第2話 神々の骰子

 渋い顔でEibonエイボンは相手の話を聞いていた。その相手とは眼の前の全身が毒蜥蜴の如く原色豊かで背には赤、青、黄、緑の四枚の蝙蝠を想わせる翼を生やした巨大なおたまじゃくし、それも手足が生えながら蛙には成らぬおたまじゃくしだった。名はBbtsgogdogブブツゴグドグZhothaqquahゾタクァ或いはTsathogguaツァトッグァの子孫、落とし仔達である神の一柱でそうおいそれと蔑ろに出来る相手では無い筈なのだが、Eibonはこの辺りの連中を、つい邪険にしてしまう事が少なく無かった。今回もそうだった。何しろこの連中、土星キュクラノーシュの神々の持ち込む話は、いずれ劣らずロクでも無い物事ばかりだったのだ。それでもEibonはTsathogguaの曾孫かその子供くらい迄は把握し、尊敬の念を失わずに置こうとしていた。地球のHyperboreaヒューペールボレアで二つの都市と八つの町を滅亡に追いやった凶悪非道なるKnigathinクニガティン Zhaumザウムについても、一応、Tsathoggua神の血筋に対する敬意を保ち続けた。しかしTsathogguaの何代後に成るのか判らぬこの連中はする事為す事疑ってかかる必要が有り、又、結構馬鹿な事を云い出したりやらかしたりする事も有って、神だと想っても尊敬の念よりも追い払いたいと想う気持ちの方が強かった。ちなみに嘗てEibonがZhothaqquahと呼び敬っていた神の名は地域に依ってはTsathogguaと呼ばれていたのだが、今日のHyperboreaでは、ほぼTsathogguaに統一されており、土星でも、音を使って会話する生き物達の発音が人の耳にそうと聞こえる事から、Eibonも今ではそれ等に倣ってTsathogguaと呼んでいる。HyperboreaでTsathogguaの名の方が主流に成ったのも、Voormiヴーアミとか蛇人間と云った人間より以前から神に馴れ親しんで来た生き物達の発音が、辛うじてだがTsathogguaと聞こえるからだった。

 処でTsathogguaの子孫の神々に話を戻すと、この連中は以前は皆、Tsathogguaに何処かしら似た姿をしていた。だが、彼等を崇拝する土星の住民ネイティヴ・サターン達はしばしば自分達の神を取り違える事が有った。特に居場所の重なる神々が、信者達や神官達に取り違えられると云う事が起きていた。Tsathogguaの神官でもあり知識と智慧を有すると神々から見做されていたEibonは、何故こうした事が起きるのかと神々から相談を受け、似ているからだろうと答えたのだが、最初、神々はその解答を理解出来無かった。違いがあまりに明らかだったからだがやがて彼等はEibonとの会話で、地球や土星の知性体達は個体識別を個体の外観に依っているのだと気付いた。そこで彼等は姿を変える事を考え、幸い地球には土星に較べ多種多様な生き物に満ち溢れていると云うので、Eibonからどの様な生き物が居るのかを聞き出し、地球から来た妖術師が心に想い浮かべる姿を読み取り、それぞれが想い想いの姿を取る様に成ったのだ。単純にそのままを自らの姿とする者も居れば、アレンジを加える者も居り、今、Eibonの前に居るBbtsgogdogなどは後者だった。そのBbtsgogdogは、この界隈に建設する道標代わりの塔の設計に関する相談をEibonに持ち掛けて来ていた。確かにEibonも自らの塔や住居を設計した事は有った。しかし土星の建築事情は地球とは異なるだろうと理解もしていて、自分では力に成れぬと早々に逃げを打ったが、Bbtsgogdogはそうでは無いと答えた。近くに住む様々な者達が設計を持ち寄り、皆でどの設計にしようか図った結果、設計に難の有るもの、実現に手間の掛かり過ぎるものが省かれ、最終的に六つに成ったと云う。しかし、そこから先は決める事が叶わず、困り果てた彼等は神に頼ろうとした。ところが、その六つの設計者たる六名はそれぞれ仕える神が異なっており、結局、困り果てた六名に代わって六柱の神々が雁首揃えて(中には首の無い者も居たが)困り果てる事に成ってしまったのだ。六つの設計はいずれも無難な設計の似たり寄ったりで、これと云った瑕疵も無く、それで彼等六柱の神々は纏まって押し掛けて来たと云う訳だった。

