第28夜 樋口有介は文体にはまる?

 今夜は、最近ノリに乗っている樋口有介さんを紹介しよう。起きてるかい? かっぱくん。

「起きてますよ。この前はすみませんでしたね」

 別に。いなくても構わないんだけど。

「まあ、そう言わずに」

 そうだね。僕が樋口有介さんを見つけたのは『このミステリーがすごい!』の私の隠し玉のコーナーだ。

「あれ、よく考えると変なコーナーですよね。もう、ミステリーなんて書いてない依井貴裕さんが毎回出てたりして」

 だよね。でも、とにかくそのコーナーで樋口さんを見つけたんだ。なんとなくぼやいてばっかりなので、親近感を覚えたのかな? 大学も一緒だし。学部は全然違うけどさ。


 僕が樋口さんを見出した時、樋口作品は悲惨な状態だった。中公文庫の『ともだち』しか生きていなかったんだ。僕は早速買って読んだ。びっくりした。ページに字がびっちり詰まっている。これは失敗したなと思った。ある程度、行間がないと読みにくいと僕は思ったからだ。でも心配は無用だった。ページはなかなか進まないけれど、話が面白い。僕はゆっくりと読むことにした。結論として、ミステリーとしては弱いけど、文章が面白い。これは続けて読む価値のある作家さんだと思った。でも、生きている文庫がない。忸怩たる思いだったよ。

「樋口さん、不遇の時代だったんですね」

 そうなんだ。でもそれが一変する。


 東京創元社が樋口さんの『柚木草平』シリーズの復刊を始めたんだ。前述の『多島斗志之コレクション』と同時にね。東京創元社さん、僕の脳みそ、マーケティングしてるんじゃないの? と思ったね。『多島斗志之コレクション』は四冊でエタったけれども、『柚木草平』シリーズは売れたみたい。きちんと予定通り発行された。ああでも、笑い話があって伯方雪日さんの『誰も私を倒せない』が文庫になった時、樋口さんの『誰も私を愛さない』が発行延期になったんだ。あまりにもタイトルが似ているからね。伯方雪日さん、あとがきで謝ってたよ。

 そうこうするうちに文春文庫でデビュー作の『ぼくと、ぼくらの夏』が復刊したり、中公文庫と創元推理文庫でいろんな作品が復刊され、新作もどんどん出るようになった。

「よかったですね」

 でもそうなると、僕の手持ちの金じゃ買いきれなくなって、最近のは読めていないんだ。

「残念でしたね」

 もう、諦めるしかないよ。

「でも、ぺこりさんが見出した作家さんて、売れっ子になりますね。不思議だ」

 僕も不思議。どうせなら、僕自身が見出されてもいいと思うんだ。どうかな。

「それは難しいと思います」

 そうだよね。がっくり。

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