ばれる不定形の存在の事が囁かれる様に成って来たが、これはのTsathoggua神の住まう地底世界に多く見られる存在で、Tsathoggua神の従者であるとも落とし仔であるとも云われていた。そして、この『形無しの裔』達が徐々に人間の前に姿を見せるに従い、彼等は個々に祀られる様に成って来た。だが、此処で一つ問題が有った。不定形の姿では祀り辛いのだ。幸い、彼等も地上では常に黒っぽい流動体では不便が有るらしく、しばしば固体化し、それが前述したZottakwa神の、いやTsathoggua神の小型版と云った姿なのだ。しかし、此処で又、新たな問題が有った。固体化しても流動体でも個々の区別が人間には着かず、しばしば信者が自分達の神と他の神を取り違えると云う事態が発生し、中にはそれで怒った神に喰われてしまうと云う事故も発生していた。人々は妖術師ソーサラー達に、正確には二十年前にCycranoshキュクラノーシュに渡った高名な妖術師Eibonエイボンの弟子達である妖術師達に相談を持ち込む事を考えた。Tsathoggua神の司祭でもあったEibonの弟子達ならば、何か妙案を持ち合わせておらぬだろうかと云う事で。

 さて、此処でわたしの出番と成る。わたしは家も職も持ってはおらぬが、物事を順序立てて考え、噛み砕いて説明するのが得意なタチで、その為、弁舌屋とか弁護屋とか呼ばれる技を生業なりわいにしていた。弁舌屋ギルドなど耳にした事が無い?いや、だからこれは正式な職業では無いのだ。芸人と大して変わらぬ。芸人と云っても芸人ギルドに属し劇場で芸を見せる様な者達ではなく、街や村のあちこちで芸を見せて日銭を稼ぐ連中と一緒だ。栄えた街では碗を置いてその前に座っているだけで喰っている連中と一緒だ。現にわたしも弁護の依頼が無い時は、そうやって日々の生活に余裕の有る者達の幾許かのお零れを頂戴して喰っている。そのわたしにEibonの弟子達の所に相談に行って欲しいと依頼が来たのだ。碗を出して通り掛かりの民がその中に金を入れるに任せていた処、不意にわたしの前に街の顔役達が立ったのだ。かくしてわたしはEibonの筆頭弟子だった妖術師を訪ねる事と成った。彼の庵は街のど真ん中に在った。行政の建物と高級商店と名士達の屋敷がひしめき合っている地区で、役人達の宿舎に成っている低く面積の大きな塔の屋上に空中庭園が設けられ、その中の樹々に隠れる様にして建てられていた。塔の丁度左右は何やら建築中で、この街では新築だの改築だの解体だの珍しくは無いが、どうやら両方共、小規模ながら社の様だった。