 Bbtsgogdogの後ろから一見して灰色で毛むくじゃらの大きな兜蟲かぶとむしが、確か名前がCelmonothelyusケルモノテリュウスと云うTsathogguaの子孫の神が、人間はこう云う時、蓋然性の度合いを全て偶然に任せると聞いているので、その方法を知りたいのだと口を挟んで来た。それでEibonは最初、籤を教えようとして諦めた。長さの異なる棒とか、一本だけ印の付いた棒など神々には無意味なのだ。Eibonは胞子の屍骸が固まって棒状に成っている物を六本選び、その内の一本の下側に赤い印を付け、六本の棒全て、下半分を掌の内に握って見せたのだが、それじゃあ貴男の握っている一本だけ短くて赤い印の付いているこれを取れば良いのね、と親しげなテレパシーを発して器用に一本だけ当り籤を銜えて見せたのは、全身が桃色の巨大な馬陸ヤスデだ。気安くEibonを訪ねて来るTsathogguaの子孫の一柱で、Thabollopopettelqnemタボロポッペテルクネムと云う女神だった。神々の眼には、掌に隠れた部分などお見通しだったのだ。これでは籤には成らぬ。それでEibonは今度は骰子サイコロを教える事にした。すると、それ迄黙って見ていた残る三柱の神々、全身を翼迄ふさふさと茶色の長毛に覆われ、四枚の蝙蝠の翼と二本の腕を持ち二本の足で直立歩行する巨大な鮟鱇あんこうの姿をした女神Jyardgerelbdlkaジャルドゲレルブドルカに、後頭部に兜蟲状の四枚翅を持ち、樹上性の蜥蜴の如き形状の三本の足で歩行する仔牛程の小さい紫色の錦蛇の姿をしたSisubizzzmbondhafシスビズズズムボンダーフ、背に蝙蝠の翼を持つ六本足の緑色のアルマジロの姿をしたKkalmextemカルムエズテムが、行き成り口々に喋り出した。云っている事は皆、同じで、それならPluumnoruunpiponプルウムノルウンピポンが持っていたと云うのだ。PluumnoruunpiponはTsathogguaの子孫だがAbhothアブホースの子孫の血も混じっており、ふわふわと大気中を漂う地球の標準的な家屋程の大きさの黄緑色の海月の如き姿をした女神で、地球と土星を行き来出来る能力が有り人間の文化そのものに興味を持ち文化コレクターでもある。彼女の夫は矢張りTsathogguaの血筋で、四本の足に先端が鋏に成っている二本の腕を持つ土星の標準的な家屋程の大きさの濃い紫色をした何処か丸みのあるえいの姿をし、矢張りふわふわと大気中を漂っているIquyqopocakoイキュイコポカコと云う神で、妻の良き遊び相手でもあった。この夫婦はしばしば人間のゲームをしている事が有って、中でも盤上の升目の上をそれぞれの駒を進めて行くと云うゲームの際、骰子を使用していたと云うのだ。しかし此処には骰子は無い。六神がEibonに作ってくれと云うので、妖術師はならば骨か角を持って来てくれと云った。骰子は動物の骨や角を削って作るからだ。神々が骨とか角とかどう云うものなのだと訊くので教えている内にEibonは自分の間違いに気が付いた。土星の生き物は骨格や角と云った物が無いのだ。いや、角や骨の役目をする物を有していても、それは地球の生き物の様に彫ったり刻んだりするには柔らか過ぎるか、硬すぎるのだ。人間が細工するには。Eibonはいっその事、この連中に、つまり神々に骰子の構造を教えて彼等に作らせようかと思案した。すると表から皆してどうしたと云うのだと問う声が有った。見ると矢張りTsathogguaかその兄弟の血筋と云われている学究肌で智慧有る神と呼ばれるNiosニオス-Korghaiコルガイが来ていた。地球での事でEibonに訊きたい事が有って訪ねて来たらしい。そこで六柱の神々は丁度良い所にとばかり代わる代わる経緯いきさつを説明した。するとNios-Korghaiは骰子について説明し、賭け事にも使われると説明、そのついでに賭け事には動物を使う事も有るのだとその方法についても説明した。幾つかの個体を何かで競わせその順位で決める他、動物が一体しか居らぬ場合は、予めその動物が何かを行うのに要する時間をそれぞれ予想させた上でその動物に実行させ、要した時間に一番近い時間を予想した者が勝者と成ると云うものも有るのだと説明した後、智慧有る神は取り込んでいる様子だから出直すと云い置いて立ち去った。Nios-Korghaiからもたらされた知識に六柱は暫し興奮状態で話し合っていたが、やがてBbtsgogdogが手持ちが生物一体のみでも骰子に出来るのだと結論を出し、では骰子で決めようと云う事で解散と成ったので、Eibonはホッとしてやり掛けていた仕事に戻った。つい最近、地球との交信を構築する事に成功したのだ。それにはJhonniammnunジョッニアッムヌンと云う背中から四本の触手を伸ばした巨大な白いナマケモノの姿を取るTsathogguaの子孫が一役買ってくれていた。Tsathogguaは自分の妻や兄弟姉妹親族達から責められる事態避けたさに地球と海王星や冥王星との交信を可能にする為、通信装置としての役割を持たせた者が幾体か居た。彼等は各々が特定の相手とTsathogguaを結ぶ生きた通信回線で、Tsathogguaを取り巻く形で地下に棲息していた。中でも妻達とそれぞれ繋がる十二体の落し仔達は、常にTsathogguaの近くに在った。その内の一体、Tsathoggua第一の妻Gashachtheガシャクテ専用のHaddallitorteaqハッダリトルテアックの五十五代後の子孫に当たるのが、このJhonniammnunだった。Tsathogguaの落とし仔達は分裂増殖でも地球の生き物の様な生殖行為でも子孫を増やせたが、いずれであっても能力等は子々孫々に受け継がれて行った。とは云え、能力の本質は変わらぬものの劣化矮小化は免れ得ない。五十五代後とも成るとJhonniammnunの能力は、惑星ほしを越えての通信能力そのものは祖先と同等の力を備えていたが、TsathogguaとGashachthe専用と云う調整は失われていた。何故、Hyperboreaの地下に潜む祖先を持つJhonniammnunが土星に居るのかと云う話はこの際どうでも良く、Eibonはかの神に頼んで地球と土星の間に通信網を築いて貰った。通信網の維持には神の存在は不可欠ながら、交信に際しては構築者である神の意思は必要無く、つまり神に気兼ね無く地球に居る弟子や友人達と交信出来ると云う事なのだった。想えば地球でTsathogguaの近くに居る十二体もいつも眠っているのだが、一度通信の橋渡しを行ってしまえば、後はそこに居るだけで良いのだろう。しかしEibonは念の為、Jhonniammnunに自身の祖先や子孫も含めて他にも通信が可能な神がこの土星に居るかどうか、調べて貰っていた。果たして、幾体か惑星を越えて交信可能な神が見つかり、近々この庵を訪ねてくれる事に成っていた。Eibonは彼等に頼んで様々な星々との通信網を築いて貰う積りでいた。先ずは嘗てHziulquoigmunzhahフジウルクォイグムンズハーに対する熱狂的な崇拝が存在していたと云う海王星ヤークシュからだ。だが、その前に地球との交信を確実なものにしておいた方が良い。既にEibonは、四人程だが弟子とも云うべき者達と簡単な遣り取りをするのに成功していた。今日はこれから自分が初めて土星の地を踏んでからの出来事を纏めた記録を、地球に四人に向けて同時に送ってみる積りでいた。これに成功すれば、複数の相手に同時に同一の情報を送る事が可能に成るのだ。Eibonは全身を興奮に包まれながら実験に没頭した。


