第3話 お供物です

 「・・・実際、様々な調査でもShathakシャタク様の神殿や崇拝の跡は発見されていますが、Chushaxクーシャクス様やZishaikジシャイク様の神殿や崇拝の跡は今のところ発見されていません。勿論、それだけでHyperboreaヒューペールボレアで崇拝が無かったとする事は出来ませんが、一度はChushax様とZishaik様の名を挙げた事のあるPnomプノム師がTsathogguaツァトッグァ様の家系図を書き記す際、Shathak様の名前しか残さなかった事は事実です。そこからしてHyperboreaではChushax様とZishaik様はShathak様よりも古い神であったとする説が有ります。即ちPnom師よりも古い時代の何処かでChushax様やZishaik様の名がTsathoggua様のお妃として挙げらており、後、Shathak様に取って代わられたと云う可能性が有るのです。この場合、後に発見されたShathak様の神殿が実は古い時代にChushax様かZishaik様の神殿であった可能性が有るのです。不幸な事にPnom師の研究家としても今日知られているEibonエイボン師は、Tsathoggua様の家系にはあまり興味が無かったらしくて詳しく調べずZhothaqquahゾタクァ様、即ちTsathoggua様のお妃の名すら記していないのです。尤も近年、彼はTsathoggua様以外の神々に対して尊敬の念を抱いていなかったのでは無いかと云う説が起こり、土星に行ったEibon師がかの地から弟子達に連絡をし様々な事実を伝えておきながらTsathoggua様の眷属について大して教えていないのも、その為であると・・・」

 人間の先生が黒板に凄い勢いで書きながら熱心に話している。四条しじょう礼一れいいち先生だ。わたしの通う女子高で只の人間の先生と云うのは珍しく、中々教育熱心なのだが、熱が籠もって来ると黒板に向かって講義してしまう、つまり黒板に書きまくりながら話すのだ。わたしも一応黒板に書かれた事柄をノートに書き写してはいる。だが先生の話迄は書き取ってはおらず、これでは後でノートを見ても良く理解出来ぬ事は必然なのだが、それは充分判っているのだが、そもそも真面目に先生の話を聞いていないので書き取る事はまずもって不可能、だから授業内容もあまり良く理解していない。それがわたし阿澄あすみ杏子だった。尤もそれで成績が悪いかと云うとその様な事は無い。テスト前には仲の良い井口紀子か上坂明子からノートを借りて勉強し、それでそこそこの点数を取っているのだ。つまり自分で云うのも何だが、わたしは要領が良く頭は決して悪く無いのだ。

 授業が終わりわたしは大きく伸びをした。今日の授業はこれで終わりだった。わたしは教室の後ろに眼をやった。修学旅行の写真が貼られている。南極へ行った連中は大型の野生のShoggothショゴスと一緒の記念撮影をして来ていた。巨大かつ野生でそれ也に危険だったらしいのだが、班の日笠ひがささんにすっかり懐いてしまったそいつを連れて帰って来たと云うので、一寸した話題に成ってはいた。だが、この写真の中で一番目立っているのは、何と云ってもこの土星組では恒例のTsathoggua様の叔父に当るHziulquoigmunzhahフジウルクォイグムンズハー様と一緒に皆が写っている記念写真だ。一方、わたし達はと云えば校庭で皆でByakheeバイアキーに乗っている写真だけだ。仕方無い。わたし達の行った先はCelaenoケレーノ星系の大図書館。人は肉体を伴った状態ではByakheeに宇宙空間迄連れて行って貰えない。Byakheeが宇宙迄運べるのは人の魂のみだ。だから、Celaeno星系迄行きながら、そこでの写真は一枚も無い。尤も肉体を纏ったまま誰も来ていないかと云うとそんな事は無く、肉体を纏ったままそこに住み着いている人も居た様だったから、何か手は有るのだと想うが。

