第8話
……。
いつもの(といっても昨日からだけど)テーブルを囲むように座って。
無言。
先輩たちから説明を受け、実際の作品を視聴し、現実的なドラマの作り方を学び。
それでもやはり、いざ自分たちが作るとなると、どう話を切り出すべきか、僕は分からなかった。
何からすればいいんだ? まずは……、
「最初は、アイデア出し、て感じでいいのかな?」
僕の提案に、ほかの三人は曖昧ながらも頷く。
アイデア。
新堂さんも言っていた、ドラマで一番大切なこと。
「とはいっても、アイデアなんて簡単に言われてもね……」
凪紗ちゃんの呟きも無理はない。
自分で何かを一から作るという体験は、そう多くないと思う。確か小学生のとき、歴代担任の中でも群を抜いた変人の先生が夏休みに宿題を出したことがあったか。「何でもいいから物語を考えて書け」なんて言って。
そんなことがあったくらいだ。
あの時はどんなことを書いたっけ。
「……昔の思い出だった蝶々を探しに行く話」
「ん? 何それ、ドラマのアイデア?」
「あ、いや……小学校の時に出された夏休みの宿題。何かオリジナルの話を書けっていう。そのときに書いた話なんだけど」
おぼろげにだが覚えていた。
子供のときに見た図鑑に載っていた色鮮やかな蝶々。それを近所の野山に探しに行くという話だ。
もちろん僕の実体験ではない。適当に考えながら書いたはずだ。
「蝶々探し、ねえ……」
「アイデアとしてはありかもしれないけど、実際ドラマにするとなるとどうなんだろう。撮影とか難しそうだけど」
「そう、だよねえ」
凪紗ちゃんの指摘は確かにその通りだった。そもそもアイデアとまで言えるかどうか。
「でも、昔やったこととかからヒントを得るっていうのは悪くないよな。何か使えそうなもんがないか、考えてみようぜ」
と、花村君。
そう言われてもなあ。
昔のこと――
真っ先に出てきたのは、凪紗ちゃんとのことだった。
小学校に上がる前、どういう経緯かは忘れてしまったけど。僕と凪紗ちゃんは毎日のように一緒に遊んで――そしていつの日か凪紗ちゃんはいなくなって。
そうして十年後、こうして映研の部室で再会した。
……うん、ドラマっぽいかもしれないけど。でも、これをテーマにするのは、なんか嫌だ。
具体的な説明なんて、できそうもないけれど。
ちら、と正面の凪紗ちゃんを窺う。
「んー……昔……」
思案している凪紗ちゃんの顔は、何度見ても相変わらず可愛い。学校のアイドルとか、そういうふうに祀り上げられそうな。
僕のクラスでも他クラスにすごく可愛い子がいるなんて噂が出て、情報通な人はもうその名前を知っている。
可愛い、だけじゃない、と思う。うまく言えないけど、輝いているというか。
彼女がドラマに出れば、さぞかし映えることだろう。
「あ、こういうのは? ある日男子高校生が美人にナンパされて、その女のひとが実は学校の先生だったっていう、ラブストーリー的な」
「いや、それは……」
「誰がやるのよ」
さすがに酷い。
「それに、恋愛って、こういうコンクールの作品にはふさわしくないんじゃない? 今まで見てきた作品でも恋愛がテーマの作品ってなかったじゃない」
「あー……言われてみればそうだな」
頭を掻きながら悩む花村君。
恋愛をテーマにしたドラマはない、か……。
「――そうか、何もアイデアから出さなくてもいいんじゃない?」
「どういうことだよ、悠緋」
「恋愛が題材にされないように、他にもテーマに適さないようなジャンルはあるはず。で、それと逆に、テーマにされやすいジャンルっていうのもあるはずだよね」
「あ、なるほど」
それもそうだ、と一年生。
「だから、ジャンルを絞ればある程度アイデアも出しやすいかな、って」
「悠緋君の言う通りだね。うーん、ジャンルか……」
アイデアの出し合いから、ジャンルの絞り込みへ。議題は移り変わった。もっともアイデアは二つしか出なかったわけだけれど。
「高校生が出て、不思議なアイテムなんかが登場する――」
「恋愛まではいかなくても、友情が絡んだりはしたよな――」
「…………主人公の成長、とか――」
条件、というか、要素というか。
ジャンルらしきものは、話し合いの末一応決定した。
「〈青春〉か……」
「まあ、高校生らしいっちゃらしいよね」
青春物。
ジャンルと呼べるかどうかは分からないけれど。高校生らしさを出すことが重要であると、僕たちは結論付けた。
「青春物、っていっても、どういうのがあるのかな……僕はあんまりテレビとか見ないから、思いつかないけど」
「まあテレビじゃなくても、マンガとかアニメでも参考になるのはあるんじゃないか?」
ジャンルに沿うようなテーマ。アイデア。
まずは身の回りから参考になるものを探そうということになった。
と、部室の外からがやがやと話し声。
まもなく扉が開いて、数人の男女が部室に入ってきた。
「お、話し合いは順調か、一年生?」
二年生の先輩たちだった。撮影から戻ってきたのだろう。先頭の背が高く筋肉質そうな先輩はなにか棒のようなものを肩に担ぎ、もう片方で重たそうなバッグを肩にかけていた。
「一応……」
「まあドラマ作りなんて悩みながらするものだよ。今日はとりあえず終わろうか」
部長の新堂さんの言葉に全員が首肯した。話し合いのタイミングも良かったことだし。
僕らは最後に宿題のようなものを出した。
青春物のアイデアを見つけよう、と。
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