延長戦 笹本稜平を忘れていた!

 やあ、かっぱくん。今、夜中の三時だよ。九時に睡眠薬飲んだのに早期覚醒してしまった。

「だからって僕まで起こすことないでしょう」

 だって寂しいんだもん。

「この、さみしんぼう」

 富田靖子主演の映画だね。僕、彼女の高校の後輩。彼女、高三の時の体育祭で大活躍したんだけれど、僕は部室で寝ていたんで見損なった。残念。

「ぺこりさん、何部だったんですか? ミス研ですか?」

 ふふふ、硬式テニス部。

「似合わねえ!」


 そんなことどうでもいい。僕は偏愛作家を何人かつい残ししまっていた。その筆頭が笹本稜平さんだ。僕が何で、笹本さんを手に取ったかは病気前のことなので忘れてしまったが、サンミスを受賞した『時の渚』を読んで、この人はいけると確信したのは確かだ。そのあと立て続けに笹本さんの本を買っている。

 まずは冒険小説だ。『檜垣耀二シリーズ』と括られる三冊を読んだ。これは国際謀略小説と言っていいのかな。一種のスーパーマンの活躍する物語だ。手に汗握るとはこのことを言うんだな。


 でも笹本さんの真骨頂は山岳小説にある。デビュー第二作の『天空への回廊』はエベレストが舞台だ。僕らが絶対にいけない場所。それを笹本さんは小説で連れて行ってくれるんだ。極寒、薄い酸素、雪崩、死の恐怖と隣り合わせの世界を僕らは感じることができる。重厚な小説だ。

「他にお勧めはないんですか?」

 笹本さんの入門書としては『未踏峰』が読みやすい。僕みたいに抗不安剤を飲みすぎて躁状態になって、人生を失敗した男が似たような人生に傷を持つパーティーと前人未到の山を制覇する話だ。文体が割とライトで面白い。それから映画にもなった『春を背負って』も読みやすいかな。ここらから初めて、重厚な小説群に入るといい。


 ただし、笹本さんの警察小説は僕の私説だがつまらない。興味のある方は読んでもいいけれど、僕は勧めないよ。


 笹本さんはやっぱり冒険小説に限る。わくわく、ドキドキして、現実を忘れられること請け合いだ。ぜひ一度、手にとってもらいたい。

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