悪夢
「博士! クライル博士!」
クライルが宇宙服を身に着け、調査隊としての準備を整えている時であった。外部ハッチへつながる通路から慌ただしい声が響き渡り、誰かがクライルの名を叫んでいた。
手首につけられたボタンを押すと、宇宙服が縮んで自分の体形にフィットする。視界を広く確保されたヘルメットがシュッと音を立てて密閉され、空気が送り出されるのを確認すると、クライルは急いで廊下を走りだした。
とは言え、可動範囲を制限される宇宙服では歩いているのとほぼ変わらない。降り立った星の予想外な過酷な環境に、ただでさえみんなが混乱している中で、今度はなにが起きたのかと不安が増した。
「どうしました? なにが起きたのです?」
廊下を曲がって外部ハッチへとたどり着くと、十数名の調査隊たちが倒れているひとりの隊員を取り囲んでいた。
膝をついて様子を見ていた医師が、駆け寄ったクライルに振り返る。
「顔に、ひどい火傷を負っています」
「火傷? どういうことですか、ローレン医師?」
「私にもわかりません。隊員たちが言うには、ただハッチの外に出ただけだ、と言っています」
「なんと言うことだ」
倒れている隊員は、痛みのために身をよじり、くぐもった悲鳴をあげている。完全に錯乱しているのか、クライルの腕を必死でつかんでは何かを叫んでいた。
「あああ、なにか、なにか、ああああ」
「大丈夫です、落ち着いて」
症状を確認する医師と一緒に、クライルは火傷を負った隊員の手をにぎって落ち着かせようとする。
「有害な光や波を防止するヘルメット越しでも、こんな火傷を負うなんて」
クライルは外部ハッチを振り返る。空に広がる黒煙のために外は薄暗いにもかかわらず、それらを通過して肌を焼くなどと常識では考えられない環境であった。
「ああああ、はやく、はやく閉めて、あああ」
焦点があわないまま、倒れた隊員は手足を激しく振り回す。それを医師と一緒に押さえつけると、クライルは声をはりあげた。
「はやく担架を! 急いで処置室へ運んでください!」
騒然とするなか、クライルの腕をつかむ傷ついた隊員は、狂ったように何度も首を振った。
「ちがうちがうちがう、なにかなにか、なにか、なにか、い、る」
何かを訴えていた隊員の言葉は、新たな悲鳴にかき消された。
いや、もはや悲鳴とも呼べない残酷な断末魔であった。誰もが目を向けたそこで見たものは、外部ハッチ近くに立っていた若い隊員のヘルメットが砕け、血液をまき散らしながら体が引き裂かれる光景であった。
○
「博士。クライル博士」
隣にすわっていた医師・ローレンに声を掛けられ、クライルは我に返った。隔離された倉庫に放り込まれた〝それ〟は、カメラを通してモニターに映されていた。
「クライル博士はどう考えますか」
みな顔が青ざめている。
つい先ほど、数名の船員が一瞬にして判別不能にまでに引き裂かれたのである。無理もない。
「みんなも承知の通り、今回の事件は、この計画の発足時から危惧されていた根本的なリスクです。外宇宙へ旅立ち、ほかの住居可能な惑星に移住するとなれば、そこに生息する現生物との共存問題は当然起こりえる事でした」
「共存だって?」
巨大な移住船にて住居ブロックを代表するリーダーたちは、誰もが人間ならざる者の脅威にあきらかな拒絶を見せている。種の保存による本能であろうか、自らに危険を及ぼす種との対立は避けられない方針をしめしている。
「クライル博士。あなたは、あの生物と共存できると考えているのですか? 我々は一方的に虐殺されたのです。そんな下等生物たちと、仲良く暮らせと?」
モニターの中で黒く異彩を放つそれは、死体となった今でも人間たちに体の奥底から恐怖を呼び起こす悪夢の象徴として横たわっていた。
「そうは言っていません。そもそもは、私たちのほうが外来種なのです。この惑星の原生生物を刺激しないように、船を中心に防衛コロニーを建造するプランが最適でしょう」
