第10夜 太田忠司の位置付けは?

 昨夜はなんとか眠れたんだが、早期覚醒してしまった。空はまだ暗い。これでは眠れなかったと同じだ。夜明けまでのひととき、ミステリーについて語りたい。お暇だったらお付き合い願いたい。

「今日の偏愛作家さんはどなたですか?」

 やあ、かっぱくんも起きていたか。そうだな「お」から始まる作家さんの続きを語ろう。太田忠司さんだ。

「僕、その人知りません」

 そうだね。一般的な知名度は低いかもしれないね。太田さんには悪いけど。でも、良作を生み出している作家さんだよ。

「へえ、そうなんですか?」

 じゃあ、語るとするか。


 太田さんは、元々は「星新一ショートショート・コンテスト」で優秀賞を獲得した、ショートショート出身の人なんだ。

「ミステリー畑の人ではないんですね」

 かっぱくん、ショートショートをバカにしてはいけないよ。短い文章で人を驚かす。ミステリーと同じプロセスを短文でやるんだ。それを生み出すパワーは長編ミステリーを書くのと同等のものが必要になる。

「すみません」

 その後『僕の殺人』で長編ミステリーデビューをする。不満、その一。その『僕の殺人』が重版未定で入手不可能なんだ。だからペーペーのミステリーマニアの僕はそれを読むことができない。講談社さん、新装版を出してくださいよ。

「願えばきっと叶います」

 その後も、代表作『新宿少年探偵団』シリーズを出し、映画化もされたんだが、これも重版未定。ちょっと嫌になっちゃうね。

「じゃあ、ぺこりさんは太田さんを何で知ったんですか?」

 うん、創元推理文庫で『狩野俊介シリーズ』の初期五冊が突然復刊したんだ。前々から気になっていた作家さんなんで飛びついて買ったよ。

「へえ」

 それから『阿南シリーズ』が同じく創元推理文庫から復刊。新刊も出た。阿南シリーズは重苦しいテーマのシリーズだから、読むのに覚悟がいるよ。それから『京堂夫妻シリーズ』すなわち『ミステリなふたりシリーズ』だね。

「読書ノートに書いてましたね」

 そう。それから『甘栗晃シリーズ』など、多くの作品を書いている。『甘栗シリーズ』で僕は「コメダコーヒー」の存在を知り、あの「シロノロアール」を知った。そして無性に食べたくなった。太田さんのホームグラウンドは名古屋で、コメダコーヒーの本拠地も名古屋なんだ。だから、食べるのを諦めていたんだけど、コメダコーヒーって、結構支店が多くて、なんと僕の隣の駅にコメダコーヒーがあったんだ。だから僕はシロノロアールにありつくことができた。感動するほど甘かったねえ。

「ぺこりさん、話が脱線していますよ」

 失礼。太田さんのミステリーは奇抜なトリックは少ないけれど、話を順に進めていくから読者を困惑させることなく物語に没頭することができる。正統派のミステリーだね。そこが好きなところであるし、ちょっとひねくれた僕には物足りないところでもある。

「ぺこりさんは変格が好きですからね」

 あと、不満は重版未定がやたらと多いこと。一番頭にきたのが『霞田兄妹シリーズ』で、なんと第一巻の『上海香炉の謎』だけが重版未定なんだ。最初の巻が読めないから手が出せないんだよ。祥伝社さん、何考えてんの!

「きっと、東京創元社さんが復刊してくれますよ」

 だといいんだけど。ああ、かっぱくん。夜が明けてきたよ。夜明けのコーヒーでも飲もうや。

「読者の皆さん。これはBLではありませんからね」

 何言ってんの?

「ぺこりさん、変なところ無知ですねえ」

 まあ、知識が偏っていることは認めるよ。

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