第7話

 ドラマができるまで。

 そういって新堂さんはスケッチブックを横向きにして開いた。なんだろう、これを使って説明するのが鉄板ネタなんだろうか。

「ドラマを作るのにあたっての流れは、大まかに三つに分けられる」

 一枚目。

 太字で書かれているのは、「構想」という文字だった。

「まずは、考えること。どういうドラマにするか、そのために何が必要か――テーマ、脚本、場面構成、カメラ、撮影場所に至るまで、まずは考える。ここで甘い部分があると、それは後々に響いてくるよ」

 言っていることは尤もだ。

「どういうドラマが出来るかはここで決まるといってもいい。大事なのはアイデアと創意工夫だからね」

「さっきの話のアイデアのことですね」

「そう。だから君たち一年生は協力して知恵を振り絞らないとね」

 新堂さんはスケッチブックをめくる。

 二枚目には、「撮影」と書かれていた。

「構想を練り終わったら、次は実際の行動に移る。ドラマの場合はそれが撮影だね」

 小説家が筆を進めるように、漫画家は絵を描くように。

「前段階で練った構想を、実際の映像に落とし込めていく。まあ、ここはドラマ制作の醍醐味だよね。今は特筆して説明することはないかなー」

 と、醍醐味と言ったのに軽く流して、新堂さんは二枚目をめくった。

「撮影が終わり、材料は揃った。じゃあ次はというと、その映像を編集していく段階だ」

 一枚目、二枚目と同じように、三枚目には太字の「編集」。

「映研の部室に入って、パソコンが多いって思ったことはない?」

 その質問に、僕たちは頷いた。確かにやたら機材が多いとは思っていた。

「映像編集はパソコン上で行う。文明の利器ってやつだね。一年生にもひとつ与えられるから、そこは安心してね」

 実際の説明に移るけど、と新堂さん。

「編集というのは映像という材料を料理していく過程だ。不要な部分を削ったり、映像と映像をつなぎ合わせたり。それだけじゃなくて、映像に効果エフェクトをかけることやBGMをいれることもする。人が見れる・・・ドラマにするためには、ここでの努力はなくてはならないものだよ」

 地味に思われるかもしれないね、と付け足される。

 僕たちは黙って新堂さんの説明を聞いていた。実際の手順を聞くと、やはりドラマを作るのは大変そうだ。

 感想としてそれを述べると、

「大変なのは当たり前だよ。物を作るっていうのはそういうことだし。でもね、それ以上にやりがいは感じると思うよ」

 淀みなく。新堂さんは答えた。

 大変だと分かっていても、楽しいと言える。

 僕は今まで何かを成し遂げてきただろうか。一つの物を最後まで完成させることができただろうか。

「まあ、簡単だけどドラマが出来るまでの説明はこれで終わり」

 ぱたん、とスケッチブックを閉じて。深く息を吐きながら、新堂さんは壁にかかった時計に視線を送った。

「ん、まだ多少時間は残ってるかな。どうしよう、ここからは一年生だけで話し合ってみる?」

 と、部長からの相談。

 僕たちは互いを見合わせた。

「説明をもらったばっかだし、今話し合わないと損ですね」

 花村君が口を開く。誰も反論はなかった。

 新堂さんは爽やかに笑って、よし、と返す。

「それじゃあ、任せようか。もし何か分からないところがあったら、顧問に聞くといい。たぶん隣の部屋にいるから。」

 じゃあ頑張ってね、と言い残して、新堂さんは部室を去った。

 一瞬訪れる静寂。語り部がいなくなったことで、誰も話さない。

「……んじゃ、とりあえず話し合うか」

 ということで、初めての一年生だけでの話し合いが始まることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る