Epilogue:僕だけが、間違っていたんだ。
◇Epilogue
『僕達は思っていた。
僕達が手に入れることの出来る未来には、
輝く光がある。
夢を抱く希望がある。
大切な人達の笑顔がある。
そう、信じていた。
そして遂に、僕達にその未来を掴む時は訪れた。
でも、気がついてしまった。
あのブックを、僕が救われたいがために手にしてしまったその瞬間から何もかもが狂っていたのだ。
間違っていたんだ。それは、僕達ではない。
僕だけが、間違っていたんだ』
――二〇××年・未来――
青年は、夢を見た。
初めは何であるのか分からなかった。
だが、次第にその姿は明白になった。
そして青年は目を覚ます。
その頬には、一筋の涙の跡が残っていた。
◆
磨かれたタイルの上を、軽快な音を立てながら青年は歩いていた。ぴしっ、と決めたネイビー色のスーツ、右手には大きなキャリーケース。
ポケットで震え始めたスマートフォンを左手で取り出し、耳にあてがった。
「Salut! Je Viens d’arriver.(やあ、今着いたところだ)」
青年は流暢に異国の言葉を話す。
「Je me permets de votre contacter as sujet de il.Je vous embrasse tous.(それについては連絡する。みんなにもよろしく伝えてくれ)」
通話を終了させると、青年は高速バスの中へと乗り込んだ。
二時間ほどが経過しただろうか。到着したのは都会の中心街。バスを降りて少し歩き、空の近くまで聳える高層ビルに到着した。
「お~!」
「……お久しぶりです。先輩」
「久しぶりだな。長期赴任、本当にお疲れさん」
「……いえ。とんでもない」
「これから荷物の整理とかしばらくは大変だろー、俺もそうだったわ」
「……そうですね。まあ、久しぶりのこっちでの生活も、それなりに楽しみですよ」
「ならよかった」
上司と肩を並べ、歩き出そうとした青年は固まった。
「おい、どうした?」
呼びかけられているはずなのに、全く耳に届かない。音は全て目を見張った対象に奪われた。
「も~、本当に、来月末が絶対ですからね! 先生」
「分かりました。分かってます。本当に、すみません」
先生と呼ばれた青年は、遂にこちらの重たい視線に気がついた。二人の間でだけ空気中の酸素が全て奪われている、そんな気さえした。
「……おい!」
先生と呼ばれた青年は、全力で逆方向へと逃げていく。
「ちょ! 先生! どうされたんですか!」
付き人のような女性がその背中を追うのに青年も続こうとしたが、先生と呼ばれた青年が取り乱したあまりにバラバラと落としていってしまった原稿へと目が留まった。屈んで拾い、そこへ記述された文字を見て、再び目を大きく見開いた。
「今の知り合いか?」
青年は何も答えぬまま――。
「……申しわけないんですが、少しだけ、電話をしてきてもいいですか?」
上司に了解を得た上でその場から離れると、スマートフォンを取り出す。何年も連絡を取っていなかったアドレスを呼び出すと、090から始まる番号を押した。
「……もしもし、久しぶりだな。突然ですまないが、会えないか?」
Crystal:Episode one
――The moon was bring back the sun.―― END
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