第17夜 倉知淳ってば全く!

 正直に言う。倉知淳さんの作風は僕には合わない。本格すぎるからだ。文章はユーモアに溢れたものが多いが中身はガチガチの本格だ。僕は変格の方が好きだから、全然タイプじゃない。でも文庫で出ている倉知さんの作品は全部持っている。なぜだろう? 僕が買ってあげないと倉知さん、食べていけないと思っちゃうからかな。大体、倉知さん、寡作すぎ。だからたまに出るとつい買っちゃうんだよね。これってある意味、偏愛作家? だから紹介するかどうか迷ったけれど、書くことにする。


 倉知さんは『日曜の夜は出たくない』でデビューしてるのだけれどその前年に『競作 五十円玉二十枚の謎』にアマチュアとして投稿して、見事“若竹賞”を獲得してるんだよ。かっぱくん。

「若竹賞ってなんですか?」

 それを話すには『競作 五十円玉二十枚の謎』のことを説明しなくちゃならない。謎というのは作家の若竹七海さん(偏愛作家です)が書店でアルバイトをしてた時、毎週五十円玉を二十枚持ってきて「千円札と両替してくれ」という男の人がいて、なんでそんなことをするのかってことなんだ。それをプロの作家さんや一般公募して優秀な作品を取り上げて一冊の本にしたんだ。それらの作品の中で当事者の若竹さんが推したのが、倉地さんの作品で、栄誉として“若竹賞”が送られたわけだ。

「その後、真相は分かったんですか?」

 わかるわけないじゃん。若竹さん、書店のレジにもう入っていないし。


 さて、話を『日曜の夜は出たくない』に戻そう。これは“猫丸先輩”シリーズの第一弾で連作短編集だ。これでピンと来る人もいると思うけど、いわゆる『東京創元方式』なんだ。前にも書いたから覚えているよね? かっぱくん。

「ええと、一つ一つは独立している短編がラストで一つに繋がるってやつですね」

 正解。でもねえ、この作品のそれは正直強引だと思うな。

「どうしてですか?」

 それは、内容に触れちゃうから言えない。興味のある方は読んでみるといいですね。フフフ。

「気持ち悪〜い」


 それはさておき、多分“猫丸先輩”シリーズの唯一の長篇『過ぎ行く風はみどり色』と連作短編集『幻獣遁走曲』は面白かった。ところがこのシリーズ、版元が東京創元社から講談社に移るんだ。そしたら作品のクォリティが下がった気がする。まあ、好みだから人それぞれあるけど、僕はそう思う。

「なんで、版元が変わったんですか?」

 分からない。喧嘩したのかもしれないし、講談社にも宇山秀雄さんという名編集者がいたから、引き抜かれたのかもしれない。


 その後『星降り山荘の殺人』という話題作を書いたり『壷中の天国』で第一回本格ミステリ大賞受賞したりしている。ちなみに『壷中の天国』は角川文庫だったのに、僕が読みたいと思った時には品切れ。その後東京創元社から復刊された。だから、喧嘩はしていないと思うな。

 まあこんなとこかな。寡作だから、コンプリートも可能だと思います。

「締めのお言葉を」

 でも、なんで倉知さんの本、買っちゃうんだろうな?

「ボランティア精神だったりして」

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