 翌日、表で誰かが呼ぶ声にEibonが出て見ると、そこに又してもBbtsgogdogが居た。Eibonのいおりの前は大型の神々でも複数の神が横に広がって歩ける程、広々とした道に成っているのだが、道の反対側に昨日来ていた残りの神々が集ってこちらをじっと眺めている。Bbtsgogdogは骰子が決まったのだと告げた。生物を骰子に選び骰子に何かをやらせてその遂行に掛かる時間に一番予想が近かった神の信者の設計を選ぶと云うのだ。Eibonが承諾したと云うと、途端に神々が全身の仕草で喜びを示し、口々にEibonに礼を云う。何がどうしたのだ?とEibonが改めて何かを問おうとした時、彼の足元の地面が一気に崩れ、彼Eibonの身体はアッ、と云う間に地の底に落ちてしまった。そこには矢張りTsathogguaの曾孫だとか云われているエメラルド色に輝く巨大な日不見ひみずの姿をした女神Eeelleradnonissエエエレラドノニススの上半身が突き出していた。前にこの女神の恋愛相談を受けた事の有るEibonが想わず「Eeelleradnoniss?こんな所で何をしているのだ?」と口にすると「はあい、わたし骰子を振る役に選ばれたの」と女神が答える。何の事だと問う間も無く、頭上から大量の土砂、いや土星だから柔らかな菌類の屍骸が降り注いで忽ちの内にEibonは生き埋めに成ってしまった。地球の土砂と異なり空気を含んだ柔らかな菌類なので押し潰される事は無かったが、湿度が有る為、全身にしつこく纏わり付いて面倒だった。又、柔らかく崩れ易いので地上迄堀り上がるのにEibonは結構時間を費やした。

