第5話「アルファブロガーとUFOの少女」
UFO出現の翌日。
大手の新聞各紙には、一面に、「UFO出現! 全裸超人美少女大活躍!」の見出しが躍っていた。
まさに、UFOと戦う、HENTAIの姿が載っていたのだ。
朝早く、
しとやかは、相変わらず、
「どういうことでございますの⁉」
「俺に言われてもな⁉」
いったい誰がこんな写真を撮ったんだろう?
新聞をよく見ると、はしっこの方に、俺も写っている。
「うっ……」
完全に巻き込まれている。
「こんにちはー!」
そんなとき、交番に、明るい声が響いた。
眼鏡をかけた少女が、大きなカメラを手に現れた。
年のころは、しとやかとそう変わらない……十代半ばというところだろうか。
「私、
「まさか、君が、この写真を!?」
「いやー、全国紙の一面を全部この写真ですよ! 読者提供として、私の名前もクレジットされているでしょう?」
「本当です!」
しとやかが、新聞の写真の横に書いてある、名前を確認して、俺に見せてくる。
「なんでこんな写真を撮ってるんだよ!?」
「私、こういうものです」
紙子は、名刺を俺に差し出した。
「アルファブロガー……?」
「ええ、いつもは、ネット上で活動しているのですが、今回は、なにしろUFOですからね! 大スクープですよ!」
「それはそうかもしれないが……」
他に、報道すべき事件はなかったのか?
だとしたら、昨日は、平和な一日だったということになる。
なによりではあるが……。
「実は、動画もWEBに公開していたのですが、すぐに消されてしまったんですよね。UFOと全裸で飛行してる女の子の映像、なんで消しますかねー? ほんとに理不尽ですよね」
紙子が、眉間にしわを寄せて言う。
ばたり、と音がした。
振り返ると、しとやかが卒倒している。
(きちんと仕事をする運営でよかったな……)
そんな動画、削除に決まっている。
「でもまあ、すぐ転載されるんですけどね」
しかし、紙子が、にやりと笑ってみせる。
「国内大手の動画サイトはさすがに無理ですけど、海外であれば、もっとUFOにも関心が高いと思いますし、全裸の超人との戦闘も、まず間違いなく注目されると思いますよ! 仮に特撮だと勘違いされても、すぐに専門的な技術で、本物であることが確認できるはずですし」
しとやかが、跳ねるように起き上がり、紙子に食ってかかる。
「削除できないんですか⁉ こここ、このような破廉恥な映像を流すなんて……!」
「私にも無理ですねー。もはやネットにあげてしまったものですし」
たしかにそうだ。
いったん、インターネット上に公開してしまえば、いくらでも複製可能になってしまう。
「おまえな、これは犯罪だぞ!」
「何を言います、これは言論の自由、報道の自由ですよ!」
「そういう問題じゃない!」
この子には、厳重な注意が必要だろう。
注意だけですめばいいんだが……。
だが、俺は、違和感に気がついた。
「ところで、
「あ、いえ、その」
紙子は、しとやかと、HENTAIのことが結びついていないようだった。
たしか、HENTAIの力で、きちんと、しとやかのことを見ることはできないんだった。
しかし、なぜ、紙子は地面にひざまずくことなく、映像を撮影できたんだろう?
それに、悪人は全員改心するんじゃなかったのか?
「ああ、
「えっ!? いつのまに⁉」
「無断撮影だし、肖像権の侵害だぞ……」
まあ、牛車で道路を占拠するのもどうかしているが。
「ふむ。興味深いな」
さっきから、ずっと、おろおろしていた、しとやかの雰囲気が変わる。
「どうやら動画や、写真であっても私の姿を見ると改心するらしい。それで、昨日の犯罪件数が減っているのではないか?」
「そういえば……!」
たしかに、昨日は、事件や事故の数が普段より少ないのだ。
今日も、まだ午前中の早い時間だが、大きな事件が起きたという連絡は入っていない。
「つまり、彼女の報道は、地球の平和に役立っているということだな。インタビューに答えるのはやぶさかではないぞ」
「やめてください!」
しとやかが、HENTAIの発言に割り込んでくる。
「あの、なんの話です?」
紙子が、しとやかの、一人芝居のような状況にきょとんとしている。
そんなとき、交番の奥から、小さな足音がした。
「おお、あなたが! 昨日、UFOの中にいたという……!」
「エイリ、今はちょっと、中に入っててくれないか?」
だが、彼女は、首をかしげる。
「エイリちゃんっていうんですね。お話を聞かせていただきたいです!」
「やめろって、こんな小さい子に……!」
俺は、紙子を押し止め、エイリに近づけさせないようにする。
UFOの中から見つかったエイリは、すぐに救急車で病院に連れて行った。
しかし、彼女は、すぐ意識を取り戻し、外傷もなかった。
医師の話では、熱などもなく、健康な状態だという。
「でも、なんで、この子、交番にいるんですか?」
紙子の問いに、しとやかが、ジト目で俺を見てくる。
「本当は、児童を保護してくれる施設に預けるべきだと思ったんだけど……」
エイリは、とことこと俺に歩み寄り、手をぎゅっと握ってきた。
「近所の子の可能性だって高いじゃないか。親も心配しているだろうし、俺がちゃんと家まで送り届けてあげたいんだよ」
俺は、エイリの髪の毛をなでる。
やや長めの髪は、小さい子特有の柔らかさがある。
エイリは、素性に関しては、自分の名前しか答えられず、苗字も住所もわからないのである。
「
「な、なに言ってんだよ! 恐い思いをしたのに、知らない人ばかりのところにいきなり連れてって大丈夫かなと思って」
「そういう場合、かえって、専門的なケアが必要なのではありませんか?」
「おまえ、そんな恰好で、やけに発想が現代的だな?」
「エイリ様のためです」
しとやかが、俺にロリコン疑惑をかけているのはわかるが……。
どうにも、自分になついている小さい子と、離れるのは忍びない。
「では、私もお手伝いしましょう! UFOから発見された少女の身元を、私のブログで呼びかければ……」
「絶対やめろ」
「絶対にダメです」
紙子の提案に、俺としとやかの声が重なった。
「あれ?」
ふと、気がつくと、手のひらの柔らかい感触が消えている。
「エイリ、どこ行った?」
周囲を見回すが、彼女の姿はなかった。
「うわあああああああああああっ!!」
そして、その時、交番の外から、誰かの悲鳴が聞こえたのだった……!
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