絶望

 船内は、絶望に包まれていた。

 乗員たちはみな、窓際に押寄せるとあまりの光景に唖然とし、怯え、打ちひしがれていた。口々に泣き、叫び、最後には怒り狂った。

「いったいどう言うことだ!」

「話が違う!」

 窓の外は砂塵の嵐が吹き、石の大地が広がっていた。かすかに見える彼方の山脈では、大量のマグマと黒煙が空を染めていた。噴火とともに船が揺れ、乗員たちの不安を煽り続ける。

「はめられたんだ、おれたちは騙されたんだ!」

「いったい、これのどこが水と緑が豊かな星なんだ」

 騒然となる船内の大ロビーから、クライルはそっと抜けだすと自室へと戻った。

 薄暗い部屋のなかで、ベッドで横になっていたアンレイラが身を起こした。

「どんな様子だった?」

 暗い表情を浮かべたアンレイラの頬に、クライルは手をあてた。

「みんな、不安に駆られて怒ってる」

「そう」

 あたたかいクライルの手を握り、アンレイラは目を閉じるとそっとため息をついた。

 自分も不安であったが、それよりも身籠っているアンレイラのためにクライルは何度も髪を撫でて落ち着かせようとする。

 彼はアンレイラを、自分たちの子を守って幸せにすると誓ったのだ。そのためなら、クライルはなんでもするつもりであった。

 だが、子を守る母親の本能であろうか、最近のアンレイラはずっと神経質で気が高ぶっている。そこに突きつけられたこの現実は、彼女にとって耐えられるものではなかったのだ。

 もちろん未来を取りあげられたすべての乗員とて、同じ気持ちではある。

「それは、そうよね。わたしたちは緑豊かな星に移住するために、危険を冒してまで何年もの旅をして来たのだから。それなのに、たどり着いた星がこんな」

 アンレイラの言葉を引き継いだように、噴火によってまた船が揺れた。

「大丈夫だよアン。まだ、この星のすべてを調べたわけではないんだ。たまたま、火山地帯に船が降りてしまっただけかもしれない。明日にでも調査隊が編成されるらしいから、希望を捨てないで」

 調査隊と聞いて、アンレイラは夫の顔を見た。

「あなたも行くの? クライル」

「うん」

「だめよ。行っちゃだめ」

 絶対に放すものかと、クライルの首にしがみついた。その手は震え、家族の未来を危惧していた。

「外にでたら危険だわ、そばにいてクライル。このままずっと、安全な船のなかにいましょう。あなたの身になにかあったら、この子はどうなるの?」

「アン。聞いてアン。ぼくは、きみたちを守るために、この星を自分の手で調べたいんだ。必ず、みんなが快適に住める場所を探してくるから」

 顔をあげたアンレイラの瞳には、不安の色が濃く浮かんでいる。

「大丈夫だよ。約束したよね、アン?」

 クライルの胸に顔をうずめると、彼女は小さく頷いた。

 

 翌日の調査隊は、隊員の悲鳴によって希望を切り裂かれた。

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