第14話

 ほどなくして、二年生も一年生も集まり始めた。

「おはよう、今日は早いね」

 薙紗ちゃんが眠たそうに欠伸をしながら入ってくる。

 二年生の先輩(名前は忘れた)にも適当に挨拶を交わす。

 すぐに全員が集まった。

「みんな、おはよう」

 部長の新堂さんにみんなが注目した。

「今日はゴールデンウィーク前の最後の部活――できるだけきりがいいように終わろう」

 新堂さんは続ける。

「二年生は今日も同じように撮影。そろそろクランクアップしないとね。一年生の進捗状況はどうだい?」

「僕たちは構想の段階がそろそろ終わるころだと……」

 よし、と頷く新堂さん。

「じゃあそういうことで。頑張ってね」

 てきぱきと準備を済ませ、二年生五人は連れ立って部室を出ていく。

 もう五月、撮影が終わった後は〈ドラマができるまで〉の最後の段階、編集作業が待っている。

 僕たちはまだ構想を練っている段階――。

「僕たちも、急がないとね」



 差出人不明のメール、それに返信をしたことから始まる不思議な縁。

 ある日何故か妖精が見えるようになってしまった高校生。

 スケッチブックに書いた絵が現実になってしまう。

 三つ。

 今までの話し合いで捻り出され、選別されたアイデア。

 青春らしさを取り入れることが可能であると考えられたのが一番の理由。

 一方で、

「どう、八分間にまとめるかだよなあ……」

 後頭部を掻きながら、花村君が嘆息する。

 問題は、そこだった。

 実際のストーリーをどうするか。

 アイデアの活かし方。

「いざドラマの形にするとなると、見当もつかないわね」

 どう展開すれば面白くなるか。

 どのアイデアを採用するにしても、そこに行きつくのは同じだ。アイデアを決める段階では思いつき、発想の勝負と言えたかもしれないが、ここに来るとそれだけでは成り立たない。

「とはいえ、まずはどのアイデアにするか決めないと」

 三つのアイデアとも脚本を書いてどれがいいか、なんて悠長なことはできない。それに、そうするくらいなら一つに絞って練ったほうが良いだろう。

「そうなんだけど、な……三つに絞るのだけでも大変だったし、ここから一つ、っていうのも難しいよな」

「言いたいことは分かるけど」

 個人的にはどれも面白そうだし、どれも一番だと思う。逆も然り、もしかするとどれも面白くないかもしれない。

 そんな風に疑心暗鬼になってしまう。

「いっそ、多数決とか」

「四人で……?」

「だよねえ」

 薙紗ちゃんも皆目見当もつかないといった様相だ。

 しかし、とりあえずは話し合う。

 ――差出人不明のメール、それに返信をしたことから始まる不思議な縁。

 それが誰から来たものなのか、どうして主人公のもとへ来たのか。そういった理由付けはともかくとして、最終的にどういう結論に至るのか。それがネック。

 一方でスマホのメール機能を使っているという点で馴染み深いのではないかという意見。

 ――ある日何故か妖精が見えるようになってしまった高校生。

 詳細は前者と同じく後に置いておくとしても、結局は妖精との出会いから何を伝えたいのか。あとは妖精をどういうふうに出すか。

 ポジティブな意見としては、高校生あたりが好きそうなファンタジー的要素を取り入れられているという点(妖精を高校生が好きかどうかは置いておいて)。

 ――スケッチブックに書いた絵が現実になってしまう。

 話の転がし方でダークな雰囲気を出すことも可能だし、そこから主人公の成長を描けるのではないかという意見が出た。良い点として言えるのは作品の雰囲気を動かしやすいということか。

「こんな感じか」

 全員の意見をまとめると、大体そういう意見に落ち着く。

「結局は作る人の好みなのかなあ」

「まあそれは入ってくるだろうと思うけど……」

 作る人。かあ。

「……というか、脚本ってどうするの?」

 全員で作るのか、誰かが作るのか。というのが第一の疑問だった。

「…………私が思うに」

 ここで口を挟んできたのは、倭さんだった。

「……一人が大筋を書いたほうが、筋は通るのではないかと」

「そうだよね……」

 小説にしても、漫画にしても。ドラマや映画はよくわからないけど。基本、物語を作るのは一人による作業だ。

 でも、そうならば。

「じゃあ誰が書くんだ? オレは無理だぞ」

「私もよ。それに主役をやるんだから」

 僕も物語を作った経験はない。

「…………私は」

 残る一人。

 倭さんに、視線が集まる。

「……私が、書く」

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