 そうそう、危険かも知れないと云われている盲目の偏執狂と云う人にも会った。別段危険でも何でも無く色々と教えてくれた。嘘か本当か昔はMiskatonicミスカトニック大学の教授だったとか、米国上層部にコネが有ってR'lyehルルイエーに原爆を落とさせた事が有るとか話してくれた。穏やかなお爺ちゃんだったけど、Cthulhuクトゥルゥ様の事に成ると違った。最初の内はとても穏やかだったのだけれど、わたしがCthulhu様は生きておいでだと云うと、不意に激昂して嘘だ!奴は死んだのだ!と叫び出した。どうやらR'lyehに落とした原爆でCthulhu様を葬ったと想い込んでいるらしい。怖く成って、そうですよね、わたしの勘違いでした、と云うと元の穏やかで知的なお爺ちゃんに戻ってくれたが、危険かも知れないと云うのは、今の様な状態の時に出会った誰かの情報なのだろう。でもパターンが判れば御し易い。偏執狂のスイッチが入るのはCthulhu様の名前が出た時だけだ。どうやら個人的に執着が有ったらしく、もしかしたら盲目に成った事と関係が有るのかも知れない。いずれにせよ、今は少しばかりイッちゃっているだけの只のお爺ちゃんだ。「Cthulhuだけはいかんのじゃ~!」と云う叫び声は今でも耳に残っている。地球では前途有る若者達を次々と仲間に引き入れた挙句、目的(原爆をR'lyehに落とした事)を達成した途端、彼等を見捨てて死ぬに任せた極悪非道な人物とも云われたりしているそうだが、結局は、少しイッてしまっているので目的を遂げた途端、彼等の事が忘却の彼方に行ってしまっただけなのだろう。

 話を戻して、修学旅行限定で無い写真だったら、一応、わたしもそれ也に自慢出来る写真も有る。教室の真後ろの壁は主に歴代修学旅行の写真と遠足などの写真だが、廊下側の壁は皆が持ち寄った写真だ。ドアのすぐ横にはTsathoggua様の子孫で白と黒の配置が逆転した大熊猫ジャイアントパンダの如き姿に、両手の先と蛇腹状に長く伸びた尻尾の先の鋏状の鉤爪、背中の蛾の如き灰色の二枚の翅が特徴的なUnidovastdeltganggrウニドヴァストデルトガンッグル様の写真が貼られている。Tsathoggua様の落とし仔の子孫だと云うのに余りのんびりした性格では無いらしく、中国は四川省の奥地でこの写真を撮って来た遠藤さんは危うく攻撃されかかったそうだ。同行していた小倉さんが咄嗟に四つの翼持つBbtsgogdogブブツゴグドグ様を召喚して間に入って頂き何とか事無きを得たとか。Bbtsgogdog様は、わたしに云わせればサイケ調のオタマジャクシに手足が付いただけなのだが、可愛いくて綺麗なアホロートルだと云って入れ込んだ挙句に召喚呪文迄憶えて信者に成ったのが小倉さんだった。まあ、それは正解だったと云う訳なのだが。ちなみにBbtsgogdog様の蝙蝠に似たそれぞれ色違いの翼には翼に依って違う力が有ると云われているが、緑色の翼はバリヤーを張れる事が、この時判ったそうだ。遠藤さんと小倉さんは緑色の翼から放たれた光に囲まれてUnidovastdeltganggr様の鉤爪攻撃から守られたのだと云う。その後、Tsathoggua様の子孫の中では弁が立つBbtsgogdog様が話を着けて下さったそうだが、それでUnidovastdeltganggr様は単に何かが接近して来たら取り敢えず攻撃してみる習性の方と判明した。迷惑な習性の方だ。

 又、可成り古びてしまっているが壁の中央には貼られた写真では、隣のトラックより大きな橙色のカピバラが、鷲の如き背中の翼を開いたまま横に成り気持ち良さそうに眼を閉じている姿が映っている。わたし達の何年か前の先輩がアマゾン河流域の何処かで撮影して来たMordbelponzodarモルドベルポンゾダール様だ。人が近寄っても何の関心も示さずその場で寝ておられると云う事で、その辺りからして多分この方もTsathoggua様の子孫なのだろう。