 漸くEibonが地上に這い上がると、そこにはThabollopopettelqnemとJyardgerelbdlka、Sisubizzzmbondhaf、それに何やら姿見の如き物を背中から伸びた二本の触手で器用に抱えたBbtsgogdogの姿が有った。EibonがKkalmextemとCelmonothelyusはどうしたと問うと、彼等は外れが確定していたので既に帰ったのだと云う返事だった。何の事だ?と不審に想いながらEibonが立ち上がると、途端にSisubizzzmbondhafが有難うと感謝の言葉と共に全身で巻き付いて来た。Bbtsgogdogが云う。Eibonが地上に立ち上がる時間の予測が一番近いのがSisubizzzmbondhafだったのだと。そう云うBbtsgogdogも既に外れが確定していたのだが、云い出しっぺなので見届けなければならず残っていたのだと云う。

 出て来るのが早過ぎると残念そうなのはJyardgerelbdlka。後少しEibonが出て来るのが遅ければJyardgerelbdlkaに成っていた処らしい。うんざりしながらThabollopopettelqnemに眼を留めたEibonがあんたは余が何時頃出て来ると予測していたのだと訊くと、桃色の大馬陸は左右に垂れた二つの大きな複眼を彼に向けて、「わたし、貴男が出て来られない、にしていたの」と答えた。押し黙ってしまったEibonにBbtsgogdogは骰子の礼だと云って抱えていた姿見の如き物を渡した。同じ物を所有している相手と会話する事が出来るばかりか、この大陸の上なら、会話中に相手の所と行き来も可能だと云う事だった。憮然とした表情でEibonはそれを受け取った。


 翌日、早速Eibonが受け取った姿見を使い、PluumnoruunpiponとIquyqopocakoの息子である四本の鋏持つ黄金の蝲蛄の姿をした|Dettldottlbuttlghakkel《デットルドットルブットルガッケル》と話をしていると、外で何者かが呼ぶ声がした。折角行き来を試そうとしておったのにと想いながらEibonが黄金の蝲蛄との会話を中断して外に出ると、又もTsathogguaの子孫の神々がそこに集まっていた。先頭に居るのは真っ赤な蝦蟇がまの姿をしたFogglothフォッグロスだった。確かTsathogguaの落とし仔の曾々孫に当るだった筈で、Eibonとは然程さほど面識が無い神だった。他にもその場に居たのは二本の足で直立し四本の腕と真っ赤な翅を持つ全身白銀色の蝶の如き|Dvoldeviralquererroto《ディヴォルデヴィラルケレッロト》、背に蜻蛉の如き四枚翅と蛸の如き六本の触手を生やし嘴から翅から水掻きの有る爪先迄全てが極彩色の人鳥ペンギンの姿をしたRoddlblockllrロッドルブロックルル、桃色の大守宮ゲッコーの姿をした女神Gheddhojebaldhoグッドジェバルド、土星の家畜小家程の大きさの真っ黒な天道虫の姿をした|Vhordhodenichelpabastsiniath《ヴォールドデニッケルパバストシニアス》、剣歯虎サーベルタイガー程の大きさの青緑色の蚯蚓の姿をした|Oksthendlirullillillch《オクステンドリルリリルク》、総勢六柱の神々が居た。皆、一応の面識は有る。何しろ彼等の選び取った姿は、全てEibonから聞いた話が元に成っていた。嘗ての仇敵であったYhoundehイホウンデーの司祭Morghiモルギと共にしばしば神々に地球の話をせがまれたEibonは、しかし、Morghiよりも神々の訪問を受ける頻度は遥かに多かった。理由は彼が博識であったからだ。特に自分達の姿を定めておらぬ神々は、Eibonの元を訪れて地球の生物の特徴や姿を熱心に聴いて帰るのだ。しかし多くの神々は話を聞くだけ聞いて帰ると後は訪れぬものだった。この六柱も自分達の選び取った姿を自慢げにEibonに見せに来た後は、再度の訪問は無かった連中ばかりだった。Eibonは、何やら嫌な予感がしていた。

