第8夜 江戸川乱歩はミステリー作家なのか?
ちょっと難問を自分に押し付けちゃったなあ。このテーマだったら一冊の評伝が書けちゃうよ。僕には重すぎるテーマだな。でもWikipediaの推理作家一覧を見たら「え」で始まる推理作家は江戸川乱歩大先生しかいないんだもの。一応、五十音順にこの評論を書こうと思っているから、「え」を飛ばすわけにはいかないよね。ちょっと気がひけるけど、資料を集めて書いていくことにしよう。
「資料ったって、Wikipediaぐらいでしょ」
かっぱくん。随分辛辣なことを言うねえ。ああ、その通りだよ。押入れの段ボールを漁れば、小林信彦さんの『回想の江戸川乱歩 』(光文社文庫版)があるはずなんだけど、このコンテンツは真夜中の独り言の程だろ。真夜中にガサゴソやったらお隣さんに迷惑だからね。Wikipediaでちょいちょいと調べるのがちょうどいいのさ。
「いい加減ですね。ところで、ぺこりさんと江戸川乱歩の出会いは?」
そりゃあ、もちろん『少年探偵団』シリーズだよ。市立の図書館で借りて読んだような気がする。でも、全部読んだのかなあ? 遠い記憶なので自信がないや。南洋一郎訳の『アルセーヌ・ルパン』のシリーズは姉が持っていたので全部読んだ。後年になって、あれは意訳というか超訳だと知って愕然とした記憶がある。僕は翻訳物を読まないから、本当のルパンを知らないってことになるね。
「話が脇道に逸れてますよ。きちんと江戸川乱歩を論じてください」
クソ、痛いとこ突くなあ。まずは新潮文庫の『江戸川乱歩傑作選』を読んだような気がする。もしかしたら読んでないような気もするんだよな。自信ないや。
「脳細胞が随分死んでいますからね」
うるさい。それはそれとして、ちくま文庫の『江戸川乱歩全短篇』これは絶対読んだ。内容は忘れちゃったけどね。これ、日下三蔵さんの編なんだ。この人、復刊のプロフェッショナルだね。文庫じゃなくて単行本が多いから、あんまり買っていないけれど。
「また道を外そうとしている」
黙れ、かっぱ。お皿割るぞ。静かにしろ。
「ひえー」
それから大人になって、光文社文庫から『江戸川乱歩全集』ってのが刊行され始めたから、僕それを買って読んでいたんだ。最初の頃の配本は面白い小説が載っていて楽しんで読んでいたんだけど、途中から『幻影城』なんかの評論が出てきちゃったんだ。これがまことに面白くない。乱歩の研究者なら資料的価値もあるだろうけど、純粋に読書を楽しみたい僕には苦痛でしかなかった。それにこの全集は定価が高い。馬鹿らしくなっちゃって購読をやめちゃったんだ。
「じゃあ、江戸川乱歩は偏愛作家じゃないんじゃないですか!」
まあ、はっきり言っちゃえばそう。でも評論を途中の配本で出すかなあ。小説が続けば、僕だって買っていたよ。たぶん。
「では本題に入りましょう。江戸川乱歩はミステリー作家だったのか否か」
確かに初期の『二千銅貨』とか『心理試験』、『D坂の殺人事件』なんかはミステリーだと思うよ。でも途中から、通俗小説。今で言ったらサスペンス小説作家なんじゃないかなと僕は思うよ。それに、乱歩大先生はプロットを作るのが苦手で、行き当たりばったりで書いていたから、途中で行き詰まり、失踪をよくしたらしい。未完絶筆も多かったみたいだね。
「ぺこりさんと一緒ですね。プロットを作らない」
やだなあ、大先生と一緒にするなよ。
「褒めたわけではありません」
ああ、そう。まあ、行き当たりばったりで書くから通俗小説が多くなるのは当然だね。それに、異常愛をテーマにしたものも多い。今ならBL、百合小説だよ。
「じゃあ、乱歩大先生は、なぜ、大先生になったんですか?」
それは、戦後、後進の指導をしたり、若手を引き立てたりした活動のためだと思う。ミステリーの振興のため、雑誌『宝石』のオーナーになったり、小林信彦さんに『ヒッチコックマガジン』の編集長をさせたりしている。SFにも興味を持ち、若手作家を世に出している。日本推理作家協会初代理事長もしている。そういう面での懐の大きさが「大乱歩」を生み出したんだと思う。
「では、結論を」
乱歩はミステリー作家でもあり、通俗小説作家でもあり、ミステリーを世に広めたプロデューサーでもあった。ということかな。
「うまくまとまりましたね」
僕疲れたよ。なんだかとっても……
「そのギャグは前にやりました!」
しょぼん……
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