その8
「手コキでっ!」
ノドのつまったような声で僕は叫んだ。
するとマリンは、僕のそれにそっと手をそえた。
それから僕のかたちを確かめるように、人差し指と親指で何度もつまんだ。
ボトムスの上からでも、マリンの繊細な指の動きが伝わってくる。
マリンは大きく目を見開いて、驚いたような喜んでいるような、そんな笑顔で僕のかたちを確かめた。
「こんな手応えなんですね……」
マリンの瞳は好奇心に満ちていた。
彼女は僕よりも興奮していた。息づかいが荒かった。
夢中になって身を乗り出して、僕のそれをボトムスの上から確かめていた。
僕はあごをあげた。
おっぱいに押しつぶされそうだった。
マリンのくちびるから切なげな吐息とともにつむぎ出される言葉は、甘美に満ちていた。
「ねえ、キョウくん。私が指を動かすたびに、大きく、硬く、熱くなっていきますよ? 私の手のなかでそれは熱気を保って
「うっ、うん」
「えへへ。いっそう熱く、いっそう力強くなったように感じられます。キョウくんが、もっと気持ちよくしろって、私に
マリンは自分の言葉に酔い、その手の運動はいっそう激しさを増していた。
僕は極上の快感に身もだえ、彼女の胸を引っつかんだ。
するとマリンは、びくんと肩をすぼめて
「先っちょを刺激してえ」
「振動するボールペンで」
「指がいい、ブラの上からカリカリしてえ」
「こっ、こうかな」
「やん、シャツのボタンがはじけちゃう」
「ごめん、じゃあ服の上から」
「先っちょは耳たぶの真下にありますよ?」
マリンは左腕で僕の頭をつかんで、おっぱいに押し付けた。
もちろん右手は僕のそれをとらえている。
僕は、ぐちゃぐちゃになりながらも何とかマリンの先っちょを探しあてた。
そして僕たちは、頭が真っ白になった状態でお互いを求めあった。
「キョウくん手が止まらないっ、止まらないよう」
「僕も、僕もだよ」
「このまま最後までヤッちゃうよう」
「ダメだベルトが外せないっ」
「キョウくん!」
「マリン!」
などと叫びながら、僕たちはしばらく抱き合った状態で、後部座席をごろごろ転がっていた。そこに突然、無線機が音を立てた。
サクラの声がした。
『たった今、ターゲットを逮捕した。こいつの身柄については、これから駐屯地の責任者、陸自の指令と相談をする。申し訳ないが、貴様らは先に帰ってくれ』
「「え?」」
僕とマリンは目と目を合わせると、同時に首をかしげた。
マリンは姿勢よく座りなおして無線機を手に取った。
それからマイクを手でおさえると、彼女は僕だけに聞こえるように言った。
「態度がおかしいです。捕まったのかもしれません」
「………………」
僕は、しばし考えた後に無線機に向かってこう言った。
「サクラ。イオリはいるか?」
『……ああ』
「代わってくれ」
『……キョウちゃあん』
「イオリ、聞こえるか?」
『うんっ』
僕はイオリに声が届いたことを確認すると、コシノクニィー語で彼女に訊いた。
「TKM-TNK?」
(訳:捕まったのか?)