 そして、かく云うわたしも昨年、勝生かつきさん、喜多村さん、釘宮さん、慶長けいちょうさん、小松さん、佐藤さんの六人がグループ研修でAveroigneアヴェロワーニュの遺跡を見学に行った時に井口さんと一緒に同行させて貰って、皆が遺跡を見ている時に二人して森の中で矢張りTsathoggua様の子孫のDettlデットルdottlドットルbuttlブットルghakkelガッケル様を見つけて写真を撮って来たものだ。眠っておられたのでご本人(?)は撮られた事に気付いておられないだろうが、後ろのドアの近くを見れば、四本の鋏を持つ背景の樹々よりも巨大な黄金のロブスターの写真が貼られている筈だ。

 で、大図書館だが、わたしは大図書館で知りたい事を知る事が出来た。わたしが知りたかったのはTsathoggua様の事だ。正確にはTsathoggua様の御前での作法などだった。

 ついでに今、先生が騒いでいたTsathoggua様の系図についても調べてみたが、頭が痛く成って来て已めにした。この人、いや、この神様、一体何人お妃が居るんだ。Ycnagunnissszイクナグンニスススズ様から分裂増殖に依ってお生まれに成られたZstylzhemgniズスティールゼムグニ様の弟君に当たるShussmassshonoiショススマススショノイ様とCxaxukluthクズザクルス様から分裂増殖に依ってお生まれに成られたGhisguthギズグス様の姉君Sokiromusazineソキーロムサジーネ様の間にお生まれに成られた第一皇女Gashachtheガシャクテ様を初めとする十二柱の女神、Zothゾスの十二皇女が筆頭に・・・初っ端でお妃が十二人て、一体、何なのだろう。いや、全員姉妹だからそれで一組、一人分と云う事なのだろうか。おまけにTsathoggua様にとっては叔父さんと伯母さんの間に生まれた従姉妹に成る。

 テストに出るならともかく、あんなに沢山のお妃の名前と特徴など憶える気に成れず、途中で放り出してしまった。時々想う。Tsathoggua様のお后について議論するよりCelaenoに行って調べれば良いのにと。まあ、精神しか行く事が出来無いから細かいメモも取れず、それで大方の研究者が諦めているのだろうが、一度に少しずつ記憶して戻ってくれば良いのでは無いだろうか。いや、本人の記憶だけでは学説の根拠や証拠に出来無いか。

 それからTsathoggua様の御前迄行って粗相が有っても困るので、一応、現在のお后についても調べておく事にした。いや、その積りだったが諦めた。何しろTsathoggua様っておもてに成るのか女性遍歴が激しくて、Shubシュブ-Niggurathニグラース様やYhoundehイホウンデー様とも関係していらっしゃる。大半は初めて眼にする名前ばかりで、初めて眼にするので素性など一切不明だ。いや、それも何処かに書き記された本が有る筈なのだが探すのが大変なので最初から諦めた。尤も流石にShub-Niggurath様とYhoundeh様については、Tsathoggua様との馴れ初めくらいは調べてみた。Shub-Niggurath様はYogヨグ-Sothothソトース様のお妃だが、蛇達の祖先のYigイグ様を初めとした様々な神々との間に子を儲けられ、Tsathoggua様も生贄の女性を食べようとされたら実はShub-Niggurath様の化身で、逆に押し倒され、面倒臭いので抵抗せずされるがままにしていたら、何時の間にかShub-Niggurath様の四女の父親に成っておられたらしい。因みにShub-Niggurath様はその後も幾多の神々との間に子を儲けられたが、或る日Hasturハスター様に蹌踉めいて関係を持ってしまい、同棲の如き関係と成られ、それからは他の神々との関係を持たなく成ったと云う。しかしShub-Niggurath様がダメンズ好きとは知らなかった。

