シズカにカタリ
全校集会での謎の寸劇が終わると、なんやかんやで俺は暖かい拍手に包まれた。
「大変だったねカタリーナ。これからは一緒に頑張っていこう」
復活した生徒会長が俺と握手を交わし、そう言ってくれた。カタリーナって。
そして拍手が一段と大きくなると「よろしくー!」とか「大丈夫だから!」とか「元気だしてこー!」なんて暖かい声が湧き上がっていた。
「驚かれましたよね。すみませんでした。わたくし達は結構、あんなノリなんです」
強化コンクリートが木材などでクラシックに装飾された校内廊下を、俺とシズカは並んで歩いていた。
全校集会が終わり、学徒達はそれぞれの教室に戻っていったが、俺はシズカに校内をざっと案内してもらう事になった。
トイレとか、更衣室とか、いかんせん女子校なのでデリケートな部分だ。その辺りは最初にしっかり教えておきたいのだろう。男子禁制ゾーンとか。
「あ・・・・・・いや。なんか受け入れてくれてるみたいで、その、嬉しかったよ。で、あの寸劇なんだったの?」
「なんだったんでしょうねアレ・・・・・・。即興でしたのでシナリオが破綻していました」
ふふ、とシズカが微笑む。
並ぶとよく分かるが、ほんと背ぇ高いなこの女。百八十センチは超えている。俺より十センチくらい高い。
「わたくしの母でもありますが、理事長の提案だったんです。カタリさんもいきなり女子校にやってきて不安だろうから、どうにかしてみせろ。と」
「してみせろ」
色々と危なそうな理事長だ。関わってはいけない。
校長とは入学前に顔を合わせたが、穏やかな老紳士だった。「何も心配せず、来るといい」と、優しい声だった。
「でも言いたい事は、解っていただけたと思います。──こんな時代です。アナタの学校が壊れてしまったのなら、とりあえずこっちに来たらいいじゃない。ね、カタリさん。それでいいじゃないですか。ご飯も寝る所もあるから、とりあえずいらっしゃい。それから色々と考えていきましょう。と、そんな風で、イイと思うのです」
シズカは変わらない微笑みのまま、そう言った。
──俺は少し罪悪感も湧いたが、その優しさに、いつか何らかの形で報いようと思った。
「男子が女子校に転校してきたって、それがどうしたというのです。男子が・・・・・・じょ女子校にいきなりプッフー!」
「台無しだよ。また笑っちゃってんじゃん」
俺は笑いを堪えるシズカに呆れた眼差しを向ける。
「はぁ~。ふふ。ごめんなさい、やっぱり変ですもの」
大人びた彼女が見せた無邪気な笑みに、俺も「そうだな」とだけ言って微笑んだ。
「お、有名人。姫とデートかぁ? 飴あげるよ食べな」
「カタリんヨロシクねー」
「ようこそ空院女学院へ」
通りすがる女子学徒達が次々と俺に声を掛けてくれる。
体育会系のショートカット女子から少しギャルめいた女子、清楚な黒髪ロング女子に至るまで、中々に賑やかだ。
俺は「ども」とか「よろしく」とかあまり感情の見えない返事で返していたが、周囲の明るいノリにほだされたのか、徐々に自分の声のトーンが暖かくなっていくのを感じていた。
「気のイイ方達ばかりですよ」
──うん。そう思う。シズカの言葉に、俺は心の中で答えた。
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