 塔内の螺旋階段を上がり、腐葉土の熱と臭いを足元に感じながら小路を進むと、そこも又、螺旋状の小路だった。夏で無くて良かったと、わたしは想った。まだ寒さが残る春に歩いていてさえ、汗が額から滴り落ちる程の熱気の中を歩いていると、向こうから黒い流動体状の存在が二体やって来るのに行き会った。『形無しの裔』達だ。挨拶をすると二体共、気さくに挨拶を返してくれた。既に神々として祀られているかも知れぬ相手だけに、きちんとした礼を尽くさねば成らず出身と姓名を名乗ると、片方はTsathogguaから数えて五十九代目の落とし仔でBatomuhorutoバトムホルト、もう片方はTsathogguaから数えて六十九代目の落とし仔でBavhorrabhyaバヴォッラビァと名乗った。近日、近所で祀られる予定なのでこの界隈で自分達の司祭を引き受けてくれそうな人間に挨拶に来たのだと云い、わたしにもよろしくと云ってそのまま去って行った。さてはこの塔の左右で建築中だったのは、あやつ等の社だったかと気付いたのは、彼等の姿が見え無く成ってからだった。その先を尚も進むと池が在り中に裸の娘達が入っていた。皆、美しい娘達だった。池の水は指で触れてみると、人肌よりやや温かいぐらいだった。池に流れ込んでいる小川の水も結構温かかった。土中の熱で温められているのだろうか。湯水の流入口とは反対の方に流出口が在ったが、そこから流れ出て行く湯水は人肌よりも低いくらいだった。娘達に声を掛けてみたが、わたしの言葉が理解出来無いのか、只、笑うのだった。それも幼児の如き無邪気な、端的に云って知性のまるで感じられ無い白痴の如き笑いを浮かべるのだ。わたしはそれ以上娘達に構おうとせず、その場を立ち去った。そのまま暫く螺旋状に歩いていると、度々池が在り、いずれも人肌程度の湯水で満たされていた。そして、或る池では熊が湯を浴びており、或る池では鹿が、或る池では猿が、或る池では鼠の親戚らしき人間の子供程の大きさの動物が、河鼠とでも呼べば良いのだろうか、そんなのが池の中に入っていた。動物達の表情から、皆、気持ちが良さそうである事が判った。こうした湯水を湛えた池が街にも有れば、冬の寒い朝晩など、凌ぎ易いのでは無いだろうかとも想えたが、温度を維持するのも大変な気がした。そんな事に回せる薪が有れば、その分、室内や身の回りを暖めたいと、皆は想うだろう。

 階段を下から屋上へ上がるよりも、屋上をぐるぐる歩く方が長く掛かった気がするが、兎に角、目指す妖術師の庵には着いた。扉代わりに垂れ下がる布を捲ると、くだんの妖術師は庵の中に居た。大きながっしりとした石造りの机の後ろのこれまたがっしりとした大きな木製の椅子に腰掛け、背後には黄金のTsathoggua像が鎮座ましましている。先ず、顔役達から預かった土産代わりの大陸南部で穫れる果物の干した物を渡すと、どうやら好物だったらしく彼は満面の笑みを浮かべて干し果物の束を受け取った。それから相談を聞くと、そう云う事で有れば皆と相談してみると云った。二、三日したら様子を見に来てくれと云うので、わたしは帰ろうとし、来る途中で眼にした池の光景を想い出して訊ねてみた。すると、あれ等は一種のホムンクルスだと云う。人間の血、熊の爪、鹿の角、猿の毛、熱帯の河に棲息する大鼠の歯と云ったものから、その本体とまるで同じ姿と性質の物を複製したのだと云う。但し、動物は成長して行くと同時に知能も上昇し、体験から学習して行動のレパートリーを増やして行くが、ホムンクルスは一気にあの姿に成長するので知能も行動も赤子からせいぜい幼児並なのだと云う。ならば、これから少しずつ学習させれば・・・とわたしが云うと、のホムンクルス共は長くて一年程度しか生きられ無いのだと云う。そして、その一年はそろそろ尽きる頃なのだそうだ。つまりあの連中は自我が育つ以前に、自分達が何物であるのかも知らず、死が訪れても恐らくそれが何であるのかも判らずに死んで行くのだ。それも下手をすれば今日明日にでも。不憫な事だと想い、彼等の無邪気に湯水に寛ぐ様子を眺めながら帰路を歩んでいると、逆に何も判らぬまま生まれ死んで行く方が幸せかも知れぬと云う風に、わたしの考えは何時の間にか変わってしまっていた。