 へら鹿の女神Yhoundeh様はNyarlathotepナイアルラトホテプの妻だが、彼女が豊饒神とされるのは箆鹿の強い発情に依る。通常、鹿の発情は雄に顕著に現れるものだが、全ての鹿の起源であるZyhumeジヒューメの娘Yhoundeh様は立派な角を誇る事からも判る通り箆鹿の雌雄の特徴を併せ持っておいでだ。その結果、Yhoundeh様は周期的に発情し、それは一介の這い回る混沌に過ぎぬNyarlathotepの手に余るものだった。それで或る時、Yhoundeh様は交情相手を求めて宇宙へ飛び出した。月に火星に木星に・・・何処の星でも豊饒の女神の欲求に応えられる、いや、堪えられる者は居なかった。箆鹿の女神は土星でHziulquoigmunzhah様にも迫ったが暖簾に腕押し、Tsathoggua様の叔父はその場で眠ってしまうとYhoundeh様にも、どうにも出来無かった。諦めて彼女が土星圏を離れ天王星に向かった時、偶然にもTsathogguaの父である引き籠りの強者Ghisguth様が引き籠り仲間である少数の取り巻きを連れて、冥王星の地下を離れた時だった。何をするにも億劫で取り巻き達と共に地下の穴蔵に籠り妻であるZstylzhemgni様の交情の誘いすら断り続けていた穴蔵の大王は、この日、珍しく妻の相手を務めようかと云う気に成っていた。一言で云えば雄の本領を発揮しようとしていたのだ。しかし太陽系の外縁で起きた大いなる古き者グレート・オールド・ワン同士の喧嘩いざこざの余波が冥王星迄届くかとZstylzhemgni様は自らの落とし仔達を連れて警戒に当たっておられていたので、已む無く鉄腕マイティGhisguth様は己の内なる欲求を満たす相手を求めて内惑星軌道へ向かわんとし、土星から外惑星軌道へと向かうYhoundeh様と遭遇したのだ。この出会いの結果の一つがQulutthyrachilupphomクルッティラキルッフォム様、土星で理由は知らないが骰子の女神として人気の高い神様であり、もう一つがTsathoggua様とYhoundeh様の娘で生き物達の発情を司る女神のDulviabedlanドゥルヴィアベドランkachirulieanカチルリャン様だった。Ghisguth様との交情の味を知ったYhoundeh様は次に発情した時、Ghisguth様の息子を求めて宇宙へではなく己の親達が居る地底に向かったのだ。丁度この時期、Tsathoggua様は独り身で、Yhoundeh様は暫くの間Tsathoggua様の妻と成ったのだった。この時Nyarlathotepは何も云わず何もしなかったと云われている。でも、いいよね。一方、Qulutthyrachilupphom様の誕生を聞かれたZstylzhemgni様は、うちの宿六も甲斐性有ったのね、と云ったとか云わなかったとか・・・因みにTsathoggua様の方だが、行き成りYhoundeh様に押し倒されて面倒臭いのでされるがままにしておられたところDulviabedlankachiruliean様ご誕生と云う事に成ったらしい。

 で、今もYhoundeh様がお妃かと云うと、それは無いらしい。それどころか、その後も様々な女神に押し倒されては何も抵抗されず、結果、膨大な子孫を記録に残す事に成ったのだ。いや、落とし仔達の子孫だけでも相当な数なのだが。何せ最初の落とし仔から数えて九十九代目と云う神様も居られるのだから。


 兎に角、出たとこ勝負に成りそうだと覚悟してわたしは次の日曜日に親父を抱えて町外れに向かった。他の天体へ移動可能な非常用の扉が有る所だ。もっとも使い方さえ判っていれば他の天体では無く地球上の別な地点や地底にも行ける。使い方もCelaenoの大図書館で調べて判っている。扉の前に行って数時間後、わたしは美事Tsathoggua様の御前に到着していた。

 Tsathoggua様は玉座で居眠りをこいて居られた。お妃らしい物の影は他に見当たらなかった。只、辺りに不定形の黒い影が何体もぐにゃぐにゃと蠢いている。Shoggothショゴスとは明らかに違っている。恐らく形無カタナシすえとか呼ばれている連中だろう。Tsathoggua様に似た姿を取る事も、他の姿を取る事もしなかった、Tsathoggua様の落とし仔の中でも特に怠惰な連中だ。人間向きの名前を持たず崇拝もされていない。けれどもこの中から自らの形を決めて人間向きの名を名乗り、人々から崇拝される神様が出て来ないとも限らないので、おいそれと邪険には出来無い。

