第二話 忍び寄る影

 翌日は取り決め通り、学校に登校することになりました。

 わたしとしては休みたくてたまらなかったのですが、自宅で襲われるのは勘弁願いたかったので、ドルヒさんの言葉に従った次第です。


『俺は常にお前を見ている。何も心配する必要はない』


 ドルヒさんはそのように仰っていました。

 家から学校までは、徒歩で十五分ほどです。その間、わたしはずっと張り詰めた気持ちでいましたが、使い魔はおろかドルヒさんの姿を視認することもかないませんでした。


 この時間の通学路は、人であふれているので安心です。

 廃工場に面したあの通りは、途中で図書館に寄らない限り、使うことはないのです。幸いドルヒさんも、普段通りの行動を心がけるようにと言ってくれていました。


(だけど、人目を避けたいんだったら、それこそ寝込みを襲うんじゃないのかなあ)


 そうしてこなかった邪神教団とやらの動向が不気味です。

 ドルヒさんの存在を恐れて余所の国に移ってしまったのなら安心なのですが、『そんなことは絶対にありえない』と言われてしまいました。


『全世界に数百人しかいない因子の持ち主を発見できたんだ。うかうかしていたら俺たちに身柄を確保されてしまうのだから、何としてでもお前を捕らえようとするだろう』


 まったくはた迷惑な話です。

 心の奥底からうんざりとさせられてしまいます。

 わたしが日常の回帰を望むだなんて、そんな事態がやってくるとは夢にも思っていませんでした。罪のない妄想に明け暮れていた日々が懐かしてたまりません。


 ともあれ、学校です。

 無事に登校を果たしたわたしは、いつも通り上履きに履きかえて、二年二組の教室を目指しました。


 まもなく予鈴の鳴る頃合いなので、教室には九割がたのクラスメートがそろっています。その中で、女子連中の輪から「おっはよー」と声をかけてくる人物が一名だけ存在しました。


「あれー? 何だか顔色が悪いね! 体調でも崩したの?」


 水嶋鳩子さんです。

 十日ほど前に転入を果たした彼女は、このクラスで唯一わたしに能動的に語りかけてくる生徒でありました。


「ううん。別に、いつも通りだよ」


 わたしは彼女の目を避けるようにして自分の席に逃げ込みました。

 だけど、何てことでしょう、彼女は輪を外れてわたしのほうに近づいてきます。


「いや、でも本当に、今にも倒れちゃいそうな顔色だよ? ちゃんとごはんは食べてきた?」


「うん」とわたしは嘘をつきます。朝食のシリアルはとうてい咽喉を通らなかったので、こっそり流しに捨ててしまいました。


「成長期にはしっかり食べないと! まあ、田中さんはちっちゃいところが可愛いんだけどね」


 わたしが彼女を苦手なのは、悪気もなくこのような言葉をかけてくるからです。

 水嶋さんはわたしよりも十センチぐらいは背が高く、高校生みたいに大人びています。日に当たると茶色く見える綺麗な髪をサイドテールにしており、笑顔がとてもまぶしいです。こんな美人で溌剌とした娘さんに劣等感を抱くな、というほうが無理な話でありましょう。


「ねー、ハトちゃん、さっきの話の続きなんだけどさー」


 と、女子の輪から呼びかけられて、水嶋さんは「えー、何だっけ?」と戻っていきます。

 転入わずか十日目にして、彼女は大部分のクラスメートたちを掌握してしまっているのです。明るくて無邪気で美人の彼女は、男子からも女子からも絶大なる人気を獲得していました。


