ラスボス、つけ麺食って興奮するの巻


 狭いが小綺麗なラーメン屋だった。

 十席程のカウンター席のみ。俺以外に客はいない。

 内装は和風で、老舗の蕎麦屋みたいだ。お品書きも丁寧に筆で書かれている。

 店主のオヤジも和服に鉢巻きで、いかにも日本の職人といった感じだ。


 じゃあ何、マグナムって。

 

 そんな疑問もまあ、どうでもよく、俺はこの店自慢の『つけめんマグナム』に味玉トッピングでいっといた。


「へいおまち。味たマグナムね」

 何それ。

 まあイイか。俺は目の前に置かれた二つのドンブリを見る。

 たっぷりの麺と味たま、炙りチャーシュー、でかい海苔。つけ汁はどろどろと濃い色だった。


 さて頂きますかと割り箸を手に取ると、ガラガラっと店の戸が。


 はいラスボス来ました。毎度。

 俺と彼女がしばらくじーっと見つめ合うと、「らっしゃい。お好きな席どうぞ」とオヤジが厨房から声を掛ける。


 極天使はまた俺から目を逸らし、長い髪をいじりながらさりげなく俺の隣のまた隣に座った。


「御注文は?」

「・・・・・・ん?」

 ん? って。


「何食べます?」

「え、あ・・・・・・」

 なんてオヤジと極天使の問答をじーっと見ている俺。

 極天使はちょっと慌てた感じで俺のドンブリをちょいちょいと指差し、「あ、あれ」とオヤジに小さく告げる。

「はい、味たマグナムね」

 オヤジは厨房に戻る。彼女はホッと一息つくと、じーっと見続ける俺をチラチラと横目で気にしている。


 俺はいきなり割り箸をガッ! と口にくわえた。その勢いに極天使はビクッとする。

 そして俺はパキンとイナセに割り箸を割ると、彼女は「ほお~」といった感じの表情で俺の挙動に食い入る。


 俺はまず麺を食す。つけ汁につけないで。

 俺の動きに、厨房のオヤジの目が光った。


 この麺、仕事してやがる。

 やや茶褐色なのだが、粉の風味がしっかりしてる。

 俺はまた麺だけを頂く。うまい。

 極天使が固唾を飲んで見守っている。

 バカヤロウ。ここからだぜ?


 俺はレンゲでつけ汁を少しすする。

 魚介系のどろ汁は思いのほかクリーミーだ。うまい。

 さあ、つけめんだ。

 俺は麺をつけ汁に半分程浸し、ゆっくりとすする。

 ああ~バカヤロウ。うめえ。久しぶりだ、つけめん。昔、うまい店があってさ。よくアイツと食べに行ってたっけ。


 堪能してる俺の横で「へいお待ち」と極天使も着丼。

 彼女は俺の挙動を思い出しながら、不慣れな手つきで割り箸を口にくわえ、パキっと割ると思いのほか上手く割れたもんでチラリ俺にドヤ顔。俺はモグモグと見守っている。

 

 極天使、麺だけを食す。

 が、やや微妙な反応。

 なんか俺に残念そうな表情を向けてくる。俺はモグモグと見守っている。


 極天使、つけ汁に麺を浸して食す。


「んふううぅ!」


 喘ぎ声に俺は正直ビビった。

 

 なんか震えてる・・・・・・。

 俺から顔を逸らし、モグモグ味わいながらぷるぷるしてる。


 相当旨かったのかもしれない。

 

 うん、チャーシューもしっかり味付けされて旨い。メンマもしゃきしゃき、味玉とろり。海苔で麺をつつんでやっつけるとまたイイね。


 こりゃ相当な店だぞ・・・・・・。この店の賄いは絶対旨い。

 

「オヤジさん、凄い旨いよ。メニューに無いけど、賄い丼とかって出来る? あと野菜炒めも欲しいな」

 俺がスープを堪能しながら頼むと、洗い物をしながらオヤジはニヤリと笑う。


 これは絶対旨い。

 俺もニヤリと釣られ、ふと隣を見ると極天使はうっとり味玉を頬張っていた。

 


 もう必要無い。けど、たまにはこんなのもイイか。


 俺は彼女の幸せそうな表情に、少しだけ暖かい気持ちになった。

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