第6夜 今邑彩はどうですか?

 ねえ、かっぱくん。このところ、睡眠薬がよく効いて眠れてしまうんだよ。

「よかったですね」

 でもね、そうするとこのコーナーのコンセプトである『眠れない夜のつれづれにミステリーを語る』という大前提が根本から崩れてしまう。

「いいじゃないですか。昼間に書けば」

 それじゃあ読者さんに嘘をついていることになる。

「誰も気にしませんよ。だって目次には更新時間出てませんもの」

 うーん、そうかなあ?

「だいたい、このコーナー、誰も読んでいませんよ。『カクヨム廃人』の中にいた時も、目立ってPV少なかったし、初日の昨日のPV12ですよ。たった12。安心してください。ほとんど誰も見ていません。自由にやりましょう」

 そうだね。でもPV12かあ。打ち切りもそう遠くないな。


 さて、今日ご紹介する偏愛作家は今邑彩さんです。残念ながら先年お亡くなりになりました。五十七歳の若さです。惜しい方を亡くしました。今邑さんは『卍の殺人』で、東京創元社の全十三巻の推理小説シリーズ「鮎川哲也と十三の謎」のうちの一冊を公募する企画「鮎川哲也と十三の謎 十三番目の椅子」で最優秀作品に選ばれデビューしました。これがのちの鮎川哲也賞になります。

「たしか、鮎川先生の作品は結局未完だったんですよね」

 そう、長編『白の恐怖』を改稿・改題し、出版する予定だったんだけど出なかった。

 それはそうと、僕が今邑彩さんに気づいた当時は中公文庫の『つきまとわれて』と『ルームメイト』ぐらいしか生きてなかった。

「あとは重版未定ですね」

 重版未定。便利な言葉だ。絶版にしちゃうと版権を失うから、重版未定にしておいて版権だけは確保しておく。それで、その作品が万が一、映像化かなんかされた時は、増刷して儲けようというわけだ。ちょっと姑息だねえ。蛇足だけど、雑誌で休刊って言葉を使うじゃない。あれ、廃刊にしちゃうと雑誌コードを返却しなきゃいけない。雑誌コードって確保するのがたいへんだから、休刊ってことにして雑誌コードを取っておいて、次の新雑誌に使うんだ。だから雑誌が休刊になった時、いずれは復活するなんて思っちゃダメだよ。


 話が逸れちゃった。ほとんど重版未定状態だった今村さんの書籍なんだけど、どういうわけか、僕が注目し出した頃から、中公文庫で続々と復刊し出した。別に、僕が目利きって言いたいわけじゃないよ。多分、中公文庫の編集者に今邑さんのファンがいたんだと思う。そうとしか考えられない刊行ペースだったよ。

「でも、最後の作品『いつもの朝に』は集英社からでましたね」

 ちょっと不思議。でも今邑さん、集英社にもルートがあって『よもつひらさか』とか『鬼』なんていう、ホラー系の作品を出している。僕は『いつもの朝に』はあんまり評価してないんだ。上巻はミステリーしているけど下巻はそうでないんだもの。

 でも、晩年に、中公文庫からたくさん復刊してもらえて、死後も復刊が進んで、読者に読んでもらえたんだから、若くしてお亡くなりになったけど、幸せな作家人生だったんじゃないかな。著作が重版未定ばっかりの作家さんもいっぱいいるんだから。


 ああ、かっぱくん、僕なんだかとっても眠たくなってきたんだ。

「僕はパトラッシュですか!」

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