 一同のスポークスマン役はFogglothの様だった。彼はこの界隈に建てる塔の事で来たのだと語った。それなら昨日、決定した筈だとEibonが口にすると、設計は決まったが場所が決まらぬのだと語った。この通り沿いの何処かに作ろうと云う事で意見が纏まらず神々の所に相談が持ち込まれたのだと云う。そこ迄聞いてEibonは断ると云った。骰子には成らぬと。それから誰を骰子にするにせよ埋めるのはやり過ぎだとも苦言を呈した。下手な者を生き埋めにしたら死んでしまうではないかとも付け加え、六柱の神々が何かを云う前に庵の中に引き込んでしまった。


 翌日、Eibonが姿見を使って大陸の各地を旅行出来ぬかと計画を立てていると、表から聞き慣れた声が彼を呼ばわるのが聞こえた。出て見るとずぶ濡れでYhoundehの司祭Morghiが立っており、何が起きた、と云い掛けてMorghiの後ろに見える光景にEibonは唖然とした。そこには河が流れていた。あの広々とした通りが河に変じていたのだ。聞けば道を歩いていると行き成り河が出現して避ける間も無く流れに呑み込まれてしまったのだと云う。そしてやっとの事で這い上がると丁度眼の前にEibonの庵が有ったのだそうだ。あの厄介な神々の仕業ではないかとMorghiは口にした。厄介な神々とはTsathogguaの子孫達の事で、悪口を云われてもその事を知らず、又、知っても報復を考えぬ事を良い事に、Morghiは彼等を厄介物呼ばわりしており、Eibonも自ら口にはせぬもののその事を否定する気は無かった。そこで今回の出来事について何か神々に関する手掛かりの様なものは見聞きしなかったかとEibonが問うと、Morghiは流れに呑み込まれた際、Xxxbhaggdhyyaズズズバッグディーヤが流れの中に居たと証言した。背に極彩色の鷲の翼を持ち白地に黄色と黄緑とピンクの縞模様の巨大な海象の姿をしたこの女神はTsathogguaの子孫達の中では比較的迷惑で無い方だった。その彼女がMorghiに向かって片眼を瞑ると「あたしが骰子を振る役に成ったの」とだけ云って姿を消したのだと云う。あれは一体どう云う意味だったのだ?と訝るMorghiにEibonは黙って服を貸してやり、又、後日、神々から何かを貰ったら有り難く受け取っておけとも云って、姿見を使ってPluumnoruunpiponの所へ行ってみた。彼女は丁度仲間達を集めてゲームをする処で一緒にやらないかと誘って来たが、Eibonの目的はこの大陸についての見聞を拡げる事に有った為、誘いを断って徒歩で数日掛けて自らの庵に向かった。黒い土星猫が足下をよぎり、その向こうに庵が見える。河は相変わらず残っていた。そして、それだけでは無かった。彼の庵の対岸に何かが建築されようとしていた。既に形が見え始めている基礎部分を見る限り、塔だった。決まったのは此処だったのか、と疲労の様なものを覚えたEibonの前に何処からとも無く六つの影が出現した。右手手前に背中に三本の頭足類状の触手を生やした真っ赤な鈎蟲かぎむしの姿をした女神Glladorisuuzグラドリスウズ、その更に右横に深緑色の鷲の体に桃色の人鳥の頭を生やした|Dondorodundurdundullgghen《ドンドロドゥンドゥルドゥンドゥルッゲン》、左手には顎が烏賊の触腕に成っている橙色の鍬形蟲くわがたむしの姿をしたBblakkeshdmmonブブラッケシュドッモン、一番後ろに見える極彩色のふさふさした長毛で全身覆われた毛象マンモス程の大きさの蛙はZblokkdoblukkzttrgズブロックドブルックズットルグで、その少しばかり手前が銀色の水牛の角を輝かせる真っ黒な蛙の姿をした女神Qyuevvlnozeキュウエヴヴルノゼ、一番手前に居る右半身が桃色、左半身が黄緑色で顔は蛙、身体は蛞蝓と云う姿はZvanvoddzvwervergズヴァンヴォッズヴェルヴェルグ、確か両性具有神だった筈だ、と想ってEibonが見ていると、Zvanvoddzvwervergは自分達が来た訳を説明し始めた。塔の建設場所が決まり仕上げは自分達に仕える者達が行う事に成ったのだが、そこで外の色を何色にするかで意見が分かれてしまって・・・

 そこ迄聞くとEibonは脱兎の如く庵に飛び込み、姿見でPluumnoruunpiponに連絡を入れた。矢張りゲームに参加させて貰うと。そして彼は神々が呼び掛ける声を尻目に姿見の中に飛び込んだ。

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