 わたしが親父を引き摺って玉座の前迄進み出て口上を述べるとTsathoggua様は眼をお覚ましに成られて大層古風な挨拶だなと仰られ、面倒臭いからさっさと用件を述べてくれと続けて仰られた。そこでわたしは先ずお供物を差し上げようとした。ところがTsathoggua様は、つい少し前にCycranoshキュクラノーシュ、即ち土星にお呼ばれに成って大きな牛を三頭お召し上がりに成られたばかりなので、最近新規の信者が現れぬ事もあって、今回お供物抜きでわたしの望みを聞いて下さると云う。わたしは二重に困ってしまった。一つはお供物を要らぬと云われた事、もう一つは望みを用意していなかった事だ。何しろ今日の処はお供物を置いて来る事しか考えておらず、聞き届けて頂きたい願いは卒業する迄ぐらいにゆっくり考えようと想っていたのだ。今現在のわたしの願いはお供物を置いて来る事そのものだったのだから。しかし、わたしの頭は危急の際にこそ回転する。不意に閃きに打たれたわたしの口は滑らかに動いていた。実は、わたしは学生で大いなる古き者について学んでおりますが、Tsathoggua様のお妃について記録が曖昧なのです。お祀りされておられないお妃の数も可成りの数に上りそうなのです。それで改めて正しくお祀りする為にもお教え頂けないでしょうか、と。お祀りすると云うのは咄嗟に想い着いた事だが空約束には成らぬ筈だ。Tsathoggua様から教えて頂いたと云えば河津神社の方で祀ってくれる筈だ。

 Tsathoggua様は暫しう~ん、と唸っておられたが憶えてないなあ~・・・と仰られたきり黙ってしまわれた。これは何やら面倒な事に成るのでは無いかと少し不安に成ったが、やがて、子供達に調べさせておこうと仰るので、しめたと想ったわたしは、それでは一応お供物を置いておきますので、お召し上がりに成られた頃にでも出直して来ますと云ってTsathoggua様に承諾して頂いた。何となくわたしが勢いに任せて強引に押し切った感じもしたが構っては居られぬ。それでお供物を置いて出て行こうとするとTsathoggua様に呼び止められた。御印みしるしを下さると云う。貰っておいた方が良いものだった。Tsathoggua様の身体から何か光の如き物が出て来てわたしの身体に吸い込まれた。これで神職に就く者など見る者が見れば判るのだと云う。

 わたしがお礼を云って去ろうとすると、眼を覚ましたのか身動きをし始めたお供物の素性について訊かれた。取り戻しに来る者を警戒されておられるのかも知れぬ。それでわたしは正直に「父です」と答えた。するとTsathoggua様は、父だと、それでそなた困らぬのか、と訊ねられるので、そんな事は有りません、全然わたしの好きにさせてくれないし、少し前も男の子の所にこっそり泊まったら外出禁止だと云うし、挙句に夜は必ず帰って来いとか、居ない方が良いのです、とわたしはさんざん捲し立てて、ぐるぐる巻きに縛り上げた上に麻袋に押し込んで引き摺って来た親父を置いて、地上への帰途に着いた。


 少女が出て行った後、Tsathogguaは呟いた。嵐みたいな娘だったなと。それから少女が置いて行ったお供物に眼を留めた。既に落とし仔達が中身を麻袋から引き摺り出していた。

 「どうしようか・・・」

 髭だらけで赤ら顔の知性の低そうな顔がこちらを向き、猿轡の下から盛んに呻き声を発している。見るからに汚そうな親父だった。

 「まずそうだな・・・」

 Tsathogguaはそう呟くと暫し黙考に入った。そして、どのくらい時が過ぎただろうか。Tsathogguaは「先ずは寝よう」と云ったかと想うとごろんと横に成ってしまった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る