第13夜 恩田陸は初期を読め!

 まだ夜には早いですが、僕は睡眠薬を飲んで寝ようと思います。『うつし(現)世はゆめ よるの夢こそまこと』昼間の自分が嫌になっているので、このところ早く寝ています。夢の世界は楽しいことばかりです。一番いいところは、やなことがあったら無理に起きちゃえば何もかも消えてしまうところです。ああ、退廃的だな。


「ぺこりさん。前回僕のこと忘れましたね」

 やあ、かっぱくん。忘れたよ。忘れたというより、きみは市民プールに泳ぎの練習をしに行ったのかと思い込んでいた。

「行きましたけど、プールの水が緑色になると断られました。かっぱ差別ひどいです」

 じゃあきみは日本初のかっぱ出身総理大臣を目指すんだな。

「無理です。戸籍ないし」


 それはそれとして、今夜ご紹介するのは、恩田陸さんです。恩田さんってデビューした頃はなかなか本のでない人だったんだ。まあ、僕が気づいた時は流行作家になって、じゃんじゃん書き出すちょっと手前の頃で、そんなに文庫本の点数も出ていなかった。その頃僕はY書店の湘南台店の文庫フェアが好きで、自分の店では買わないで、湘南台店で文庫本を買っていた。その時買った本を書き出すよ。『六番目の小夜子』『球形の季節』『不安な童話』『三月は深き紅の淵を』『光の帝国 常野物語』この辺までだったかな。大人買いをしたよ。でもねえ、純然たるミステリーは『不安な童話』だけで、あとはホラーだったり、SFっぽかったり、奇妙な味だったりする。だけど、僕はジャンルに関係なく、恩田作品を貪るように読んだよ。抜群に面白いんだ。特に面白かったのは『光の帝国 常野物語』だった。

「スペースオペラですか?」

 違うよ、ある特殊な能力を持った一族が……これ以上は言えない。興味をそぐからね。ヒントは『常野物語』という言葉の響き。柳田國男の『遠野物語』に似てないかい?

「そうですね」

 それがヒントだ。僕は前にも書いたけど、この本の最終話を見て泣いた。僕が泣くぐらいだから、全米も泣くよ。

「それは大げさです」

 そうかなあ。『常野物語』のシリーズには『蒲公英草紙』と『エンド・ゲーム』がある。どちらも雰囲気が違っていて面白い。

「もっと、オススメはないんですか?」

 そうだなあ、これは僕の好みで、万人ウケするかどうか分からないんだけども『ライオンハート』なんてどうかな?

「どんなストーリーなんですか」

 二つの愛しあう魂が、時空を超えて出会い。また別れを繰り返す話なんだ。これがとんでもない場所で出会ったりするから、鳥肌ものだ。

「ホラーですか?」

 違うよ。興奮と感動で鳥肌が出るんだ。

「そうなんだ。でも古い小説ばっかりですね?」

 うん。最近のはちょっとお勧めするのはないなあ。多作になって、恩田さん筆が荒くなっちゃったのかなあ。

 それより『常野物語』の続きを読みたいよ。

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