 数日後、妖術師の元を再び訪れるとどの池も空っぽに成っていた。皆、死んでしまったのだろうか、そう想うと何処か物悲しかったが、兎に角、仕事だ。それにしても拍子抜けする程、交渉自体大した事の無い仕事なのだが、どうやら顔役の連中、此処に来るのが嫌だったらしい。ああしたホムンクルスを作るぐらいの妖術師だ。多分、此処でもっと恐ろしい物を見たり、恐ろしい眼に遭った者が居たのだろう。庵を訪れると幾人もの妖術師達が集まっており、問題はどうやら解決したと云う。そして、その解決は彼等の師に依ってもたらされたとも云った。それを聞いて想わず貴方達の師はEibonでは無いかと問うと、その通りだと答が返って来た。Cycranoshの師とは通信が可能なのだと云う。そしてEibonが、Cycranoshの小さき神々が住民達に取り違えられる問題を解決していたと云うのだ。皆揃って蛙の如き姿をしたCycranoshの小さき神々は『形無しの裔』と似た様な、或いは同じ存在らしく、Eibonが教えた様々な地球の生き物の姿を個別に模す事で、取り違えを免れる様に成ったと云う。弟子達は師匠がCycranoshから送って来る通信で承知していたが、地球に居る『形無しの裔』達の間でも如何にしてか知られていたらしい。わたしが妖術師達の用意した解決策を拝聴していた処、黒い流動体が二体入って来て、そこで蛙の如き姿に変じ、庵の主に挨拶をすると、わたしに向かって親しげに挨拶して来た。それで先日の何とか云う二体だと判った。いや、今度祀られるのだから二柱の、と云うべきか。彼等は、今、正にわたしが聞いていた解決策を訊ねに来たのだった。そして妖術師達は予測していた。師匠から、いずれ『形無しの裔』達がその件で相談に行くだろうと示唆されていたのだ。実際、この二柱が特別なのではなく、この後、この二柱に続いて多くの『形無しの裔』達が、続々と弟子達の元を訪れる様に成って行くのだが、この時のわたしはそんな予測はしておらず、只、この二柱は向こうから来てくれたが、他の連中はどうする積りなのだろうか、と想ったりしていた。取り敢えずBatomuhorutoとBavhorrabhyaの二体、いや二柱が妖術師達と相談に入ってしまったので、これは又、出直そうと想いわたしは腰を上げた。基本だけでも判ったのだから、一応、顔役達の所に赴いてその事を伝えたのだが、果たして顔役達はわたしと同様、巷の『形無しの裔』達にどうやってその話を勧めるのかと云う事に、更には『形無しの裔』達が気に入る姿が見つかるのだろうか、そもそもその辺りの鳥獣の姿形を『形無しの裔』とは云え神々に勧めたりして失礼に当たらぬのだろうか、と面倒な方向に話が流れ始めたので、Cycranoshの『形無しの裔』達に、かのEibonが相談を受けて成功した方策なのだからと、わたしは本分を尽くして説得し納得させた。本領発揮と云うヤツだが、考えてみると、何で雇い主相手に我が本領を発揮せねば成らぬのか、妙に納得の行かぬ事だった。

 しかしまあ顔役の手前、妖術師共の様子を見ておこうと、再び庵を訪れたのはそれから七日程してからだった。既に馴染んで来た屋上の螺旋状の小路を歩いていると、見慣れた池に再び獣達の姿が有った。又、作ったのか?ホムンクルスとやらを。しかし前に見た時とは違う姿の物も少なからず居た。先ず人間、或いは人間の娘の姿をした者達は見掛け無かった。熊は前と同じ様な熊が居たが、その熊と一緒に全身真っ白な毛に覆われた熊が池の湯水に浸かっていた。猿も大きな河鼠も居なかった。鹿は居たが色合いが妙におかしいと想っていたら、池から出て来た姿に仰天させられた。頭部から顔に掛けて明るい茶なのだが首の辺りが橙に成り、首から下は尻の方に掛けて赤、黄、緑、青に彩られ、背から胴の三倍くらいの長さが有りそうな孔雀の如き極彩色の鮮やかな翼が伸び、しかもその翼は注意深く観察すると一枚翼だった。鳥なら二枚、蟲なら四枚は有るものと想っていたわたしとしては、これには益々仰天させられた。あの妖術師、一体、何を考えてこんな物を作ったのだ、とわたしは想った。なので、そいつが「ねえ、わたし、そんなに綺麗?」と女の言葉で訊いた時は即座に言葉を返せ無かった。辛うじて首を縦に数回振ったのが、つまりは幾度か頷いてみせたのが、やっとだった。

