第3章 音速の痴女『ハンドジョブ』

第3章 音速の痴女『ハンドジョブ』

 翌朝。

 僕はしあわせな気持ちで目を覚ました。

 つい先程までエロい夢を見ていた。

 だってしかたがない。

 僕は2日前にマリンの生おっぱいを視たのである。

 しかもそれだけでなく、イオリに裸にひんむかれて天井に吊るされて、いろいろとエッチな刺激を受けたのだ。

 さらに昨日は、マリンと熱烈なキスをした。

 これではエロい夢を見るのもしかたがない。

 そう。ここ最近の僕は、めくるめくラッキースケベ。

 モテ期ならぬラッキースケベ期が到来してるのだ。


「しかしなあ」


 と、ここで僕は寝ぼけながらもつぶやいた。

 ラッキースケベ――それは大いに結構だが、しかし、小早川イオリである。

 こんな乙女な言いかたをするのもどうかと思うのだけど、とにかく僕のファーストキスはイオリに奪われた。それどころか裸で抱き合い、ラッキースケベどころの騒ぎではない行為に及んでしまったのである。


「僕はマリンのことが好きなのに」


 マリンから「恋人のフリから初めましょう」と告白までされて、それに僕はキスで応えたというのに。

 しかもイオリは、僕を退学に追いこんだ憎いヤツなのに。

 それなのに、僕はイオリと結構エッチなことになっている。

 全身全霊を浴びせるように飛びこんでくるそんなイオリにあらがえない自分がいる。


「ぜいたくな悩みなのかなあ……」


 僕は大の字に開いた手足をさらにだらしなくすると、ウームとうなったまま、茫然ぼうぜんとしてベッドに沈みこんでしまった。そうやって問題から目をそらして先送りにした。

 ああ、それにしても素晴らしきこの至福の時間、二度寝。

 僕はしあわせに目を閉じて、また深い眠りへと落ちていった。

 と。

 そんな絶妙なタイミングだった。

 僕は布団になにか違和を感じた。


 する、って。

 なにか潜りこんできた。

 いや、布団に。裸の女が入ってきたみたいな感触がした。

 まさに女の肌の感触だった。

 それは僕に密着していた。

 ずいぶんとリアリティのある夢だなと、僕は思った。

 世の中には、明晰夢めいせきむというのがあって、すごくリアルでしかも夢の内容を思い通りにコントロールできるらしい。僕はそれを今見てるのだなと、ぼんやり思った。

 だけど違った。


「キョウちゃあん……」


 まあ結論から先に言うと、僕の布団にはイオリが潜りこんでいた。

 イオリはおそらくパンツしかはいていない、ちなみに僕もパンツ1枚だ。

 イオリは僕の足もとから布団に潜りこみ、そして僕にまたがった。

 掛け布団と僕の間のイオリは、まるでバナナボートにしがみついたようなかたちである。


「キョウちゃん、おはよお」


 イオリは僕の手を握り、指をからませ、僕の顔を至近距離からじっと見た。

 ものすごく、しあわせそうな笑顔である。


「キョウちゃん、我慢できなかったよお」

「あっ、うん」

「ん――……」

「え?」

「ん――……。キョウちゃん、昨日、マリンにキスしたよね? だからイオリにもしてえ?」

「えっ、でも」

「キョウちゃんのファーストキスはイオリだけど、でも、いつもイオリからキスするよね? だから今はキョウちゃんからキスして欲しいの」

「えっ、うん」

「じゃないとイオリ、嫉妬であの女を殺しちゃう」


 イオリは突然、低い声で言った。

 笑顔のままだけど、なんか目がヤバい。

 僕は両手を押さえつけられ自由を奪われてる恐ろしさもあって、あわててイオリにキスをした。するとイオリの全身から力が抜けた。急におとなしくなった。僕はイオリの背に手をまわした。しばらくして口を離した。そのとき――。


