さんすう

「とりあえずホームルームはここまで。それでは学生らしく、一時間目でも始めましょうか」

 ライフは変わらず感情の見えない声でゆっくり立ち上がる。


「一時間目は算数でいくわ」

 数学ではなく。そして「いくわ」って。時間割は? 

「あい!」とワルディーは元気に返事したが、すかさずライフの穏やかな指摘が入る。

「ワルディー。は・い、よ」

「あ・い」


 愛。


「は」

「にゃ」

 いえ、この子は頑張ってるんです。学級崩壊とかじゃないんです。常識は崩壊してるがな。


「は」

「はぁ?」

 よし、嫌な感じだったがミッション・コンプリートだワルディー。頑張ったな。


「はい。それじゃあ教科書出して」

 

 ライフに言われるまま、俺はぼんやりしながらカバンから教科書を取り出す。学用品などは一式、学校で用意してくれた。

 数学 Ⅰ、か。関数やら対数やら、俺にはもう必要無い。


「カタリ君は教科書を参考に、この問題集を順番に解いていきなさい」

 と、結構厚めの問題集を渡された。

 

 そして、ライフはほんの少しの笑みを浮かべながら言った。


「わからない事があるなら、訊きなさい」


「・・・・・・はい」

 俺はどうでもいい感じで答えといた。


「じゃあワルディー。黒板を見て」

 ライフがチョークを手に取り視線を流すと、ワルディーは「ん!」っと元気に立ち上がる。

 ワルディーは黒板ギリギリまで近寄ると、じっくり、舐めるように黒板の隅々まで目視していた。ナゼかくんくんと匂いまで嗅ぎだす。

「見過ぎよワルディー。というか近いわ。何で匂いまで嗅ぐのよ」

 とりあえず見守っていたライフが冷静にツッコむ。


「こ、こ、も、これぇは、よい黒まんらと思いましゅ」

「黒板よ。こ・く・ば・ん。それに先生は黒板のクオリティーについて聞きたいんじゃないの」

「ん、こにょ香りは、国産れすね?」

「知らないわよ。どこのマイスターよアナタ。何者なの」


 頑張るんだワルディー。

 問題集に答えをスラスラと書き込みながら、俺もチラチラと彼女を見守りつつ適当なエールを心の中で送った。

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