第23夜 清涼院流水は飲めません!

 はじめにお断りを。「す」から始まる偏愛作家はいませんでした。鈴木さんという日本有数の苗字があるのに不思議ですね。ああ、本名、鈴木〜さんならいるかもしれませんが、あくまで余技なので、そこまでは調べません。


「で、清涼院流水さんなんですね」

「せ」も人材不足でさあ。九冊しか読んでない流水さんを選ばざるをえなかった。

「九冊も読めば充分じゃないですか?」

 いやいや、シリーズでいうと一シリーズだけなんだ。『JDCシリーズ』の『コズミック』『ジョーカー』『カーニバル』の三集だ。

「JDCシリーズってなんですか?」

 うーん、要は探偵のための組織なんだけど説明が面倒くさいのでWikipediaを丸写ししよう。

「ああ、いくら版権フリーとはいえ、それはまずいんじゃないですか?」

 ちょこちょこっと文言を変えればバレないや。●●新聞の記者だってやってただろ?

「あー、このクマはプライドゼロだ」

 なんとでも言え。


『創設時のメンバーは十数人。小さな探偵事務所でのスタートだった。1974年に起こった彩紋家事件以降、新犯罪に対応すべく、試験制度や編入制度を設け、350人もの有能な探偵を有する組織へ成長していく。

改称当時の1980年は、まだアルファベットの名称はどの業種でも珍しく、その点でも注目を集めた。1980年代、JDCが陰で貢献した事件も数多くあり、その功績を称えられ、法務省により、JDCに所属する全探偵に犯罪捜査許可証(通称・ブルーIDカード)が発行される。但し、拳銃や特殊警棒などの武器の携帯が許可されたわけではない。

 高齢者雇用対策が進み、定年した者にも、仕事を続ける枠が用意されている。

全ての郵便物に対し、爆発物処理班によるX線チェックを行うことが義務づけられている。

 JDCを舞台にしたテレビドラマも制作された。

探偵・事務職問わず、JDCに入り有名になれば、プライバシーが侵害されることもあるため、本名を隠すために“Dネーム”(探偵としての仮名)の登録が認められている。「龍宮城之介」のような、変わった本名の探偵もいるが、Dネームによる奇抜な名前の探偵もいる。“Dネーム”はいつでも何度でも変更でき、第二班の浮悠香澄水はその典型的な例である。

 有給休暇枠を利用して、好きな時期に夏休みを取ることができる。但し、創設記念日である八月九日だけは休みを取れない。出張捜査に当たっている者以外は、全員記念式典への参加が義務づけられている。その代わりに、翌日の八月十日は公休日に定められている。

 総代による緊急招集命令というものがあり、これまでに発令されたのは「密室卿事件」と「犯罪オリンピック」の二回のみ』


 だってさ。この設定を使って、舞城王太郎や大塚英志が小説を書いている。トリュビュートって奴だな。でも、実際のところよく分かんないんだよ。第二回メフィスト賞を獲った『コズミック』はミステリー作家たちの間で、大騒ぎになって、みんな朝まで討論した。そういうことになっているけれど、僕は宇川さんの釣りではないかと思う。宇川さんのことはこの前話したね。

「はい。講談社の名編集者ですね」

 そう。僕の『コズミック』を読んだ感想は、ふーんって感じ。一応は納得いった。なんで大騒ぎになったか分からない。でも次の『ジョーカー』からわけ分からなくなっちゃう。『カーニバル』なんてさ、五冊組みなんだけど、だんだん厚さが膨れていって五巻目なんて卓上の辞書だよ。その上、うやむやした結末で、「何が流水大説じゃ。わけ分からん」と思った。一体何のために、この冊数、この厚い本を読んだんだと徒労感だけが残った。

「じゃあ、何で読んだんですか?」

 その頃はさ、読書力があったんだよ。一日に三冊文庫本を読めたし。で、自分の読書力というか知力を過信しすぎたんだな。相手は途中退部の途中退学だけど、天下の京大ミステリー研にいた人だよ。頭が良すぎるんだよ。そんな天才の書いた文章、しがない野良クマの僕が太刀打ちできるはずないんだな。

「天才と何とかは紙一重と言いますもんね」

 いやあ、最近の彼の活動を調べると、紛れもなく、天才なんだなと思うよ。たぶん、もう読まないけどね。

「なんか逆に読みたくなってきました」

 置いてある書店なんかないよ。下手すりゃ、重版未定だ。

「残念だなあ」

 いや、出会わなくて幸運だと思いなよ。


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