「わたし、Valounヴァロウン-Galuunガルウン-Rhu'nqyuttaルウンキュッタ、よろしくね」他に居たのは蝶の如き翼を背、いや身体の上部方向に生やした極彩色の錦蛇ニシキヘビ(どうやら女性らしくわらわの名はGhnizhnicchelグニズニッケルvhobolvodhonbilosヴォーボルヴォドーンビロッシャ、憶えておくが良い、と云っていた)に、鷲の如き純白の翼を背に生やし人の様に直立する雪豹(我はDagdaoダクダオavibavyjygyssthoアヴィバヴィジギッストである、と云っていた)に縞馬ゼブラ模様の剣歯虎サーベルタイガー(我輩はGglglllglググルグルルルグルである、と云っていた)、人間の子供くらいの大きさの鳩(わたしはSvdfbjlkhスヴドフブジルクー-Deyversディーヴェルスよ、と云っていた)やら、蝙蝠の様な翼を背に生やし、蟹の鋏の様な二本の腕を持ち頭部から背や魚のひれの如き小さな翼に掛けて黒く腹部が白く何処か人を想わせる直立した子供くらいの大きさの鳥類(皇帝の如き威厳を漂わせてわたしはDogyudootpbnallドギュドートプブナル-Pagdopababupurallパグドパバブプラルである、と云っていた)と、その横には頭に一本角の有る鰐(俺、Dedevidbbbyaデデヴィドッビビァ、と云っていた)、それに一見普通の河馬(わたくしHenerodovangヘネロドヴァングですの、よろしくね、と云っていた)、大きな陸亀(Wshktzmmウシュクツム-Qvqvuwfbクヴクヴーウフブ-Jfgcbpmsユフグクブプムスと云うのが名前だ、人間よ憶えておいてくれ給え、と云っていた)、人間よりも大きな団子蟲ダンゴムシ(わしはKkalttmカルットゥムだ、よろしく、と云っていた)、頭足類の如き多数の触腕を背から生やした真ん丸いマンモス程の大きさのフグ(我が名はMhsororollelxhムソロロレルズーと云う、と云っていた)などが行く先々の池には居た。それにしても鰒は海水の生き物の筈だったが。

 漸くの事で既に見慣れた庵が視界に入って来て、又、驚かされた。黒い流動体か蛙を想わせる姿の物達が出入口の手前に列を成し、出入口からは時折、動物達が出て来る。人間の言葉を話す動物達だ。猪(Zyzbkstqvzyzジズブクストクヴジズと名乗っていた)、人間よりも大きな兎(Gguimqualestipグギムクアレスティプと名乗っていた)、矢張り人間よりも大きい山嵐(Sinothogerielシノトゲリエル-Thorazaquidomトラザキドムと名乗っていた)、と次々に出て来るのだ。何事だ、と想ったものの視界に入った情景から、大体見当は付いていた。一寸、ご免よ、と云いながら布を捲ると、中では妖術師の正面で黒い流動体が、四つの鋏を持った蝲蛄ザリガニの姿に変じる処だった。巨大な蝲蛄の眼が妖術師に向けられている。色は流動体の時のままの黒だった。すると、その横に居た、恐らくは蝲蛄より一足先に変じたと思しきそれぞれ色違いの五つの首を持つ鰐(後に名前はChllothojidellクロトジデルbgrunghluggブグルングルッグと判った)が、人間の言葉で色が変わっておらぬぞと云った。言葉を発したのは、一番端の白い首と、その反対の端の黒い首だった。「あっ、そ~か~」と、四つ鋏の蝲蛄も人間の言葉で間延びして答える。「え~と」蝲蛄の頭部がきょろきょろと周囲を見回す。その動きが止まったのは、庵の中を一回り見渡して妖術師の方を向いた時だった。正確には妖術師の背後に置かれた黄金のTsathoggua像に向いた時だった。蝲蛄の全身が見る見る金色に変じて行く。「これでよ~し、あ、でも、も少し大きい方が良いかな。だったら・・・」「外でやれっ!」途端に妖術師が一喝し黄金の蝲蛄は「は~い」と出て行こうとする。しかし既に人より若干大きいくらいの姿で行列している流動体や蛙の形の者達を、幾体か撥ね飛ばしてしまっていた。その後、行列の流動体やら蛙の形の連中が、中に居た妖術師と相談し、どうやら妖術師の思考を読み取ったり絵入りの博物本を見せられたりして、様々な姿に変身して行くのを眼にした。妖術師の思考を読み取れると云う利点も有るのだろうが、皆、手際良く様々な姿に変身して出て行く。お陰で、行列は、アッ、と云う間にけた。とは云っても昼間に来て、既に黄昏どきではあったが。最後に出て行ったのは沢山の偽足でちょこまかと歩く黄緑色に桃色の縞が入った提灯チョウチン鮟鱇アンコウの姿に身を変えたUujjjkkウーッイイーック-Kkueeeックィイーと云う落とし仔だった。それから件の妖術師に話を聞くと、彼だけでは無くEibonの弟子筋に当たる妖術師総出で問題に対処しているとの事だった。つまり、他の妖術師が何処に居るのかは知らないが、この町だけでも十人以上は居るのは確実なので、今日も町内の十ヶ所以上で、この様な光景が展開していた事に成る。妖術師達の計算ではあと百日もすれば、事態は収束に向うだろうとの事だった。Tsathoggua神の落とし仔と呼ばれる小神達は、そんなに巷に溢れていたのか、と今更ながら驚かされる事実だった。