「このまま一生怯えて暮らせと? 孫の代になっても、さらにその祖先たちも、我々人類が閉鎖された空間で生き恥を晒し続けるなど」
「だからと言って、この惑星中の敵性生物を根絶するなど不可能です。さらには、当初のデータと違って現在の大気成分では我々人間は暮らせません。長期計画による外気正常化ユニットで、惑星環境を少しずつ改善させる事です。そうなれば自然と害敵は環境の変化により淘汰されるでしょう」
「それは、いつ頃の話になるのかね」
「少なくとも、数百年はかかるでしょう」
「ふざけるな!」
叩きつけられた拳により、テーブルの上のカップがひっくり返った。中身の液体が資料を濡らしたが、誰も気に留めない。
「こんな化け物がウヨウヨいる星だなんて聞いていない! 我々は騙されたんだ!」
「だからと言って、もう引き返せません。私たちの母星はもう人間が住めない状態です。この惑星が、我々人類が生き残る唯一の希望なのです」
「楽園だと言ったではないか! チクショウ! チクショウ!」
誰の責任でもない。
絶滅の危機に立たされた人類は、移住できる可能性のある星を求めて宇宙へ散ったのである。自分たち以外の船はどうなったのであろうか。無事にたどり着けたであろうか。安全な惑星だったのだろうか。
誰も知る由もない。
もう後戻りはできないのである。
クライルは移住計画の技術責任者として、自分たちが生き残るうえでの安全な環境開発を任されている。そこで出した答えに、全員が納得できる物ではないとクライル自身が良く分かっていた。そして、この移住計画の責任まで問われることが筋違いであることも。やり場のない絶望を誰かにぶつけなければ、正気すら保てない状況なのである。
とにかく、いまクライルはこの惑星で生き残る方法を考えなくてはならなかった。最愛なる妻と子供のためにも。
「皆さん。絶望する気持ちはよくわかります。けれども、いま私たちは力をあわせて」
そのとき、部下である技術者の一人が資料を片手に飛び込んできた。
「博士、クライル博士」
自分の名前が呼ばれる時は、いつも良くないことが起こった時である、そう感じていた。そしてまた、今回も的中した。
○
その報告を受けてから、クライルとローレンはまるで密会のように、人目を避けるように二人だけで小さな部屋で顔を突き合わせていた。
無言で向かい合う二人の心を反映したのか、部屋の照明は薄暗い。どちらも、さきほどから無言のまま押し黙っている。
クライルは目を閉じ、ローレンは顔を手で覆ったままだ。快適に調整されているはずの空気は重く、室内には船が発する低い振動ノイズだけが流れ続けている。
意識しなければ聞き取れないほどの小さなノイズではあるが、注意深く耳を傾けると時折、不規則な揺れを感じ取ることができる。普段であれば気に留めることもない事柄であるが、いまの二人には人類を紡ぐ糸がほつれる絶望の響きとして聞こえていた。
「それが、我々が生き残るための唯一の方法、最後の手段だと言うのですか。クライル博士」
「そうです。船の動力炉に異常が見つかり、安全装置が働いて半年後には停止します。そうなれば、水も空気も濾過循環されなくなります。外に出られないいま、動力炉が止まった時点で私たち人類は滅亡します。ドクター・ローレン」
「だからと言って、そんな事はあまりに、あまりに非人道的です。仮にクライル博士の方法を実行するにしても、いったい誰から、そしてもし失敗したら、と言う問題が出てきます。そうなれば大混乱になるのは目に見えています」
「ドクター」
ローレンは目を開けたが、デスクを見下ろしたままである。お互いの顔は見ていない。いや、見られないのである。
「たしかに、非人道的です。残酷で、人としての尊厳も、人権も、すべて無視する事になります。けれども、それらはすべて、私たちが生き残ってから必要になるものです」
ローレンは「ああ」と心の底からうめき声をあげた。
「ですから、公平に全員一緒です」
クライルの言葉に顔をあげたローレンの目は、驚き、恐怖、そして絶望に見開かれた。
