第12話
ブレインストーミングをしようという提案。
それは今まで話し合いにまったく口を出さなかった倭さんからの意見だった。
残りの三人もその話し合いの手法に却下を出すことはなかった。
「じゃあ、とりあえずリストアップしないとね」
そういうと薙紗ちゃんは鞄からルーズリーフと筆箱を取り出し、机に広げる。
まずは今まで出ていた意見を出し直そう、ということになった。
「タイムスリップ」
「呪いの手紙」
「メル友ができる」
その他もろもろ。
薙紗ちゃんが出てくるアイデアを書き留める。右手のシャーペンが紙面を走り、黒い軌道が描かれていく。
意外に字がきれいだった。
出てきたアイデアは、七、八個くらい。
からん、とペンを置く音。
「…………一端、整理しましょう」
「呪いの手紙はともかく……他は青春らしいテーマだよな」
「うーん、でも自分で出しといてなんだけど、ありきたりというか……」
自慢じゃないが僕は頭の柔らかいほうではない。自由な発想という意味では、僕は人材として適していないだろう。
青春らしいテーマ、か。
「…………」
何かひっかかる、というか。
本当にそれでいいのだろうか。
青春らしさを出す方法――。
「……一つ、いい?」
三人が僕に注目する。
僕が考えたのは、それは。
「青春にこだわるのは、やめよう」
「どういう……?」
「青春にこだわりすぎてアイデアが凝り固まってしまうのは、良くないと思うんだ」
それならいっそ、テーマの括りなんかいらないんじゃないか。
素人考えだが、それは誰しも同じ。
「…………一理、あるかも」
「……そうだな」
倭さんと花村君が賛同する。薙紗ちゃんは指先を唇に当てながら思案していたが、
「うん、そうかもしれない」
「とにかく思いついたことを書いてみよう」
方針は決まった。
ということで。
ブレインストーミング、かつ青春に拘らないという方針で、話し合いは再開した。
最初はぎこちなかった。出したアイデアを批判されるのではないか、とか。くだらないアイデアだと思われたらどうしよう、とか。
そこで口火を切ったのは、意外にも倭さんだった。
出るわ出るわ、アイデアの数々。
ひと夏の冒険。漫画家を目指す物語。未確認生物UMAとの遭遇。病気の少女との出会い。ロボット作り。友人との試験での勝負。
ノンジャンル、ノンカテゴリーのテーマの列挙。
それにつられるように、僕や花村君、薙紗ちゃんも言葉を紡ぐ。
ルーズリーフの上をシャーペンが走る。
表面はすでに文字だらけ。数多のアイデアが羅列されていた。
「…………出てきたアイデアに貴賤はない」
呟くような小さな声。
心なしか倭さんの表情は楽しそうに見える。変わらず無表情ではあるが、なんとなく。
出てきたアイデアには突拍子もないようなことからありきたりといっていいものまであった。まさに嵐のごとく。
四人で出しあったとはいえ、紙面を埋め尽くすアイデアにはある種の気持ちよさがあった。達成感といってもいい。
特に倭さんが出したアイデアは、多種に富んでいた。
きっと、それまで積み上げたものがあるんだろう。
「はー……」
深いため息。
少し疲れた。
薙紗ちゃんは背もたれに完全に体を預けてぐだっていた。ずっと書き続けていたから仕方ない。
時間は既に、いつもの部活の終了時間になっていた。
「本当、いろいろでたな」
感慨深そうに呟いた花村君。
ちなみに花村君の出すアイデアは特に異端だった。詳細は省く。
そろそろかな、と思ったと同時に、廊下に響く話し声。昨日と同じような。
「とりあえず今日は終わりだね」
「ああ。明日も話し合いかなー」
「まあ、とりあえずは」
がらがら、と扉が開く。二年生の面々が帰ってきた。
「ただいまー」
「……おかえりなさい」
今日の部活も、無事終了。
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