第15話 友人からもらったHなDVDが幼なじみ♀に見つかって気まずい2

 誕生日プレゼントだという小包は帰宅してすぐに届いた。割れ物注意のステッカーが妙に気になる。スクールバッグくらいのサイズの箱であるが、あまり重くはない。

 将人は奥にある自室に運んで、中身を確認することにした。ガムテープを乱暴に剥がして、箱を開けてみる。中身はDVDと――。

「…………」

 何を目的としたものが入っているのかを理解したところで、将人は箱を元通りにし、そっとベッドの下に追いやった。こういうことなら、もう少しガムテープを丁寧に剥がせばよかったなと幾ばくかの後悔をしつつ、頭痛を覚えて額に手を当てる。

 ――何考えてやがる……。

 自分の兄と同じ歳だと思ったが、やっていることが子どもじみている。社会人であるいい大人が高校生相手にこういうことをしてきたのだから、明らかにからかって楽しんでいるのだろう。かんばしい進捗を報告できずにいた嫌がらせだとも取れる。

 将人はスマートフォンを掴んでアプリを起動させると、メッセージを入力する。

『プレゼント、ありがとうございます。早速明日にでも送り返しますね』

 余計なお世話だという気持ちを込めてメッセージを飛ばすと、電話が掛かってきた。画面には出水いずみ黄治おうじの文字が表示されている。この誕生日プレゼントの送り主だ。

 ――無視しても意味ないからな……。

 渋々通話にして耳にあてる。すぐに声がした。

「ハッピーバースデー、黒曜くん。せっかくのプレゼントなのに、そこまで嫌がることないんじゃないかな。君の好みに合わせて選んだんだよ? ちゃんと見てくれたかい?」

 黄治のどこか含みを持った喋り方は、どうにもいけ好かない。

「処分に困ったからといって、押し付けてこないで欲しいんですが?」

 相手は七つも年上だ。できるだけ丁寧な言葉遣いを心掛けながら、ゆっくりとした口調で言ってやる。

「それは心外だなぁ。独り暮らしで寂しいだろうと思って、送ってあげたのに。なにがお気に召さなかったのか、後学のために訊いていいかい?」

「全部だ、全部」

 イラっとして即答する。

 老舗旅館の若旦那という立場の彼は、仕事中の時間帯であるにもかかわらず余裕の雰囲気で喋っている。案外と暇なのだろうか。

「――とにかく、送り返しますから」

「えー。もうそれは君のなんだから、適当に処分しちゃってよ」

 つまらなそうな、いたって面倒くさそうな口調で返された。

 ――手間掛けさせられてるのはどっちだ。

 なんでこんなヤツの誘いに乗ってしまったのだろうと思う。あのときは必死で、ろくに考えていなかった。数ヶ月前の自分を愚かだと言って罵ってやりたい。

「着払いにしておきますんで」

 さっさと通話を終えたい。不毛だ。

「どうしてそんなに不機嫌なんだい? 僕が早く家に帰るように指示したせいで、紅ちゃんを部屋に連れ込み損ねたのかな?」

 想い人の名を出されて、将人は返答を詰まらせる。動揺していた。

 連れ込むも何も紅には避けられっぱなしであるし、光が常にそばにいて目を光らせている。不用意に近付けば何を仕返しされるかわかったものではない。紅を抱いて自分のものにしてしまいたい衝動は確かにあるが、今はこの距離のまま、彼女を守ることができればいいとも考えていた。

 ――だからおれが、紅を傷つけるようなことをしちゃいけない。

「……ほっとけ」

 返す台詞が浮かばなくて、ぼそりと呟く。

「いやぁ、それは悪いことをしたなぁ」

 全く悪びれない調子で、黄治が告げてくる。将人が文句を言う前に彼は続ける。

「だったらなおさら、紅ちゃんを思いながら使うといいよ。じゃあね」

 こっちから通話を切ってやるつもりだったのに、向こうからあっさり切られた。

「…………」

 スマートフォンの画面を見ながら、将人は行き場のない不満をどう処理したものかと思案する。ぶつける相手が思い付かない。

「はぁ……」

 ――気にする方がアホだな。

 途端に馬鹿馬鹿しくなって、ベッドに寝そべる。どうせ誰かが来るような用事もない。自分の誕生日だからといって、何か特別なことをしたいとも思わなかった。そもそも、両親は忙しくてあまり家におらず、イベントごとに無頓着だったということもあってこだわりがないのだ。

 ――一眠りして、気持ちを切り替えるか……。

 大きな欠伸をする。目の端に涙が溜まったところで、インターフォンが鳴った。

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