第16話 友人からもらったHなDVDが幼なじみ♀に見つかって気まずい3

 新聞の勧誘か何かだろうと無視を決め込んで寝転んでいた将人だったが、鳴り止まないインターフォンに次第に苛立つ。

 ――あ。

 思うところがあってスマートフォンを掴む。アプリを立ち上げて見れば、長月光からのメッセージが届いていた。

『ケーキを持って行きますから、家にいてくださいね』

 ――これだな。

 むくりと上体を起こして、首を鳴らす。お節介やきが身近にもいたのを思い出した。

 ――ケーキ持参でってことは、おれの誕生日を覚えていたってことか? ……まさかな。

 長月光は火群紅と同じくらい付き合いが長い。むしろ、自身の兄と彼女の姉が幼い頃から仲良しで、今や結婚も秒読みという関係であるため、割と昔から家族ぐるみの付き合いがある。親密さで言えば、光の方が深いだろう。

 ――だが。

 あまりのしつこさに辟易してきたところで、将人は立ち上がる。玄関前に立ってドアの小さな窓から覗くと、サラサラのおかっぱ頭が目に入った。間違いない、光だ。

 将人がドアを開けると、彼女が顔を上げた。身長差が三〇センチほどあるため、顔を見ようとすれば彼女が見上げる形になる。大和撫子といった雰囲気の美人顔が、不満そうに歪められていた。

「寝ていたんだから、仕方ねぇだろ」

 眠っていたわけではないが、横になっていたのは事実だ。言い訳をすると、彼女は睨んでくる。

「ちゃんと連絡しましたのに、ヒドいです」

「睡魔には勝てねぇよ」

 それとなく光の格好を確認する。一度帰宅して、着替えてきたようだ。ダッフルコートから覗くロングスカートは、少なくとも宝杖学院の制服ではない。マフラーをしていてわかりにくいが、トップスはハイネックのセーターのようだ。

「ご自分の誕生日でしょうに、ゴロゴロして終わらせるつもりなのですか?」

「人それぞれだろうよ」

 玄関で長話をする趣味はない。ドアを大きく開けて彼女を招く。彼女はケーキだけ置いて帰るような女ではない。一緒に食べてから帰るつもりだろうと察した。

 入れとジェスチャーで促せば、光はぎゅうぎゅうに詰まった買い物袋と小さな紙箱を持って室内に上がり込む。

「何か作るつもりなのか?」

 買い物袋を奪って、中身を見た。鍋の準備らしい食材が突っ込まれている。どれもカット済みであり、スープで煮込めばすぐに食べられそうだ。

「えぇ。温かいものを食べていただこうと思いまして」

「ケーキだけで充分だが」

「そんなのつまらないじゃないですか」

 楽しそうにそんな台詞を返されると、どう答えたものだかわからない。彼女の手料理が美味いということは、何度かここで喰わせてもらっているからよくわかる。

 ――惚れた男にだけ、ご馳走してやりゃあ良いのに……。

 毎度、喰わせてもらいながらそんなことを思う。幼なじみという立場を利用しているみたいで居心地が悪い。

 だが、最近は少しだけ見方が変わった。予行練習に付き合わされているだけ――そう考えてみれば、光の幸せを願う将人としては悪くない。いつか彼女に相応しい男が現れたときの踏み台になってやろうと感じていたのだ。

「――ケーキ、冷蔵庫に入りそうにねぇから、先に喰っちまっても良いか?」

 キッチン側は暖房が効いていないので寒いが、ケーキをそのまま置いておくのには不安がある。ちょうど小腹が減っているので、夕食前に食べてしまうことを提案した。

「えぇ。将人くんの好きなようにどうぞ」

 以前この家に置いていった土鍋の状態を確認していた光が、こちらを見て微笑んだ。

「んじゃ、部屋で待ってろ。紅茶くらい出してやるから」

 寒い中を来てくれたのだ。たまにはもてなしてやろうと、将人は勧める。ドアの向こうの私室は暖かいはずだ。身体を冷やすのはよくない。

「では、お言葉に甘えて」

 嬉しそうににっこりと笑うと、光は勝手を知った調子でドアを開けて部屋に入ったのだった。

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