するとイオリは、声の調子を変えずにこう言った。
『マスニロクチヌ。JWMTナキキン、TKSN』
(訳:副長室。銃を持った隊員、たくさん)
しかしその言葉を最後に、無線は途絶えた。
こちらからコールしてもまったく反応しなかった。
僕はマリンにイオリと話したことを伝えた。
マリンは即座に状況を把握した。
「サクラさんとイオリさんは、副長に見つかりました。現在は、銃で武装した隊員に囲まれ、副長室で捕らえられた状態です」
「無事なのか?」
「今のところは。おそらく隊員は、痴女ではないと思います。彼らが部屋にいる限りは、殺されることも痴女にされることもないでしょう」
「しかしどうしよう」
「救出します」
きっぱりと、マリンは言った。
僕が眉をひそめると、彼女は念を押すように言った。
「それが彼女たちにとっても、キョウくんにとっても、もっとも安全な選択肢です」
それからのマリンは素早かった。
車から降りると、トランクからたくさんの銃器を取り出した。
手榴弾や自動拳銃、銃弾、マガジン、なかにはアサルトライフルやなにかロケット砲のような物まである。マリンは次々とそれらを装備した。
僕が呆然として見ていると、彼女はユーモアたっぷりに言った。
「公安のルーツはアメリカです。といっても、もちろん日本の組織ですから、その特徴は日本らしさとアメリカらしさをミックスしたものとなります」
「うん?」
「日本人の繊細でどこかピントの外れた技術、そしてアメリカ人の豪快でテキトーな合理主義。公安はそれらを併せもった組織です。この銃を見てください」
マリンはそう言って、大きな銃をガチャリと鳴らした。
それからクスリと笑ってこう言った。
「これは、
※
マリンは運転席に乗った。
僕が助手席に座ると、彼女は大きめの銃器を僕に預けた。
そして言った。
「これから駐屯地を囲うフェンスに、ハッキングを仕掛けます。東西南北、あらゆる場所から侵入警報が鳴るようにするのです」
「えぇっ!?」
「陸自と米軍の兵士を分散させます。その後で、ゲートから突入しましょう」
「そんな大胆な……」
「海上自衛隊のルーツはイギリスです。イオリさんは、二枚舌外交などと酷いことを言っていましたが、イギリスにも世界に誇れる素晴らしい人物がいます」
「人物?」
「英国スパイ。MI6の諜報員ジェームズ・ボンドは架空の人物、かつもっとも有名なスパイですが、しかし、実にイギリスらしいウィットに富んだ、学ぶべきところの多い諜報員です」
「有名なスパイ、うん、僕も知ってる」
「有名すぎて、いかにもスパイって人物すぎて、逆にスパイに見えません。そして彼の諜報活動も、ハリウッド映画そのものの大胆なアクションで、とてもスパイのすることには見えません」
マリンは、夢見るような顔でそう言った。
それからワクワクをおさえきれずにこう言った。
「スパイのすることには見えない……だからこそ、あえてするのです。そうすれば、スパイの侵入を警戒している者は、虚をつかれます」
「まさかスパイがこんなことをするわけがないと」
「その通り。いかにも泥棒っぽい服装で、泥棒に入る……みたいな話ですよね」
マリンはそう言って、腕時計のベゼルを回転させた。
するとカーナビが反応、そこに映る駐屯地のフェンスが点滅しはじめた。
しばらくすると駐屯地は騒がしくなった。
フェンスの向こう側を、何台ものジープが走った。
やがてマリンは、満ち足りた笑みでこう言った。
「それじゃあ、行きますよ。ガラスは防弾ですが、念のため頭は下げてくださいね」
それからのことは、まさにハリウッド映画そのものだった。
マリンは駐屯地のゲートを突破すると、そのまま車を加速させ米軍エリアまで突っこんだ。
パラパラと銃弾が飛びかうなか、僕たちは車から飛び降りた。
車はそのまま直進し、米軍のショッピングモールに突き刺さった。
そして爆発、炎上した。
マリンはすばやく立ち上がると、麻酔マシンガンを腰に構えた。
それから銃弾のなかを、胸を張って堂々と歩き、麻酔弾を乱射した。
僕はあわてて彼女を追った。
建物の影に隠れてしばらく経つと、銃声はおさまった。
みな、炎上するショッピングモールに気をとられたようだった。
僕たちは、混乱に乗じて副長室のある陸自の建物に向かった。――
「みんな出払ってますね」