 庵の外へ出るとのんびり日向ぼっこしていた蝙蝠状の翼を持ち天辺てっぺんに白い花を咲かせた黒く真ん丸い仙人掌サボテンがわたしに人懐っこく声を掛けて来た。彼も落とし仔の一柱でXxxdxxxgxxxxxxxlrlズズズドズズズグズズズズズズズルルルと名乗り、わたしが来る途中の池で見掛けた動物達も落とし仔達の変身した姿だと云った。流石に今の時点では、わたしもそうでは無かったかと想い当たっていた処だった。彼は又、白い熊の姿はBultnerllagoブルトネルラゴ、黒い熊の姿はAvrillbolbiyonnアヴリルボルビヨッンであるとも教えてくれた。

 帰る途中、塔の階下へ降りるぽっかりと開いた階段穴に向かっていて先程の黄金の蝲蛄に出会ったが、先程の四倍以上の大きさに成っていたので驚いた。「うん。もう少し大きく成ってみようと想うんだ」と蝲蛄は語り「そうそう、我が名は、え~と・・・」と少し考え込んでから「・・・|Dettldottlbuttlghakkel《デットルドットルブットルガッケル》だった・・・確か・・・あ、そうだ。手伝って欲しい」何を?と訊ねる前に鏡を挟んだ黄金の鋏が眼の前に突き出される。「これを持っていてくれ。土星キュクラノーシュに向かうから。両親を訪問する積りなんた」一寸待て。こいつは『形無しの裔』では無かったのか?いや『形無しの裔』にも雌雄の別が有って交接して子供を作るのか?只でさえその種の事には専門外のわたしには良く判らなかった。取り敢えず鏡を手にしていると、黄金の蝲蛄は何やら呪文を唱え出した。鏡で誰かを呼び出して連れて行って貰うのかな、と想っていると不意に黄金の蝲蛄の巨体が消失した。有難う、と云う響きを残して。


 あの妖術師は百日と云ったが実際は百二十一日程掛かった。だが、百日目を越える頃には既に事態が眼に見えて収束に向かっていたので顔役達もあまり気にしなく成っていた。そして百二十一日目が終わる頃に最後の小神が姿を得た。

 かくして混乱は収拾されたが、最初の二柱の神々だけは、新たな形を選んだ後もしばしば信者達に取り違えられていた。ちなみにBatomuhorutoが選んだのは浣熊アライグマの姿、Bavhorrabhyaが選んだのはタヌキの姿だった。

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