ずこう 2
「これは教師に対するセクハラね。理事長に報告しておくわ。君もこれでオシマイよ」
「うん。なら離せばイイと思うよ?」
俺と腕をくんだまま冷酷なセリフを淡々と漏らすライフ。俺もカキカキしながらそっけなく返しといた。
「冷たい子ね君。少しはドキドキしてる仕草の一つも見せなさい。あんまりカワイくないとコレ、料金が発生するわよ?」
また少し引っ張られ、ささやかれる。ちょっと今描いてるのでおやめください。
──ふん。仕方の無いメスだ。女の部分がうずいてるんだろう?
お前は淫らな猫さ。
いやらしい手つき(※そんなことありません)で俺に絡みつくお前ときたら、まるで夜に鳴き求めるプッシー・キャット。
ならば超越的な殺し文句の一つも浴びせ、発情期のメス猫をウットリと黙らせてやるか。
「ハアハア・・・・・・ら、ライフたんマジ天使」
「キモいわ。射殺したい」
俺が黙りました。
「んしゃあぁぁ!」
ワルディーは謎の奇声を発し、シャッ! と黒いクレヨンでカッコよく描き払うと顔を上げた。
・・・・・・いい顔だワルディー。どうやら会心の出来らしい。
「ん? もう描けたのかしら? もういいのワルディー?」
ライフの問いかけに、ワルディーの顔が引き締まった。
「ほーこーせいは決まりますた」
「今?!」
俺とライフは声を上げ、衝撃に固まった。
方向性の模索に付き合わされたライフも自席に戻り、二時間目も終わりに差し掛かった。
「できたら!」
出来たらしい。
「先生も出来たわ」
えアンタも描いてたの?
「俺も大体は・・・・・・」
ということで、お披露目タイムとなった。
「ネコミミよ」
なんでネコ耳ついてんだよ。
ライフが描いたワルディーの絵は上手かったが、萌え要素が加わっていた。
「この角度がポイントよ」
トントンとタレ気味のネコミミを指で示す。これは譲れないらしい。
ふむ。とにかく、漫画チックで上手い。意外。
「はい。俺はこんな感じ」
まあ簡単なラフ画だけれど、自分で言うのもなんだが結構上手く描けてると思う。
昔、美術の時間にアイツの絵を描いて、しょぼいコンクールで入賞したっけ。
アイツも嬉しそうに褒めてくれたな。
「萌えが無いわね」
「え要るの?!」俺は衝撃に固まる。
と、俺達の絵を見ながら「ふん、ふん、ん~、あ~」とか、小生意気な感じだったワルディー。どこの大物だお前は。
──ならば見せて貰おうではないか。あれだけアングルと方向性に拘りぬいた大物画家様の実力とやらを。
「ネコじゃん・・・・・・」
「ん、ねこ、もも、ん、りゅ、りゅ、ねここ!」
興奮気味に説明するワルディーの絵は、俺が猫だとしたらこうなるといったモノだった。なんだかやる気の無さそうな黒猫だ。
その黒猫の隣に、白い猫が寄り添っている。これがライフですか。
「あれだけ動き回ってた意味がさっぱり解らないけど、かわいく描けてるわ」
──へえ。こんな優しそうな顔もするのか。またまた意外だ。
ライフの微笑みを横目で眺め、俺はまたワルディーの絵を見る。
・・・・・・う、うん。上手とは言い難いが、まあ、ほっこりする絵だ。
「いいんじゃないか? 暖かみがあって、ほっこりする絵だよ」
なんて俺が感想を告げると、とても嬉しそうにワルディーは言う。
「リューシロ、たわ、わたしの絵で、ん、ん、も、もっこり」
やめなさい。俺が変態過ぎるでしょそれ。
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