「なんですって?」
「人の命がかかっています。誰かを使って実験、失敗、改良などという手順を踏むわけには行きません。ドクターが完成させた時点で、全船員に一斉投与します」
「お待ちください。もし失敗したら」
「人類が絶滅します。ですから、ドクターには完全なものを作り上げていただく必要があります」
「そんな、そんな、私にそんな責任を押し付けるつもりですか。あまりに無茶です。私の手によって何万人もの船員の命が」
「申し訳ありません。ほかに方法がないのです」
「これは悪魔の所業です。私は人類史上に医者としての悪名、いえ神への冒涜者としての名を残すことになる!」
「決定し、指示を出すのは私です。ドクター」
「だからと言って。成功しても、失敗しても、私は医者として、人として最大の禁忌を犯す事になります。私はこんな事のために医学を学び、医者になった訳ではないのです。私は、人を救うために医者になったのです」
「まさに人を、人類を救うためです」
「これが!」
ロレーンは、デスクの上に放置されている資料に手を叩きつけた。そこには格納庫に隠された、この惑星の原生生物の黒い死骸がプリントされていた。
「この生物の遺伝子を我々人間に投与して、短期間でハイブリット化させるなど不可能です! 仮に成功したとして、それを人間と呼べるのですか!」
「この惑星の生存環境に適応するからには、身体的な変化は当然起こりえるでしょう。確かに、外見は変わるかもしれません。ですが心は」
「人間のままだ、とでも言うのですか。いまだかつて誰も経験した事のない悪行です。あまりに無知数ですし仮に成功したとして、心身にどのような影響が出るかなど想像もつきません。私たち人間は、周囲の環境や自らの外見も含めて自我を形成しています。生まれたばかりの子供ならまだしも、すでに自我が形成された大人にそんな変化が起きたら、確実に拒絶反応が出ます」
「投与に成功したら、具体的に身体にどのような変化が起きるのでしょうか」
ローレンは再び顔を覆った。大きく深呼吸を繰り返し、神に祈るように手を合わせたローレンは、考えられる予想を答え始めた。
「遺伝子組み換えと違い、ベースとなる人間に投与しますので、体の構造は大きく変わらないでしょう。頭部、そして手足など基本は人間のまま。ですが、骨格以外は大きな変化が起きるでしょう」
「どのような」
「影響が顕著に出るのは、まず皮膚でしょう。強烈な放射線、紫外線、熱線、酸性雨といった物理的な影響から身を守るために、この原生生物と同じような硬化質な形へと変わるでしょう。次に筋肉組織、内臓にかんしては未知数です。ただ、あの船内に侵入した原生生物を見る限り、人間離れした変化が起きる事は確実です」
資料を手に取ると、ローレンはその中から一枚を取り出してクライルに差し出した。調査した原生生物の資料の一部を指さす。その指は震えていた。
「肉体的な変化もそうですが、何より精神的な変化を重要視しなくてはなりません。この資料によると、この原生生物は獰猛で共食いをするとあります。この気質を受け継いだとしたら大変危険です。私たちは高度な知能があり、身を守るために武器を使用します。いまは理性によってお互いを尊重し、争いを回避しています。ですが、この投与により、武器を所有する知能の高い私たちの理性が失われたら」
「同士討ちが始まる」
「それでも、実行するのですか? 成功しても、失敗しても、私には人類が滅亡する未来しか見えません」
「技術者として、私に考えがあります」
「お聞かせください」
「いま私たちが所有する火器には、味方への誤射を防ぐためのセーフティシステムが導入されています。そのプログラムをナノマシンにて同時投与し、脊髄へと定着させます。成功すれば、次世代からは自動的に遺伝として引き継がれるはずです」
「そんなことが?」
「理論上は可能です。ですから、今後半年間で私たちは確実に成功させるために、命をかけて計画を進めなくてはなりません」
