欠席者

「それじゃあ問二を渡辺……は欠席か。じゃあ一番に戻って合口」

 数学の先生が今日唯一の欠席者を確認した後に、別の生徒を指名して答えを促した。合口ちゃんは特に動じることなく淡々と答えて先生から褒められていた。

 ――さすが理系委員長。

 一昨日から始めた放課後の勉強会。提案したのは私だったけど、委員長が積極的に動いてくれてかなり助かってる。昨日の数学講習は私にとってもためになったし、おかげで今日の宿題の答えどころか、今日の授業の範囲も大体わかった。

 そんな委員長の凛々しい姿を一瞥してから、ちょうど対角にある空白の座席へと視線を変える。

 渡辺ちゃん。渡辺会子ちゃん。

 うちのクラスの出席番号四十番の女の子が、今日は欠席している。昨日は特に体調が悪かった感じはしなかったので、何かあったんじゃと心配になっている。

 この数学の授業が今日の一時間目だから、欠席していることに気づいたのは先生が気づく少し前だった。その時点でLINEを送ってみたけど、今のところ返信はない。さすがに授業中にスマホを見ているのは問題なので、今は既読がついたかどうかのチェックもできない。

 ――ただの遅刻かもしれないし、今は授業に集中しよう。

 もしかしたら慌てながら教室のドアを開く渡辺ちゃんが見れるかもしれないとちょっとワクワクしながら待つことにした。教室の隅で音楽を聴いてじっとしている姿が印象的な彼女が、遅刻で慌てふためくとどんな表情をするのか少し気になった。


 しかし結局数学の授業どころか、その日に学校に来ることはなかったのだが、それはまだこの時の私は知らなかった。

 

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