第4話 衝撃的な再会4

 十月十一日金曜日、放課後。

 光は紅の付き添いとして、校内にある星影の森に向かっていた。紅がある人物たちと待ち合わせをしていたからだ。

 星影の森の入り口には、すでに三人の人影があった。

 ――この三人が並ぶと、本当に映えますわね。

 想い人がいたとしても、彼らを見れば心が一瞬奪われるはずだ。

「お待たせ。一人になると危ないからって、光に送ってもらっちゃった」

 紅は彼らを見るなり小走りで駆け寄る。そして、あとからやってきた光に向き直る。

「いつもありがとね」

 無邪気に笑顔を向ける親友を見て、光は意地悪な気持ちがふっと湧いた。将人が想いを寄せているのは間違いなく紅であるのに、彼女の心は完全に別の方を向いているから。

「いえいえ。――しかし、こうして並んでいるのを見ると、なかなか華やかですわね」

 微笑みながら光は意図的にのほほんと言う。

 宝杖学院の女子生徒たちの大半が思っていることに違いないのだが、親友はそう考えることはないらしい。大怪我を負ったときに男性恐怖症を患った彼女にとって、彼らは男性とは別枠で認識されているのかもしれない。

「ふふっ、そうでしょ? 紅ちゃんにもっと言ってあげてよ。どんだけこの学院の乙女が憧れている状況なのか、わかってないみたいだからさ」

 誇張した調子で告げたのは、待ち合わせ相手の一人である白浪しらなみ遊輝ゆうきだ。二年生であり、生徒会では副会長を務めている。長めの銀髪を肩口でまとめ、紅い瞳と白い肌が特徴的。女性のように見える美貌の持ち主だ。この三人の中では一番背が低く、線は細め。だから余計に女性っぽく感じられた。

 そんな遊輝を、紅は冷ややかな目で見つめる。

「自分で言うと価値が下がりますよ、先輩」

「えー、どうして紅ちゃんはこの希少性を理解してくれないのかなぁ」

 むすーっとしてじっと紅を見つめる。

 紅が先に視線を外した。好みの外見である遊輝にそんな仕草をされては、やはり落ち着かないのだろう。

 そんなやり取りをしている紅と遊輝を見て、楽しそうに光が笑う。

「うふふ。憧れの白浪先輩と仲良くなれてよかったですわね」

 告げて、残りの二人を見る。

 一人は星章せいしょう蒼衣あおいだ。この三人の中では彼の背が一番高く、遠目に見てもスタイルがいい。きちんと整えられた黒髪、灰色の瞳。幼い頃の紅の発言によりかけ続けることになったサファイアブルーの柄がついた伊達メガネをつけている。男らしいハンサムな顔立ちで、幼い頃から人気がある。

 残るもう一人は金剛こんごう抜折羅ばさら。日本人男性の平均身長はあるだろう背丈と、スポーツをやっていそうな雰囲気の引き締まった体格を持つクラスメイトだ。癖のある黒髪に、同じく真っ黒な瞳。前髪が長めで目元を隠しがちなのは他人と距離を取るためだと本人から聞いていたが、実のところは童顔な顔立ちを隠したいからだろう。

 光は表情が変わらないように細心の注意を払って、言葉を続ける。

「星章先輩と少し距離ができて寂しそうにしていた春先からすれば、今はすっかり関係も回復しているみたいですし、金剛くんもアメリカから戻ってきて安心できましたものね」

 抜折羅はアメリカの実家に緊急の用事があり、今日まで半月ほど休みをとっている。こうして彼がここにいるのは、ちょうど復帰が決まったところだからだ。

 さらに説明を加えるなら、金剛抜折羅が火群ほむらこうの本命である。

「ひ、光っ!?」

 紅は光と三人の間に慌てた様子で割って入り、光の手を握る。顔が真っ赤だ。

「ちょっと、何言ってくれるのよっ!!」

「全部本当のことじゃありませんか」

「本当とか、そういう問題じゃなくてっ!!」

 言いながら、紅は三人を指差す。そんな話を本人を目の前にして言ってくれるな、というジェスチャーだ。

「……わたくしだって紅ちゃんの幼なじみです。ヤキモチくらい焼きますのよ?」

 三人には届かない音量で、光は呟く。親友が動揺してくれたことで、なんとか満足できた。あとのことは彼ら三人に任せれば問題ないはずだ。

 ――それにわたくしでは、何もできないですもの。

 親友が遠ざかっていくのがわかる。でも、足手まといになることがわかっているから、首を突っ込むことはできない。

「――ではわたくしは用事がありますので、この辺で。紅ちゃんをよろしくお願いいたしますわ」

 紅の手をそっと解くと、光は三人に頭を下げる。

「長月さん、いつも紅の面倒をみてくださりありがとうございます。貴女も周囲には気を付けてくださいね」

「はい。――これで失礼いたします」

 蒼衣と言葉を交わすと、光は立ち去った。

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