ローレンは空を仰ぎ、クライルは自らの手をみつめた。自分たちに何万人と言う船員たちの命、人類の未来が委ねられているのである。
「クライル博士。仮に投薬が完成したとして、どうやって船員たちに説明するのですか」
「それは外気から身を守る予防接種である、という形で投与します」
ただでさえ青かったローレンスの顔から、さらに血の気が引いた。彼の手が震えているのは怒りか恐怖か、それとも単に貧血の症状であろうか。
「何の説明もなしにですか」
「生き残るためとはいえ、あのような化け物になるとわかれば大反発、混乱、暴動は確実です。否定して尊厳死を望む者もいるでしょう。私たちの使命は、船員たちを生き延びさせる事です」
「クライル博士。奥様にも、何も言わないおつもりですか」
絶望に握り詰められたローレンの言葉は、静かな室内でも聞き取れないほどに小さく絞り出されたものであった。
どれほどの沈黙が流れたであろうか。クライルはまぶたに妻と未来の子供を描きながら静かに、けれども強い意志を持って「そうです」と返答した。
「わかりました」
返答は短かったが、ローレンもクライルの抱える苦しみと覚悟を感じ取ったのである。
こうして、計画は実行された。
○
人類が形成した地獄の定義が覆された。
人が人で無くなる自我の崩壊は、生物に備わった本能がすべてを支配すると言う、まさに獣の目覚めであった。その暴力的な衝動は残された人間としての心のはざまで圧縮され爆発した。
ある者は投薬そのものに耐えられず死亡し、ある者は自我の崩壊により死亡した。またある者は、変わり果てた姿に耐えられず苦痛から逃れるために命を絶った。
そして生き残った者は、内側から噴き出した本能に突き動かされ、自己防衛のために他者を排除する者もいれば、狩猟本能によって他者を食い潰す者もいた。混乱の波は瞬時に船員たちを飲み込み、各々の意思とは無関係にすべてが殺し合いに支配されていた。湧きあがった衝動は自我を超越し、まき散らされた赤い血液は恍惚なまでの甘美な毒として船員たちを酔わせ続けていた。
悲鳴、咆哮、怒号、そして慟哭。
獣たちは殺し合いを続け、長期的に淘汰される危険性があった人間たちは、自らの本能により急速に絶滅へと近づいていた。過酷な環境に耐えうる力が、もとより人間が持っていた暴力性により増幅し結果として種の絶滅危機に陥るとは何たる皮肉か。計画者はこの危険性を考えなかったのであろうか。
クライルは、これがどんなに危険な計画であっても、必ず成功するという確信があった。それは人間だけが持つ、未来を切り開く〝意思〟と〝愛〟の存在であった。種を繋ぐ生存本能と呼んでも良いだろう。
そう、母性の力である。
我が子を守るための、無償の愛。
どんな絶望も、障害も、必ず乗り越えられるとクライルは信じていたのである。自分たちの子を守るために、妻であるアンレイラ。
その母なる力を。
「この子は渡さない」
アンレイラの爪が、多方より伸びて来る同族たちの魔手を切り裂いた。かつては知人で会った者、人間であった者、〝夫〟であった者。
そのすべてを排除した。
容赦はしなかった。
母親として我が子を守るため、アンレイラは自分に近づくあらゆる存在を許さなかった。まさに、純粋な母性本能のみが彼女を突き動かしていた。
「渡さない渡さない渡さない」
のばされた腕を食いちぎり、その爪で相手の体を突き通し、
引き裂いた。我が子を守る、と言う絶対的な力が体の奥底から噴き出し、その意思がアンレイラの肉体にもいちじるしい変化をもたらしていた。
外敵から身を守るため、その体は何重もの硬化質な皮膚によって覆われていた。傷つき、血を流すたびに体は再生し、その都度より強固な肉体として生まれ変わっていく。
濁流のように襲い来る外敵を殴り、突き飛ばし、叩きつけた。肉体が悲鳴をあげ、四肢の関節が砕け散る。
アンレイラはその場に倒れこんだが、胎内に宿る新たな生命の輝きに導かれ、脈打つごとに進化と再生を繰り返した。
