第1章18 「帰りたいという願い」
俺は現実に帰ってしまった。
夢だけど、夢じゃない。あの夢の中では人が生活し、それぞれの個性があって、そして生きている。
俺はこれをただの夢とは思えなかった。
事故に遭う前の俺は、夢なんか見るタイプの人間ではなかったし、見るとしたら何か現実味が残る様な夢はなかった。
しかし、あの世界は目が覚めた今でも鮮明に思い出せるし、食べた物、触った物、そして話した人達。
これに現実味が無いって言ったら大嘘になる。
「くそっ…フィリア…」
声に出せない声が俺の中で響いていた。
次第に涙を流していた。
外は今は真っ暗で、恐らく夜中なのだろう。
という事は、あの世界と時間系列は同じだと推測した。
「もう1度寝たら戻れるかな…」
俺は、そう思ってもう1度眠りについた。
俺は目が覚めた。外は明るかった。
しかし、あの世界に戻れやしなかった。俺はもう絶望でしかなかった。
「侑?侑!!先生!!侑が!!」
「おーこれは奇跡だ!!すぐに検査に掛かりましょう!!」
「侑!!目覚めたのね!!」
俺は、母さんの声が聞こえて安心した部分もあった。悲しませてたもんな。
その後、色々検査とかして人工呼吸器も外されて、ようやく喋れるようになった。
「母さん、心配掛けました」
「本当に心配したんだから。4ヶ月も眠ってて」
「そんなに?」
「そうよ」
「でもね、母さん」
「ん?」
「信じられないかもしれないけど、俺、母さんの声聞こえていたんだ」
「そんな事本当にあるのね」
「うん」
他愛のない会話が続いた。俺はこの時気持ちが半分半分に分かれていたのだ。
戻りたい、でも戻ったとしてまた母さんが悲しむ。それは嫌だ。
そして、2週間して、ようやく退院した。
学校にも復学して、数日間は普通に過ごしていた。
友達があまりいないから、クラスメイトの反応は薄かったけど、何となく日常が楽しいようにも思えた。
しかし、俺の心のもやもやは全くと言って良い程取れていなかった。
普通に戻って喜べなかったからだ。
フィリアを救えずに、俺は今、普通に生活している。
それが社会一般的には普通の事であり、矛盾なんて言葉は似合わない程。
でも、俺のは矛盾している。救うと約束したのに、戻ってしまった。救えない事を後悔しながら、戻ろうという意思まで辿り着けていなかった。
そもそも、戻れる方法すら調べようとしていなかったのだ。
俺はもう、我慢が出来なかった。
翌日から、ネットや書物等、色々な方向から調べ上げた。
普段、絶対に手を出さないであろう、オカルトの部分に触れた瞬間、あるサイトを見つけた。
「異世界に行ける催眠術…か」
半信半疑でその人にメールを送った。半信半疑なので返って来るなんて思ってもいなかったが、すぐに返事が来た。
「この地図の場所まで来てくれ」
俺の気持ちが揺らいだ瞬間だった。決めたのだ、この方法に賭ける事を。
to be continued…
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