第3話◆黯然銷魂の異世界転移◇




「おっはよう~。珀っちこんな所で突っ立て何やってんの?」


 友人の木嶋きじま 裕也ゆうやだ。朝から元気だ。


「ん、おはよう。少し立ちくらみしたみたいだ…」

「またまた~。朝からジョークが冴えてるね~。珀っちは!天変地異が起きてもそんなこと起こんないよ。大丈夫。だいじょ~ぶ。それよりもさぁ妹ちゃんいつ紹介してくれるの?早く紹介してよ。俺の予測では絶対美少女でしょ!何せ珀っちのいも〈バシッ〉―いって~。」

「朝からやかましい」


 若干暴走し始めた裕也の頭を叩いて止めてくれたのは、葉山はやま 和樹かずきだ。

 2人とは高校1年からクラスが一緒で、馬が合い友人になった。和樹と裕也は幼稚園からの友人でその為か、いつも暴走し始める裕也を止めるのは和樹だ。和樹は腐れ縁だと言い張るが。


「おはよう和っち。朝から暴力ハンタ~イ」

「おはよう珀斗」

「おはよう。和樹」

「あれ?和っち。俺は?ねぇ無視なの?―あっ!そ~だそんな事よりも…」


 そう言いながら裕也が、自分自身の鞄を漁り始める。


「俺さぁ最近小説書くのにハマってて、俺の妄想が詰まりに詰まってる一品なんだけど。良かったら感想聞かせてよ。コピーしてきたからはい、珀っちの。で、こっちは和っちの」

「あぁ、読んでみる」

「…言っとくが小説には煩いぞ。ジャンルは何だ?」

「魔法、異世界、ファンタジ~!」

「ふ~ん……〈パラ〉…〈パラ〉」

「あっ!お願い目の前で読まないで。さすがの俺も恥ずいから〈くねくねくねくねくねくね〉」

「〈スパーンッ〉…キモい動きをするな。そして此れは小説じゃなく、単なるお前の妄想と願望の綴り書きだ」

「そうだな。でも魔法の発想とか凄いな。俺には無理だ。そして裕也の動きが俺も気持ち悪いと思ってた」

「そうだろ。そうだろ。キモいだろ。でもこの位の魔法の発想は、他の小説で結構あるぞ」

「へぇ~。そうなのか…」

「2人とも酷くない?俺の扱い酷くない?!」

「フッ」


 思わずのいつものやり取りに笑みがこぼれる。先ほどあった不安はいつの間にか小さくなっている。



 2人は異質な俺と一緒に居てくれる稀少で大切な友人達だ。






 *****





 日付が代わり今日は約束の日曜日。菜々美が朝から張り切っている。

「お兄ちゃんおはよう~!今日はお出掛けだね!」

「おはよう。行く準備は出来たのか?」

「もちろん準備万端よ!」

「あらおはよう菜々美、珀斗。随分早く起きたのね。今軽く食べれるもの作るから待っててね」

「母さん。俺も手伝うよ」

「私も私も~」



 あれから毎日、菜々美を迎えに行っているが今のところ何の問題もなく、平和な日々を過ごしている。

 ただ強盗犯は捕まっておらず、まだ安心は出来ない。


 俺が気を引き締めとかないとな。あの日から立ち眩みは起きていないし大丈夫だろう。

 そう思うが朝から嫌な胸騒ぎは無くならない。






 *****





 ―???side―

 くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!皆俺をバカにしやがって!すれ違っただけでバカにした目で見やがる!

 殺してやるっ!殺してやるっ!殺してやるっ!オレヲバカにしたヤツは皆殺しだ!今度はブチ殺しテヤる!

