二回目
六月二十三日木曜日
タイムリープ
六月二十三日の木曜日の午後七時。
部屋に飾ってある時計と、机の上の定位置にあるはずのスマホを確認して、その日時を確認した。窓の外はほとんど変わり映えしない夜の風景だったけど、部屋に置いてある物で確認できる範囲では、タイムリープが成功していることを証明していた。
そしてすぐに枕を確認する。さっきまでそこにあったはずの涙の痕が綺麗に無くなっていたが、枕元には相変わらず白いボタンも置いてあった。すぐに部屋を出て居間のテレビの電源を入れる。木曜日の七時にレギュラーで放送されている人気アイドル達が出演しているバラエティー番組がちょうど始まる所だった。
とにかく時間をチェックしたかった私はテレビをつけるまで居間の雰囲気がいつもと違うことに気付けなかった。父親はともかく、この時間に母親が居間にも台所にもいないのはおかしい。七時過ぎには必ず晩飯を食べる事になっているから、いないはずがない。
そこでピンポーンと家のチャイムが鳴る。その音で六月二十三日がどういう日だったかを思い出した。この日から両親は旅行に行っていて、今週末までは隣の桐生の家でご飯を頂くことになっていたことを。
そのチャイムを鳴らした相手を確認すべく、居間から急いで玄関へと向かってその勢いのままドアを開けた。
ドアの勢いにビックリして後ずさった、びっくり顔の桐生がそこにいた。
「ご飯の準備できたから呼びに来たけど……、そ、そんなに慌ててどうしたの?」
間違いなく、今が六月二十三日の木曜日の午後七時だと確信した。あのリセットボタンが本物だと分かって、これで渡辺ちゃんを助けられると分かったら、涙腺が緩みそうになった。
『このリセットボタンの存在を誰にも明かしてはなりません。』
ついさっき読んだばかりの注意事項が涙腺を結ぶ。こんなところで泣いたら桐生に変に思われると、口を噛みしめて何とか堪えてから、桐生に言葉を返す。
「あ、ごめんごめん。桐生のお母さんの料理食べるの久々だから、つい楽しみで」
怪しまれないように、できる限り前と同じように振る舞いながら話す。確かこの時に新しく中華料理のコツを教わっていたはずだ。それも私が桐生のお母さんみたいな料理を作りたいと食事中に言ったことから始まった話だったはず。
「そう? それ言ったらきっと喜ぶよ」
私が桐生のお母さんの料理に期待していることが嬉しいのか、少しだけ自慢げな笑顔を返してきた。
「さ、早く行きましょ。冷めちゃったら勿体ないもの」
桐生の背中を押しながら足早に隣の家へとお邪魔する。リセットボタンが本物だということが分かって安心したからか急激に空腹感を覚えたので、早く食べたくて仕方なかった。
渡辺ちゃんを助ける作戦を考えるためにも、まずはエネルギーをちゃんと補給しておこう。
こうして私は過去に戻ることに成功していた。
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