建物に入ると、マリンはつぶやいた。
僕は周囲を警戒しながら、うなずいた。
マリンは言った。
「これから副長室に行きます、一緒に来てください。それがおそらく一番安全です」
「うん」
「ただし、自分の身を守ることを最優先でお願いします。きっと副長がそこに居ます」
「副長……痴女がいるのか」
「サクラさんとイオリさんを見張っているはずですよ」
マリンはそう言って、階段を駆け上がった。
僕はその後を追った。
階段を登ったところで、マリンがドアを蹴破った。
拳銃を構えたまま、副長室に転がりこんだ。
銃声が聞こえた。
僕は副長室を覗きこんだ。
「マリン!」
マリンは床に突っ伏していた。
その後ろから、豊満な痴女がヨダレをたらして寄ってくる。
そしてそのさらに後ろには、サクラとイオリが縛られ、天井から吊るされていた。
「みんな!」
僕は部屋に一歩踏み入れた。
するとそれを
そして痴女は、じんわりとオッサンに姿を変えた。
その筋肉質なオッサンは、僕を見て言った。
「女に興味なしッ! 貴様を死ぬまでシゴいてやるゥ!!」
「おまえ、まさか連続手コキ魔か!?」
「小学生を襲っていたのは私だッ! しかし知ってしまったからには、はああああっ、貴様ァ、生きて帰さないぞおォォオオオ!!」
オッサンは勝手にカミングアウトしておいて、そんなムチャなことを言った。
そして気合を入れると、大きく息を吐き出した。
するとその姿が
『はぁああんんん』
痴女が腰を落とし、僕の股間をガン視しながら
その
しかし、あのスケベな痴女お姉さんの正体が、さっきのオッサンだと思うと僕のエロい気持ちは一気に
手コキにされた小学生を気の毒に思う。心からそう思うのだった。
「野郎ォ……」
僕は激怒した。
カバンから拳銃を取り出し、いきなり撃った。
僕は痴女を何度も撃った。
弾丸が何発も痴女を貫いた。
だけど頭には一発もあたらなかった。
あたらないまま、残弾数がゼロになった。
取り乱した僕が拳銃を投げつけると、痴女はニヤリと笑って舌なめずりをした。
『うふぅうううんんんん』
痴女はマリンをまたいで、僕の眼前に出た。
するとサクラとイオリ、マリンの3人がいっせいに叫んだ。
「キョウ逃げろ!」
「キョウちゃん逃げて!」
「キョウくん早く!」
僕は無意識に後ずさりした。
そのときマリンと目が逢った。
マリンは床に突っ伏しながらも顔を上げていた。
彼女は、僕が後ずさりするのを見て、安堵のため息をついていた。
そんなマリンに、僕は叩きつけるように叫んだ。
「ペンをよこせ!」
深い思慮も計算もなにもない。
勝算など、もちろんない。
ただこみ上げてくる激情を口にしただけだった。
僕はマリンに叱りつけるように再び言った。
するとマリンは、びくんとおびえ、あわてて胸もとからボールペンを抜いた。
そしてそれを僕に向かって放り投げた。
『しゃああぁぁぁああああ!!!!!』
痴女が腰をくねらせ
ボールペンは、そのわきをすりぬけて僕の手に吸いこまれた。
カチカチ――っと、僕は即座にノックする。
それから痴女の耳たぶにボールペンを照準すると、すうぅ――っとそこから真下にペン先を滑らせた。
そして飛びかかる痴女の胸の先端に、僕はペンを押しあてるのだった。
『うほぉおおおおおっ!!』
痴女は歓喜の雄たけびを上げた。
白目をむき、ヒザから崩れ落ちた。
しかしボールペンは、いつまでも微細に振動し続ける。
痴女はとろけ、快美にうちふるえ、はてはその振動の虜となった。
やがて痴女は、異様なあえぎを一声もらすと、突然しおらしくなった。
そして僕の腕のなかで、神妙な顔のオッサンに変化した。
「うわっ、キモいなっ」
僕は、あわててオッサンを放り投げた。
するとそんな僕の胸に、マリンが全身全霊を浴びせるように飛びこんだ。
「キョウくん!」
「マリン!」
僕たちは、お互いの無事を確かめるように抱き合うと、イオリとサクラを開放した。
「キョウちゃあん」
「楠木キョウ、また助けられたな」
「……うん」
※
その後のことは、よく覚えていない。
僕は3人の美少女に熱烈な
そして気がついたときには、3人が僕の胸で、しあわせそうに僕の顔を見上げていたのである。――
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