第4話◆異世界にて◇




 ――お兄ちゃんいつまで寝てるの?もう起きなよ。

 そうねぇちょっと寝坊助さんね。いい加減起きなさい。

 珍しいな珀斗が起きないなんて。

 フフッ。そうかもしれないわね――


 あぁ、あれはヤッパリ悪い夢だったんだ…。

 だってほら父さんも母さんも菜々美も、あんなに幸せそうに笑って…



 ブシュユウッ


 ゲブゥ゛


 みんな一瞬にして血塗れになる。



 あ、ぁ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。



 ――珀と?


 ――は く ど ?


 ――お に゛い ぢ ゃ ん?――


 ビチャビャッ


 大量の血が滴り落ち血溜まりができる。



 嘘だ、嘘だ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソだ、ウソ、ウソ、ウぁぁあ゛ア゛!!!!




「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

「ニギャアアアアアアアア!!!!」


 ドタドタ


 バンッ


「何だ?!敵襲か!」

「違うにゃ!」

「じゃあ、叫ぶじゃねーよ!」


 ――――何処だここは…?ぼんやりとした頭で考える。会話をしている男女も見覚えがない。格好もおかしい。まるで裕也が書いた小説に出てきた様な冒険者の格好だ。

 男は短髪に岩のように大きく筋肉質で腕や首に傷痕があり、中でも顔にある額から顎にかけての傷痕は男の顔を凶悪に見せている。歳は30後半位だろうか。

 女の方に至ってはショートカットで頭に猫の耳みたいなモノが着いている。歳は俺と同い年か少し下位に見える。短パンからはどうなっているのか、尻尾みたいなのが生えていて時折ゆらゆらと動いている。本物だろうか?


「それは仕方ないにゃ。様子を見に来たらこのお兄さんがいきなり飛び起きて叫ぶからビックリしたのにゃ。だから私は悪くないにゃ」

「そういう問題じゃね~だろ!」


 ぺしっ


 胸を張りながら答えた女の頭を男が軽く叩く。


「痛いにゃ!か弱い女の子になにするにゃ!」

「ったく何がか弱いだ。森で行き倒れてた坊主が起きたのか…。よう、気分はどうだ?」


 男は女の方に向けてた視線をこちらに向け、安心させるためかニカッと笑みを作るが威圧感が増してより凶悪な顔になる。これでは子供は泣いて逃げるだろう。

 そんな若干失礼な事をまだ働かない頭でぼんやり思いながら森で行き倒れてたらしい俺を助けてくれた恩人に礼を言う。


「ありがとう。体調は…大丈夫みたいだ」

「そおかそいつは良かった。ところでお前さん何であんなところに居たんだ?」

「あんなところ…?すまない何処だろうか?」

「だからあのシナアの森だよ。そこそこ凶暴な魔物が出るから危ね~んだよ。お前さん武器持ってないだろ。武器どころか何も持っちゃいやしねぇし。あぁ、悪いが所持品調べさせてもらったぞ」


 シナアの森…?聞いたことがない。頭が急速に回転し始める。武器?魔物?そもそも何で森に居た?

 父さんは?母さんは?菜々美は?俺が意識が無くなる直前に見たのは魔方陣ぽいもの…。


「此処はどこの国だろうか?」

「そんなことも覚えてねぇのか?マーデリス国だろ?」

「マーデリス国…。」

「そう。マーデリス国んで此処はタフタ村」


 マーデリス?タフタ?嫌な予感がする。


「このお兄さん大丈夫かにゃ?」

「俺に聞くんじゃねーよ」


 地球じゃないのか…?


「…じゃあ、この世界の名前は?」

「おいおいこの世界の名前まで覚えてねーのか!この世界の創造主で唯一の神の名を借り名付けられた世界。ダリスだよ。子供でも知ってんぞ」

「…ダリス…創造主」

「このお兄さんやっぱりダメだにゃ」

「マジかよ」


 ……父さん母さん、菜々美。思い出すのも悍ましい光景。生きている可能性は限りなく低い…。

 しかしここが異世界と言うならば希望はある。

 ――――魔方陣。あのとき見た魔方陣が見間違えなければ、魔法はあるはずだ。不可能を可能に出来るかもしれない未知の力。何故、来たのかは解らない。だが、この世界に来たことは悪い事ではないのかも知れない。

 伏せていた視線を2人に向ける。


「―――あのお兄さん記憶喪失かにゃ?」

「あ~ぁ厄介なもん拾っちまったよ」

「そんにゃこと言って、記憶喪失って解っててもぜったい拾ってたにゃ。極悪人な顔してお人好しにゃ」

「悪いか!そういう質なんだよ。仕様がね~だろ」


 この2人は信用できるだろうか…?そんなことが頭を過るが、直感が告げてくる。大丈夫だと信用できると。

 そもそも見知らぬ人間を助ける様な人達だ。余程人が良いんだろう。


「話しをしているところ悪いが少し良いだろうか?」

「あん?」

「にゃ?」

「先ずは自己紹介をさせてもらう。向坂 珀斗だ。呼び方は珀斗で構わない」

「にゃ?記憶喪失じゃないのにゃ?とりあえず自己紹介にゃ。シュナリにゃ。シュナリって呼んで欲しいにゃ」

「俺はザイガだ呼び捨てで構わねぇ」

「ザイガ、シュナリ。2人に聞きたい事がある」

「なんだ?」

「この世界に魔法は在るだろうか」

「マホウ?何だそりゃ?シュナリ聞いたことあるか?」

「ないにゃ」


 魔法がない?いや…呼び方違うかも知れない。聞き方を変えるか…。


「…じぁ、火や水を出したりは?」

「ハクトが言ってるマホウ?ってこれかにゃ?《火の星の小さき力よ我手に集え 灯火ファイア・ライト》」


 ボッ


 呪文の様な言葉を紡いだ途端、シュナリの掌に小さな火が灯る。


「っ!!熱くないのか?」

「これは“星の力”って言うにゃ。掌から浮いてるし、自分で出した星の力は熱くならないにゃ。自分の制御から外れると熱くにゃるけどにゃ」

「制御?」

「そうにゃ。例えばこの火をロウソクに点けると、ロウソクの火は熱くて触れないにゃ。これ以上詳しいことは解らないにゃ」

「いや、ありがとう。十分だ。…2人に折り入って頼みがある」

「何だ?」

「この世界の常識と、“星の力”この二つを教えて欲しい」

「常識と星の力?」

「―――あぁ。俺はこの世界とは異なる世界からやって来た。只とは言わない。頼む教えてほしい」


 誠心誠意を込めて、頭を下げる。

 此処で諦めてしまったら、もう二度と会えない気がした。大切な人達に。

 だから諦めるわけにはいかない。もう一度会うために。










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