再生された関節は、より強固で柔軟に、そして強固な皮膚が包み込む。黒く、硬く、鋭利な角をともない、全身を守る鎧となって姿を変えていた。
再び立ち上がったアンレイラは、もはや人間の原型をとどめていなかった。全身を黒く変質した皮膚が覆い、赤く返り血に染まった姿は悪魔そのものである。いまだ襲い来る敵の頭部を握り潰し、床に叩きつけ、彼女の周囲には屍が山となり重なってゆく。
ガラスに映った自らの姿に、アンレイラは吠えた。
「渡さない、この子は渡さない。たとえ、
屍の上に立ち、最愛なる子の名を呼んだ。
「我が子、ゼノン!」
○
デストシア帝国軍・宇宙艦隊総旗艦ルシフェンヌ。
小惑星ほどの大きさを誇る巨大な船の中で、暗闇に包まれた無音の一室にて皇帝ゼノンは目を覚ました。
一瞬の夢であった。
それは現実にあった事なのか、彼が抱いた幻想なのか、または誰かが見せた幻なのか。長く生き過ぎたために、記憶の彼方より浮かび上がる色褪せたものであった。
凄惨な光景にもかかわらず、その記憶は温かい光としてゼノンの目を覚まさせた。途切れてしまいそうな細い糸を気が遠くなる時間をかけて手繰り寄せ、たどり着いた場所。
彼の眼下には青い惑星が広がっていた。
地球。
いまその惑星は、赤いオーロラ状の光によって包まれていた。デストシア帝国軍の戦艦が放つ光が折り重なり、獲物を締めあげる巨大な赤い蛇として襲い掛かる時を待ち構えていた。
帰ってきた。
なぜそう思ったのか。ゼノン自身に残されたわずかな遺伝子がそう思わせたのか、今まさに蹂躙されようと震える地上の恐怖に呼応し、彼もまた激しい衝動に突き動かされていた。
聖戦の終わりか、新たなる虐殺の始まりか。
天文単位の命を食い潰した先に辿り着いたこの場所が、探し求めた楽園なのであろうか。自分から光を奪った復讐と安らぎを求めて。
強大過ぎる存在には狩られる側の悲鳴など聞こえるはずもなく、人類の恐怖と混乱は小さな星の瞬きとして赤い光に飲み込まれていた。
宇宙艦隊総旗艦ルシフェンヌを中心に各二万隻の戦艦を有する七十二艦隊は、地球の主要都市制圧の為に網の目状に展開を始めていた。
地球という小さな惑星を制圧するには、あまりに過剰な軍勢である。しかし、たとえそれが単独行動による事故であったとしても、デストシア軍設立以来無敗を誇った彼らの長が撤退を余儀なくされたなど、強さと誇りによりその存在意義を見出している彼らには自らの存在そのものを脅かす事件であった。
さらに、その発端となった原因が同族の裏切りによるものとあれば、彼らの信仰たる礎の「武士道」が大きく揺らぐ事柄である。かくなる上は、その威信と誇りを保つために、元凶となった星もろとも汚点を排除する。それがいまのデストシア軍を動かしている理由であった。人類からすればあまりに不幸な話ではあるが、その存在を知られてしまった以上もうこの魔手から逃れる事はできない。
一隻の宇宙戦艦すら所有していない人類には対抗する手段は何ひとつなく、空を埋め尽くす血塗られた悪魔の眼光にただただ恐怖するしかない。当初は核ミサイルによる防衛作戦が計画されていたが、デストシア軍の存在を目の当たりにした時点ですべてが破棄された。あまりの戦力差に、世界中の核ミサイルを撃ち尽くしても無駄であると思い知らされたのである。戦う前に諦めたとなれば聞こえが悪いが、それは戦力が拮抗していた場合や勝てる見込みがわずかでも残されていた場合に適応される言葉である。すなわち、人類はこれは戦争ではなく一方的な虐殺であると理解したのだ。恐怖に立ち向かうのは勇気だが、勝てない戦いに挑むのは無謀である。
では、ただ殺されるのを待つだけなのであろうか。
地上に立つ人類が、そう空を見上げた時である。暴風雨を運んでいる暗い雲越しでも視認できる赤い光が、一斉に輝きを増した。
攻撃が開始されたのである。
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