「はぁああああ」


 と、イオリの口から名状しがたいうめきがもれた。

 しかも少しおびえてふるえてる。

 イオリは、照れくさそうな満足したような、よく分からない笑みをした。

 僕にまたがったまま、僕の胸にほっぺたをあてて甘えている。


 うーん。

 どうしたらいいのだろうか。

 僕が困り顔で天井を見ていると、イオリは可愛らしくスネてこう言った。


「もう、こんなことだったらパンツ脱いでくればよかったなあ」

「えっ?」

「だってキョウちゃん、熱いんだもん。今たくましくなってるもん。パンツをはいてなかったら、きっとこのまま二人でオトナになれたよ?」

「えっ、いやっ」

「でもね、キョウちゃん。イオリ、初めてはキョウちゃんにパンツを脱がしてもらいたかったの。だからイオリは、はいてきちゃったんだよ?」

「……うん」

「ううん、いいんだよ? キョウちゃんが慎重なのは、イオリ知ってる。だからパンツを脱がしてもらえるようにもっと頑張る。今日はキョウちゃんがイオリのことを好きだって分かったから、それで満足するよ」

「えぇっ!?」

「えへへ、キョウちゃん照れちゃって。キョウちゃん、イオリとくっついてるうちに熱くなったよね? イオリのことが好きだから、体がエッチOKな状態になったんだよね?」

「えっ、いやっ、それはっ」

「イオリは嬉しいよ。でも、正直に言うとちょっと恐いの。だって、キョウちゃんの熱いヤツは、キョウちゃんと違って、やさしくなさそうだもの。熱くて、硬くて、怒ってて、それに大きさ的にも体に入れるのは、ちょっとどうかと思う」