 そうだ、ヒトがイッパイイルトコロニいこウ…ソシタラ沢山コロセル…いひっ!イヒヒヒヒヒ…






 *****





「――やっと着いた。車で来なくて正解だね」

「あぁ、凄い混んでるな。これじゃあ車を駐車する事も出来なかっただろう」

「バスで40分もかかると思わなかったわ~。歩いた方が早かったかしら?」

「ねぇねぇ、皆はやく中に入ろうよ!」

「そうねぇ、入りましょうか」

「そうだな此処で突っ立てても仕方ないし」

「行くか」



 そこそこ見たら帰るだろ。


 俺もそう思ってた時期がありました。父さんも俺の横で似たような表情をシテオリマス。


「きゃ~!あの店舗人気の雑貨店じゃない?」

「あらあらあらあら、母さんもテレビで特集みたわ~」


 父さんとさっと視線を交わし頷き合う。


「あのさぁ母さん、菜々美?俺達すぐそこに見えるベンチで―「何言ってるのお兄ちゃん?これからが本番でしょう?」」

「あらあらそうよ?菜々美の言う通りだわ」

「いや、しかしだね美恵子さん、「あら?何かしら聡さん」いえ、ナンデモございません」



 まだまだ付き合わせさせられる様だ…。





 *****





「あら、もうこんな時間なのね。そろそろ帰りましょうか」

「んーそうだねまだ見たり無いけど…。今度はお兄ちゃんと来るから今日はもういいや」

「え゛?まだ見たり無いのか?」

「もう十分見ただろ…」

「何言ってるの聡さん、珀斗。まだまだよ」



 そんな会話をしながら出口を探して歩いていると、またあの立ち眩みがやって来る。



 《…―――ド ク リ―――…》



 この前のより激しい立ち眩みで足がフラつく。


「う、ぁ…」


 父さん達が異変に気が付き心配そうに声をかけてくる。


「お兄ちゃん?!」

「珀斗!」

「大丈夫か?!」




 ――――――…我が…よ――――――…




 頭に声が響いたと同時に激しい頭痛と耳鳴りが襲う。



 <キィイイイイイイイィン>



「な、んだ、これ…あたま、がわれ、る」


 立ってなられなくなりその場で足から崩れる。


「救急車呼んでくるっ。お前達は付いといてやってくれ!」

「父さん私も行く!出口探すの手伝うよ!」

「あぁ、分かった。恵美子さん珀斗をよろしきたのむっ」

「菜々美、聡さん待ってるわっ」



 朦朧としてる意識の中で菜々美と父さんが足早に去っていく姿が見えた。






 *****





 ―???side―

 いるいるいる。オレヲバカにするゴミがイーパイいる。手始メニ近くにイるあの女から――ゲヒッ



 ゲヒヒヒヒヒヒヒ






 *****





「珀斗。心配しなくて大丈夫だからね。すぐ聡さんと、菜々美が来てくれるから大丈夫よ」


 まるで自分自身に言い聞かせるように、母さんが何度も同じ言葉を繰り返す。




 ―――そんな中、突如女の人の尋常じゃない叫び声が響き渡る。



「ギャァア――――――――――」



「何だ?!」

「うわっ!女の子が刺されたぞ!!」

「ヒィイ」

「逃げろ!!男が刃物を持っているみたいだ!!」


 父さんと菜々美が行った方角から叫び声と共に人が押し寄せてくる。


「…聡さん、菜々美…?」


 母さんが顔を真っ青にさせてフラりと人の流れとは逆方向に向かって行く。


「かぁ、さ、んいっ、ちゃだ、めだ…。」


 呼び掛けるが痛みで朦朧としていて掠れた声しか出ない。


 人が疎らになって兇器を持っている男の姿が見えてくる。兇器の刃から血が滴り落ちる。男足元には夥しい量の血が広がっていてその血だ溜まりに何人か倒れている。

 その内の2人は見覚えがありすぎるぐらい見間違えようのないさっきまで一緒に居た2人。



 血塗れの父さんと、菜々美だった――。



「あ゛あ゛いや、嘘。ウソ。聡さん、菜々美…いや、いやイャァア―――――――――――」


 2人の姿を確認したと同時に母さんがその場で崩れ落ちる。



「かぁさん、にげ、ろ…。にげてく、れ…!」


 こんな時に体が痛みで動かない。


「ナンダァ?こいつウルサイゴミだナァ」


 男はそう呟くと母さんの首に刃を突き立てる。


 ドシュッ


 ブシュュュユウッ


「ガ、ふぅ゛」


 ドシャッ


 母さんが血溜まりに倒れる。


「あーシズかにナッタ」


 絶望で目の前が涙で滲む。


「あ、あ、いゃだ、う、そだ」




 悲惨な光景にどこか既視感を覚える。



 ―――ろよこいつ白目剥いてやがる



 頭に画像が流れてくる。誰かの記憶――。



「うぁ゛」




 ――もう死んだんじゃねぇ?まだ遊びたりなかったのによっ!


 ――ドカッ


 ――あ゛ぐふぅ


 ――ビチャビャッ




「ぁ゛あ」




 ――ッチ!汚えこのチビ!何か出しやがった!


 ―――あー?シズかになったな――





 ―――――シ ン ダ ン ジャ ネェ ?―――――






「あ゛あぁガアアアアアアアァ―――――」





 ……―――時は満ちた…――――――




 先ほどの声が響き全てが見えなくなるほどの光が周りに溢れる。そんな中薄っすらと何かを視界に捉える。




 これは――魔方陣…?




 意識が白く染まっていく。





 とう、さん、かあさ、ん、ななみ―――――――――










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