第25夜 多島斗志之よ、今いずこ?
多島斗志之さんは、2009年12月19日に滞在していた京都市内のホテルを出たのを最後に消息を絶つ。多島さんは1989年頃に右目を失明しており、失踪前日、弟や長女に「一か月前から左目も見えにくい。この年で両目を失明し人の手を煩わせたくない。失踪する」との速達が届き、失踪当日には友人や出版社に「筆を置き、社会生活を終了します」との手紙が届いたと報じられた。
僕はものすごく悲しい。もしかしたら一番偏愛していた、多島さんが失踪してしまったのだ。それも、治療次第では左目の視力を失うことはなかったのに、早とちりしての行動。悔やんでも悔やみきれない。
多島さんは一作一作ごとに、趣向を凝らして全く作風の違う小説を書く人だった。だからシリーズものは『二島縁起』と『海上タクシー〈ガル3号〉備忘録』だけだった。それも前者は長編。後者は連作短編集だから、設定は同じでも、内容は違うわけだ。作家にとってシリーズキャラクターを作ることは、続編を量産して儲けることができるのだが、多島さんはそれをしなかった。今ひとつ、一般的に知名度が低いのはそのせいだと言われている。
僕が多島さんの作品で一番最初に読んだのは『症例A』だ。これは、割と売れた本で、逆に言うとこれ以外の本がほとんど重版未定で書店に流通していなかったのだ。この本は一気読みです。機会があればどうぞ。
「ぺこりさん、あとは何を読んだのですか?」
ああ、かっぱくん、いたんだ。ちょっと熱くなっちゃって気づかなかったよ。あと読んだ本ね。その頃、唯一流通していた『海賊モア船長の遍歴』を読んだよ。文庫なのに二段組という、不思議な体裁の本だ。これも面白かったなあ。でも、今はたぶん重版未定。
どうしても、多島さんの本がもっと読みたくなった僕は、書店員の禁忌を破って、ブックオフに行った。そこで『不思議島』と『クリスマス黙示録』を発見。古本だから触るの嫌だったんだけど、面白さに負けて、読んだ。そうしたら、創元推理文庫で『多島斗志之コレクション』が刊行開始。その第一弾がなんと『不思議島』だった。ガクッとなったわ。
でも、『多島斗志之コレクション』は四巻で休止。売れなかったんだな。同時に出た樋口有介さんの『柚木草平』シリーズは順調に刊行されたから、よっぽど売り上げに差がついたんだな。僕は樋口さんも好きだからいいんだけれど、四巻で休止はちょっと悔しい。東京創元社さん、版権の問題で難しいかもしれないけれど、再開して!
「切実な願いですね」
その後も双葉文庫から『少年たちのおだやかな日々』『私たちの退屈な日々』『クリスマス黙示録』が復刊されたけど、重版未定のものが山ほどある。文庫化すらされていないものも幾つかある。KADOKAWAさんも『感傷コンパス』が文庫化されていない。早急に文庫化もらいたいところだ。
残念ながら、多島さんは見つかっていない。でも、望みは捨てていないぞ。まだ書けるはずだ。だから出てきて。お願いします。
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