第12夜 岡嶋二人、今は一人?

 ああ、眠れない夜の意味合いが変わってしまいました。前は夜中じゅうだったんですけど、最近眠れる薬の調合、自分で生みだしちゃったんですよね。でも、効果が現れるまでに、時間がかかる。そのつれづれに、お付き合い願います。


 今夜ご紹介するのは、岡嶋二人さん。これは合作のペンネームで実際には井上泉(井上夢人)と徳山諄一のコンビである。ペンネームの由来は「おかしな二人」のちの井上夢人は『おかしな二人』のタイトルで、コンビの誕生、栄光、離別を書いている。


 実際、年寄りの僕でも岡嶋二人は子供の頃に聞いたことあるなあという、過去の人だった。実際文庫の棚に、岡嶋二人なんてなかったもの。僕の書店員の時代では忘れ去られた存在だった。

 

 それを変えたのが宝島社から出た『この文庫がすごい! 2005年版』で『99%の誘拐』が第一位になった。新装版なのかと思って、今調べてみたら今流行りの二次文庫だった。もともとは徳間文庫から出ていたようだ。吉川英治文学新人賞受賞作だから、内容は文句ないと思う。それがうまい具合に二次文庫化され『この文庫がすごい!』の一位に並み居る書評家がこの作品をあげたということが、僕と岡嶋二人とのきちんとした出会いだった。今日は、初めまして。


 それはともかく、講談社は商売上手だった。ほとんどが重版未定だった岡嶋二人の本をどんどん増刷、売りまくった。『99%の誘拐』と同じくらい評価の高い『クラインの壷』は新潮文庫からも出ていたのだが、圧倒的に講談社文庫の方が売れた。やっぱり、一人の作家(この場合、二人だけれど)の本は同じシリーズで集めたいもんね。ちなみに、『99%の誘拐』は厳密に言うと、ミステリーじゃない。途中で犯人がわかる仕組みになっている。それでも面白い。クライムサスペンスだね。


 ところで『おかしな二人』を見ればわかるが、岡嶋二人は寂しい解散に追い込まれる。井上さんは今も第一線で活躍しているが徳山さんの話は一向に聞かない。悲喜こもごもと言っていいのかどうか。


 今、書店の文庫の棚を見ると、大きな書店以外ではまた、岡嶋二人の本はない。いっときの再ブレーク。井上さんには良い効果があったと思うが、徳山さんはどう考えているのだろう。同じ、世間から見た敗者として、ちょっとお気持ちを聞きたい気がする。たぶん、殴られるだろう。

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