「うーん」


 僕は、からかわれてるのかめられてるのか分からなくなった。

 イオリは夢見るような顔で、僕の顔を見つめていた。

 僕があいまいな笑みをすると、イオリはニコッと笑った。

 それからイオリは僕のくちびるに、かるくキスをし、ほっぺたにキスをして、耳たぶや首筋にもくちびるで、かるくふれた。

 その後、イオリは僕の胸でイタズラな笑みをした。

 僕の体にイタズラしはじめた。


「って、イオリ! まずいよ、もう朝だよ」

「大丈夫だよお。イオリが気持ちよくしてあげる」

「駄目だって。もうすぐシンコが来ちゃう、シンコがこの部屋に来るんだよ」

「今でもシンコがむかえに来るんだね」


 イオリは僕の体をいじりながら可愛らしく言った。

 で。

 このときガチャリと窓が鳴った。


「シンコだ! シンコが来るから隠れて!!」

「そんなあ、どこにぃ?」

「とりあえず布団かぶって! おとなしくして!!」


 僕は小声で器用に叫ぶと、分厚い布団をかぶった。

 イオリは僕にまたがったままだけど、それでも頭を押しこみ、布団の中に入れた。

 するとイオリは甘ったれた悲鳴をあげて、そのままの姿勢で固まった。

 おそらく僕の上で、カエルのようなかたちになっている。

 彼女の股間からおっぱいまで何から何までが僕に密着している。

 しかし、どうにも刺激が強すぎる。

 僕は布団をアゴの高さまでかぶり、しきりに興奮を抑さえていた。

 と。

 そんなところに、シンコが顔をのぞきこんできた。


「やあ、おはよう。今日は起きてるんだね」


 シンコは、いつも屈託のない笑みだった。

 僕はとりあえず気づかれなかったことに安堵した。

 精一杯の笑みを返した。

 シンコは言った。


「相変わらずクーラーをガンガンかけて冬の布団で寝るんだね」

「部屋にパソコンあるからね。ゲーム機もいろいろあるし」

「まあ、パソコンの電源入れっぱなしだから、しかたがないか」

「熱でパソコンやられてからの習慣だよ」

「うん。ボクもふかふかの布団のほうが好きだしねっ」


 シンコはそう言って、ベッドに飛びこもうした。

 僕は、あわてて大声をあげた。

 シンコは思いっきり眉をひそめた。

 だから僕はこんなテキトーなことを言った。


「ああっ、あのっ、実は今日は全裸なんだっ」

「ん? 全裸で寝てるってこと?」

「うん。しかもちょっと恥ずかしい、そのっ、あれだ、高校生として恥ずかしいことになってしまった。だから布団には近づかないほうがいい」

「はあん? じゃあパンツ取ってこようか」


 シンコは、ほっぺたをふくらませてそんなことを言った。

 それからベッドの反対側に回りこもうとした。

 僕は、ぎゃあ――って叫んで、それを引き止めた。

 シンコは驚いて歩を止めた。

 が、しかしイオリも驚いた。

 イオリの太ももに力が入った。

 その奥の温かいところが、きゅっと締まった。

 それが僕の腰まわりにいちいち伝わってきた。

 思わず僕の息子に血がのぼる。

 そしてそんな僕の形状変化が、イオリのおへそのあたりに伝わった。


「ひゃっ」


 イオリは、僕の胸に口を押し付け、懸命に声を消した。

 ものすごい力で僕にしがみついた。

 荒々しい吐息が胸もとでする。

 その結果、女の子のいい匂いが、布団の隙間から僕の顔に吹きつけはじめた。


「ん? どうしたんだいキョウ。なんか顔色が変だよ?」

「あっ? うん、そう、変なんだ。風邪を引いたから部屋から出たほうがいい。今日は先に行っててくれないか?」

「そんなの気にすんなよお。ゲームやって待ってるから、早くシャワーを浴びてきなよ」

「いやっ! だからベッドに座るなって!!」

「なんだよ、おっかないなあ? なんでそんなにムキになるのかなあ?」

「だから全裸なんだって!」

「なんだよお年頃かよ。気にすんなって」

「いやっ、そんなこと言うけど」


 この件に関しては、いくら幼馴染とはいえ、17歳にもなって異性の部屋に勝手に入りこみ、しかもベッドでくつろいでいる、そんなシンコのほうがおかしいと思う。

 いやまあ、ベッドにはもっとおかしな幼馴染が潜んでいるのだけれども。……。

 僕がそんなことを考えていると、シンコはまるでお母さんのようなため息をついた。そして窓から出ていった。僕がほっとした顔をすると、シンコは、ほっぺたをふくらませてこう言った。


「もう下で待ってるからね! 布団を汚すのは、ほどほどにするんだよ!!」




 ※


 シンコがいなくなると、イオリは布団を放り投げた。

 溜めていた息を思いっきり吐きだした。

 それから僕の胸にあごをのせると、イオリは甘ったるい声でこう言った。


「シンコ元気だね」

「うん、相変わらずだよ」

「ねえキョウちゃん、お願いがあるの?」

「ん?」

「イオリのお尻に手を乗せて。両手で好きなだけオサワリしていいから、ねえキョウちゃん、お願い聞いてくれる?」


 お尻をさわれ――っていうお願いかと思ったけれど、それはさておき、お尻に手をのせたらオサワリする手が止まらなくなってしまった。

 イオリのお尻は、やわらかさと適度なハリが見事に共存していて、つるつるのパンツのさわり心地もよくて、僕を夢中にさせるものだった。僕がオサワリに没頭すると、イオリは快美に満ちて目を細め、可愛らしい声をあげた。


「ねえ、キョウちゃん。すこし刺激が強すぎるよ。しゃべれないよお」

「ごっ、ごめんっ」

「ねえねえ、キョウちゃん……」

「うん」

「前に言ったと思うんだけどね、イオリは上司にダマされてエキサイターを盗んだの」

「ああ」

「上司は痴女だったの。それか痴女に味方する人間。とにかく、あぁん、エキサイターを盗ませたのは大きな組織だよ?」

「そうなるな」

「そいつらは、必ずイオリを始末する」

「上司の正体をバラされたくないからな」

「イオリは、ひとりでは逃げ切れないよ」

「ああ」

「だから公安と海自に護ってほしいの。ねえ、キョウちゃんお願い。事情を説明して、イオリの保護を約束させてえ?」

「うん、分かったよ」

「まずはマリンに説明して。それからイオリとキョウちゃんとマリン、3人だけで会う約束をして」

「いいけど、なぜマリンなの?」

「サクラよりもっ、物分かりがいいから」


 イオリは恍惚こうこつの笑みでそう言うと、快美に腰をくねらせた。

 それから、ぺちんと僕の手を叩くとイオリはベッドから跳ね起きた。

 そして、あっという間にどこかに消え去った。

 その早業に僕はしばし呆然とした。


「スパイって、すごいんだな……」


 僕はそんな頭の悪いことをつぶやくと、粛々しゅくしゅくと登校の準備をするのだった。――



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