イヤらしい香り


 風光明媚で知られるこの地域。

 町には近代的なビルから古風な長屋まで色とりどりで、そこに集う多くの人間達がその華やかさを更に演出している。

 

 リーマン、兵隊、学生、主婦、子供。早い時間から千鳥足のおっさんに至るまで、色んな人々が生きている。

 

 大通りには渋滞を成す自家用車、装甲路線バス、うるさい原付、軍用装甲車両。

 歩道沿いではショッピングモールからの音楽や工事の騒音、女子達の高い笑い声や大人達のビジネストーク。

 居酒屋からは焼き物の旨そうな匂い。通りすがりのケバい姉さんが放つ香水の香り。

 

 視覚、聴覚、嗅覚で感じ取れる命の熱。

 

 謎の敵は来るけれど、だけど、みんなにぎやかに、負けじと頑張って生きている。

 

 まあ、頑張れ。くらいに俺にはどうでもいい事だが。

 俺は大手電機メーカーのゴツいビルの前を通りすぎ、ぼんやりと周囲を見回す。守衛のオヤジが遠くから軽く睨んでるがどうでもいい。


 何食うか。

 手持ちの金はそんなに無い。


 ラーメンとかでいいや。


 なんか匂ってくるんですよ。魚介系のダシっぽい香りがどこかから。

 

 まったく、イヤらしい香りさせやがって。

 どこだ? どこですか?

 俺は後ろも振り返ってみる。



 はっ! と驚く女が居た。


・・・・・・人通りのまばらな歩道で、俺とその女は見つめ合う。俺と女の距離、約五メートル。


 何か気まずそうに、それでも俺を見続ける軍服の女。


 


 あ、ラスボスだ。




 俺はその極天使の顔をやっと思い出した。



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