懐かしい目

 俺は今、日本の京都にいる。



 めんどくさいんで今は説明省きますが、明日からの生活に関する手続きなどを済ませ、俺は戦時被災者の為の激安簡易宿泊施設でくつろいでいた。

 

 おんぼろアパートの一室を薄い壁で更に仕切り、二畳程の空間を四つ構成している監獄じみた客室。

 クソ安いネカフェみたいな感じだ。パソコンなんか置いちゃいないがな。マジで布団しか置いてない。汚い。オバケ出そう。

 

 俺の部屋とお隣の部屋しか埋まっていないみたいだ。

 今の時代、自宅の一室を改装して避難民向け宿泊施設を個人で営んでいる事も珍しくない。

 ちょっと探せばここよりマシな寝床はいくらでもあるだろう。

 最低ランク。逆三ツ星。あまり繁盛はしないと思う。激安だけどな。


 受付で清潔なシーツだけ手渡され、ひきっぱなしの布団にそれを被せた俺はフゥと一息ついて横になる。


 ゴロゴロ。

 暇だ。

 そろそろ夕方。

 

 何も考えず、染みだらけの汚い天井をぼーっと眺めていると、薄い壁の向こうから声が聞こえる。


「おねえちゃん、おなかすいた」

「うん、でもあしたのハイキュウまでガマンしな」


 こんなクソ狭い空間に二人で住んでるのか。

 恐らく戦災孤児だろう。



 食事か。

 もう俺には必要の無い事だが、やる事も無い。

 

 俺は自分の部屋を出て、隣の部屋のドアを小さくノックした。チョット力加減を間違えれば穴があきそうな、薄いベニヤのドア。


 反応が無い。


「開けるぞ? イイか?」

 俺は穏やかに問いかける。が、無反応。

 カギすら付いてないドアを俺は少しだけ開けた。

 

 中には小学生位のお姉ちゃんが小さな妹をしっかり抱き締め、不安げな表情でこちらを見ていた。

 布団の上にリュックサックが1つと幼い少女が二人。それだけしかない。


「急にごめんな。お兄さんは隣りに泊まってるんだけど、今からごはん食べに行くんだ。お腹すいてるなら一緒に来るか?」


 自分では優しく言えたと思う。

 しかし少女達はただ不安げに、首を横に降るだけだった。


「そうか。じゃあお兄さんだけ行ってくるよ。いきなり、悪かった」


 俺はそっとドアを閉めて立ち去った。



 きっと、色々と酷い目にあってきたんだろう。怯え方が普通じゃなかった。

 昔、ああいう目をした子供達が沢山いた事を思い出したが、俺はなんの感情も無いまま繁華街へと繰り出した。

 

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