第2話◆前兆◇




 リビングで椅子に座りながら、ダイニングテーブルに新聞を広げて読んでいると父さんが2階段から降りてくる。


「父さんおはよう。はい、新聞」

「あぁ、おはよう」

「ここ近辺で、強盗があったらしい。まだ犯人捕まってないみたいだ。新聞に載ってた」

「そうか、菜々美と美恵子みえこさんにも気を付けるように言っとかないとな」

「菜々美は帰りに迎えに行って一緒に帰るよ。中学校丁度通り道だし。行きは友達と行ってるから大丈夫だろ」

「お前が付いていれば安心だな」

「ん、任して。いくら中学校が家から近いとは言え心配だし。父さんも気を付けろよ?」

「フフっ。そうだな愛しい我が子を悲しませないように、気を付けるよ」

「またンなこと言って」


 父さんは恥ずかしげもなくそう言うことを、ポロっと言うのだ。

 こっちが恥ずかしくなってくる。


 2人でそんなやり取りをしていると、菜々美がリビングにやって来る。


「あっ、父さんおはよう」

「おはよう珍しいな菜々美。もう起きてたのか」

「私だってたまには早く起きることもあるわ」


 えっへんっ!っと、胸を張って菜々美が答える。


「あらあら、『朝早くからお兄ちゃんに起こされたー』とかさっき言ってなかったかしら?」


 母さんが出来上がった料理を運びながら、菜々美に話しかける。


「うっ!」


 菜々美が図星を指され項垂れる。


「でもそうね~。今日みたいに早く起きた方が良いんじゃないかしら?時間ぎりぎりで起きてくるから、迎えに来てくれてる友伽里ゆかりちゃんに何時も待ってもらってるし」

「でもでもっ学校には遅刻してないしっ」

「それとこれとは別。お友達との約束はちゃ~んと守らないとだめよ。はいっ、この話は終わり。珀斗、菜々美ご飯運ぶの手伝って」

「「はーい」」



 今日の朝食は、焼き鮭、野菜の煮付け、漬け物、味噌汁、ご飯と和食のメニューだ。

 家では皆朝食をしっかり食べる。朝ご飯は体の資本だしな。

 そんな事を考えながら食べていると、父さんが皆に話を振ってきた。


「そうだ皆、今度の日曜日に出来たばかりのショッピングモールに行かないか?」

「駅前の?!」


 菜々美が、前のめりになって父さんに聞く。


「あぁ、そうだ」

「行くっ!新しい洋服とか欲しいし」


 菜々美が目をキラキラ輝かせて答える。


「菜々美また父さんに強請ねだる気だろ」

「えぇ~。父さん駄目?」

「偶には良いだろ。但し2着までな」

「やった!ありがとう。父さん大好き!」

「もう、さとしさんたら菜々美には甘いんだから」




 朝食を食べ終わり暫くすると、もう学校に行く時間だ。

 父さんは少し前に家を出て仕事に行ている。


「時間だしそろそろ行って来る」

「あら、もうそんな時間?気を付けて行ってらしゃい」

「うん。行ってきます」


 靴を履いて外に出ようとすると、菜々美があわててやって来る。


「待って!お兄ちゃん私も一緒に行く」

「いつも一緒に行ってる子は?」

「今日は、用事があるから先に行ってるって」

「じゃあ、たまには一緒にいくか」

「うんっ!」


 菜々美が満面の笑みで頷く。菜々美は意外と俺にべったりだ。

 こう言ったら何だがブラコンじゃないだろうか。


「あぁそうだ菜々美、今日から暫く帰りは迎えに行くからな」

「え?何で??」


 呆けた顔で聞いてくる。


「ここ近辺で強盗があって、犯人がまだ捕まってないんだ」

「嘘!本当に?」

「あぁ、本当だ。だから俺が迎えに行くまで教室で待ってろ」

「ん…、分かった…」


 そう言いながら不安なのか、俺のブレザーの裾を少し引っ張る。


「大丈夫だ。兄ちゃんがいるだろ?」


 安心させるように、頭を撫でながら言ってやる。


「うんっ!お兄ちゃんが来るまで、待ってるね!」


 不安がなくなったのか笑顔で頷く。

 そうこう話していると菜々美が通っている中学校が見えてきた。

 ちらほら菜々美と同じ中学校の制服姿の子達が、歩いているのが見える。

 校門前まで送ってやる。


「ほら着いたぞ。」

「学校終わったら連絡するから、ちゃんと待ってろよ」

「分かった!またねお兄ちゃん」


 菜々美が手を振りながら学校の敷地内に入っていく。それに対して小さく手を振り返し、自分の学校へ足を向ける。





 ―――今思えばあれが前兆だったかもしれない―――




 高校に着いたとたんグラリと視界が歪む。



 《…――――ド ク リ――――…》



「――くっ、何だ?今のは…立ちくらみか…?」


 生まれて此の方立ちくらみなどしたことがないのに…。


 何だ?この胸騒ぎは……。


「いや―…、気のせいだ」


 敢えて口に出していってみる。不安をかき消すように。





 何か起こる予兆を感じながら――――……












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