ずこう
算数の惨劇が終わり、十分の休憩時間に入った。
「次の時間は何にしようかしら」
ライフが教壇の自席に座りながら書類作成を進めつつ、独り言を漏らす。
「おひるごはんがイイと思うれす、です」
「十時前から何言ってるのワルディー。それにごはんは授業に入りません」
身体を揺すりながら進言したワルディーに淡々とダメ出しするライフ。
「じゃ、ばにゃ、バナナはジュギョーにはいるです?」
「意味が解らないわ。授業をオヤツみたく言わないの」
微笑ましいと思う。
ワルディーの言葉一つ一つが、この寂しい教室の温度を上げてくれている。
もし俺とライフだけしか居ない教室だとしたら、それはそれは空気の重い部屋になる事だろう。
「リューシロとごはん食べながらいっぱいネダヤシする~」
根絶やし。恐ろしい子! 彼女はニコニコ笑いながら隣の席で頬杖ついてぼんやりしてる俺のヒザをペシペシ叩く。
「・・・・・・オハナシだろワルディー」
「おなやし」
まあ、いっぱいお話をしたいらしい。
「・・・・・・決まりね。次の時間は図工よ」
「今の流れの何が決め手に・・・・・・」
俺は教材を取りに職員室へ戻るライフを唖然と見送った。
「それじゃあ今日は新しいクラスメイトが出来た記念に、おともだち同士で似顔絵を書いてみましょう」
ライフが俺とワルディーの席に画用紙を配った。
「鉛筆でいいんですか?」
俺が質問すると、ライフはお好きにどうぞといったジェスチャーで答える。
「ワルディーも鉛筆でいいわよ」
「わたしくらいのらべ、レベルだと、もうクレヨンす」
ふふ~ん、といった得意げな顔をしながらワルディーはクレヨンの箱を取り出す。彼女の中でクレヨンの地位は相当高いらしい。
俺とワルディーは机を合わせてカキカキと始めた。
ぼんやりと頬杖つきながらダラダラ描いてる俺とは対照的に、ワルディーの気合は半端じゃなかった。
じっくり俺を見て、何かふんふん言いながらカキカキ。
「リュ、リューシロ! ちょ、立って!」
なんだなんだ。興奮気味なワルディーの気迫に押され、俺は渋々と立ち上がる。
「ん! ん! キミ、ん、いいね~。最高れすね~」
遂にワルディーは教室の後ろに置いてあった画板を引っ張り出し、席を立って前後左右に動きながらアングルにこだわりつつカキカキ。
一生懸命だ。見守ろう。と、俺はとりあえず立ったまま手先だけ動かして自分の作画を進める。ライフも教壇の自席で静観の構えだ。
「ん~。ちょっとな~。ん~」
お、ごね出したぞ。どうした。
「アイがないれす」
愛が無いと。無愛想ということか? ならまあ認めるよ。
「何か知らんがワルディーの画力で補正してくれ」
俺はメンドくさげに流しとく。
「しぇ、しぇんせ~! リュシロのよ、よここ! ん、も、こ、こ、ね?!」
ワルディーはライフを引っ張り立たせ、「ね? ね?」と何やら強引に誘導すると俺の横にセッティングした。
「何なのワルディー。何が望みなの」
ライフはやれやれといった表情で問う。
・・・・・・うん、近い。いい香りがする。間近で見るとホント、冷たいまでにキレイな姉さんだと思う。どうでもいいがな。
「リュシロのう、うでを、ね? 組むのれすね? ん?」
え何言ってんのこの女子。教師と生徒でそんな、許されません。
「腕を組めばいいの? こんな感じ?」
仕方なさそうに、ライフはするりと俺の腕に自分の腕をからませる。
おいおい。何のイベントだこれは。俺は小さくため息を落とす。
「失礼ね。嫌だとしても女性に対してそういう態度しないの」
ぐいっと腕を引っ張り、ライフは俺の耳元でささやく。はいはい。すんません。
「ん、ん、いいよぉ~・・・・・・い、いいんだお~・・・・・・。たまらんちゃねぇ~」
どこの方言だ。ワルディーは尚も前後左右にささっと動き回りカキカキ。俺も腕を組まれながらも適当にカキカキ。
俺より幾分か背の低いライフ。周りから見れば少しはお似合いカップルにも見えるのだろうか。
・・・・・・なんかさっきから、微妙に震えが伝わってくるんだよな~。
緊張? このクールビューティーが? まさかまさか。表情も別に変わらずだ。気のせいかな。
それ以上深く考えず、俺は筆を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます