66話「レーヴェハイム」

 ミーナが振り向いた先には、茶色い髪の少女が居た。

「あ、エミナさん、大丈夫だった?」

 ミズキが言った。こちらに向かっているのは強力なドリルブラストでミーナを、そしてアークスを助けてくれた少女、エミナだった。


「ええ。ごめんね、心配かけて」

 エミナは、ミズキとミーナに近寄ると、にこりと笑いながら言った。

「でも、もういいんだよ。瑞輝ちゃん、昨日も、その前も、ずっと同じこと言ってるよ」

「だって、あの時、助けを呼んできて戻ったら、エミナさん倒れてるんだもの、びっくりするよ」

 エミナはアークスを助けた時、アークスを回復させるための魔力消費の影響で、町の人がリーゼの所へ到着した時には気を失っていた。

「魔力、結構使っちゃったから。でも、また魔力の回復、遅くなっちゃったんだろうな」

「気長にやろうよ。あ、そうだ。シェールさんに教えてもらったんだ、手を繋ぐと、魔力の受け渡しができるって。僕の方が魔力量の回復は早いみたいだから、もしもの時は手伝うよ」

「ありがとう。でも、手と手で魔力を受け渡すって、それなりの練習が必要なんだよ?」

 エミナが自分の手を見ながら言う。

「そうなの? じゃあすぐには無理かぁ……」

 ミズキも、自分の手をくるくる回しながら、表裏を見ている。


「ミズキちゃんなら、練習すれば、きっとすぐに出来るようになるよ。今度練習する時、やってみよ?」

「そう……そうだよね。何事も練習だよねぇ」

 何をやるにも練習だ。ミズキはそんな事を思いながら、手に持った、少しだけ白くなった練習用の札を見る。

「ああ、そっか、今はディスペルカースを早く覚えないとだよね。そっちの方は、すぐ使えないと困るんだもんね。まずはディスペルカースを……」

 ふと、エミナは何かに気付いた様子で言葉を切って、ミズキの手首を掴んで、ゆっくりと自分の顔の前に運んだ。


「あ……ちょっと効果出てるよミズキちゃん!」

 エミナが、呪いによって黒くなった練習用の札の、少しだけ白くなった部分を見て、喜んで少し飛び上がった。

「うん……なんかね、少し効果が分かるくらいには上達してきたみたい。だけど、まだまだかな。多分、ディスペルカースは、こんな精霊力が満ちてる場所じゃあ使わないから、今のままじゃあ魔法を発動させることすら出来ないと思う。ここでだって、こんなに効果が小さかったら、殆ど使えないようなものだしなぁ……」

 ミズキが首を傾げて、手に持った札を軽く振り、ピラピラと宙に漂わせた。


「そんなことないよ。呪文の効果が表れるようになれば、あと少しだよ!」

「そうなのかなぁ……どうにも上手くいかないんだよな、このディスペルカースは……」

 ミズキが札の、一点だけ白くなった箇所を、じっと見つめる。


「ミーナちゃんも、そう思うぴょんよ。ミーナちゃんも補助魔法は苦手だったぴょんが、最近、使えるようになってきたぴょんから!」

「そ、そうなのかい? そっか……」

「じっくりやるしかないよ。焦ったところで練習時間が増えるわけでもないし」

「そうだよねぇ……」


 ふと、会話が途切れた瞬間、風が少し強く吹いた。

「わ……」

 ミーナの顔が、少し熱くなる。少し強く吹いた風になびいた、エミナの茶色い髪とミズキの薄ピンクの髪が、ミーナにはとても美しく見えた。

「ふーむ……」

 ミーナが腕組みをして、ミズキとエミナをじっと見る。二人共、出会った時のように、綺麗なバトルドレスを着ているわけではなく、ごくごく普通の普段着だが、ルックスや顔は中々ではないか。


「え? 何? なんか変なとこ、あるのかい?」

 ミズキとエミナ、二人の姿をじーっと見ているミーナに、ミズキが話しかける。


「あー……いや、二人共、綺麗な髪してるぴょんなって思って……」

「あら、ミーナさんもそう思う? 私も時々、うっとりしちゃうんだ。ミズキちゃんの髪って、綺麗だよね、やっぱり」

「ミーナさんは二人って言ってるよ。エミナさんだって綺麗なんだよ」

「そう? ふふふ、ありがとう、ミーナさん。ミーナさんもかわいいよ」

「おっと、またまたー、おせじは要らんぴょんよ。……ところで、アークスの治療って、どれくらいかかるぴょんか?」

 ミーナはつい先ほど、ミズキから、アークスの治療にエミナが関わっていることを聞いた。エミナに聞けば、アークスの怪我がどれくらいの具合なのか分かるはずだ。


「うーん……」

 エミナは人差し指を頬に当てて、空を見た。そしてしばらく考え、答えた。

「あと二日、三日は安静にしてないとかな……?」

「おろ……? そんなもんぴょんか。週単位でかかると思ったぴょんが……」

 アークスは、かなりの重体だった。ミーナの見立てでは、てっきり数週間はかかると思っていたが……。


「内臓のダメージは大きくて何か所か縫ったりはしたけど、外傷はそれほど無かったからかしら。勿論、その後も暫くは無理したりして傷が開かないようにはしないといけないけど」

「そうぴょんか……」

 ミズキは、エミナの回復魔法は強力だと言っていた。その影響で治りが早くなることもあるだろう。どちらにせよ、早くなる分には助かる話だ。


「どっちにしても、治りが早くて助かったぴょん。あまりこの村には長居したくないぴょんからね」

「そんな、遠慮しなくていいよ、ゆっくりしていって」

「エミナさん……いや……そういうわけにはいかないぴょん。多分、ミーナちゃん達は狙われてるんじゃないかと思うぴょん」

「ええ?」

「狙われてる……?」

 ミズキとエミナが怪訝そうな顔つきでこちらを見た。


「そうだぴょん。ミーナちゃん達が、なんであんなストーンゴーレムに襲われてたのか……なんとなく見当がつくんだぴょん」

「あー、そっか。そういえばそうだね。あんなモンスター、この辺りには居ないもんね」

「ミズキちゃん、多分、あれ、召喚モンスターだと思う」

「召喚……召喚魔法か……あんまり馴染みが無いな……」

 ミズキが首を傾げ、エミナはそのまま続ける。


「あそこで誰かが召喚魔法を使って、ミーナさん達は、召喚されたストーンゴーレムに襲われた。ストーンゴーレムを三体も召喚した人物が同じなら、かなり熟練した魔法使いみたいね」

「そうそう、そうなんだぴょん。ええと、この町の人が知ってるか分からないけど、マッドサモナーって奴の仕業に違いないんだぴょん」

 そう、一番確率が高いのは、マッドサモナーだろう。そして、マッドサモナーが近くに居るかもしれないという事は、この町の人にも教えておかなければならないだろう。ミーナはこれまでの経緯と、マッドサモナーの事を、ミズキとエミナに話した。

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