 こんな水嶋さんがわたしに関心を寄せてくる、というのがそもそもおかしな話であったのでしょう。

 彼女が邪神教団とやらの一員であり、特別な理由からわたしに近づいていたのだ、というのはそれなりに得心できる話でした。


 その反面、彼女の無邪気なふるまいが演技だなどとは、なかなか思えません。

 なので、可能性としては五分五分といったところでしょうか。


「さあ、ホームルームを始めるぞお」


 そんなことを考えている間に本鈴も鳴り、担任の竹本先生が教室にやってきました。

 現国担当の、小太りの先生です。四十間近の独身男性で女子人気はふるいませんが、わたしは図書委員会でお世話になっていることもあり、そんなに嫌いではありません。


「最近、この近所に不審人物がうろついているという通報があったらしい。詳しくは放課後にプリントを配るけど、みんな帰り道には気をつけるようになあ」


 不審人物。

 まさかそれは、ドルヒさんのことなのでしょうか。

 フードで人相を隠した外国人風の少年が日中から学校のそばを徘徊していたら、それは不審かもしれません。

 わたしとしては、ドルヒさんが警察などに連行されないことを祈るばかりです。


(いや、ひょっとしたらそいつが教団の関係者なのかもしれない。学校の外からでも、わたしを観察することはできるかもしれないし)


 妄想は膨らむばかりです。

 しかし、現実に即した妄想というのは、あまり楽しくないものでありますね。


 ともかくそういったわけで、わたしの長い一日は妄念だらけでスタートすることになったのでした。


               ◇ ◆ ◇


 三時間目は、体育の授業です。

 更衣室でもぞもぞわたしが着替えていると、また水嶋さんに話しかけられてしまいました。


「あー、今日は見学じゃないんだ? 田中さんと体育の授業を受けるのは初めてかも!」


 学校指定の青いジャージに着替えても、水嶋さんの外見的魅力はまったく損なわれていないようでした。美人でスタイルがよければ、どんな服でも格好よく着こなせるものなのですね。


「……先週は体調が悪かったから出席できなかったんだよ」


「ふーん? 今日も体調はよさそうに見えないけどなあ。本当に大丈夫?」


「うん」とうなずきつつ、わたしは気が気でありません。わたしがまごまごしている内に、他のクラスメートたちはあらかた姿を消してしまっていたのです。


 たとえ容疑者の一人に過ぎないとしても、水嶋さんと二人きりになるのは気が進みません。わたしは羞恥心をかなぐり捨ててブラウスを脱ぎ去り、体操着に首を通そうとしました。

 そこに水嶋さんの「あっ!」という声が響きます。


「何それ、可愛いじゃん! 田中さんでもネックレスとかつけるんだー?」


 こちらとしては、いっそう身の縮む思いでありました。

 ブラウスを脱いだことによって、ドルヒさんから託された六芒星のペンダントがあらわになってしまっていたのです。


「いいなー。チェーンの造りもすっごく凝ってるね。これって誰かのプレゼント?」


 水嶋さんの笑顔が無邪気であればあるほど、こちらは危機感を煽られてしまいます。

 わたしは気のきいた言い訳を考えるゆとりもないまま、着替えを敢行してペンダントの存在を隠蔽することにしました。


「あ、ねえねえ、よかったら、うちにもちょっと付けさせてくれない?」


「だ、駄目だよ!」と、わたしは思わず大声をあげてしまいます。

 水嶋さんは、びっくりしたように目を見開きました。


「ごめんね。何か怒らせちゃった? すっごく可愛いから、ちょっと付けさせてほしいなーって思っただけなんだけど」


「う、ううん、別に怒ってるわけじゃないけど……これは、大切なものだから……」


 わたしは大あわてで脱いだ制服をロッカーに放り込み、更衣室を飛び出しました。

 心臓はどくどくと脈打っています。

 わたしの脆弱な神経では、こんな生活は何日も続かないかもしれません。このまま学校を飛び出してドルヒさんに呼びかけるべきか、わたしは本気で悩んでしまいました。


「よーし、整列しろー。今日は持久走のタイムを計るからなー」


 で、体育の授業が開始されると、今度はそんな仕打ちが待ち受けていました。

 一週間ぶりに出席したら、よりにもよって持久走だそうです。

 運命神は、わたしをゆるやかに絶命させようと目論んでいるのでしょうか。


「女子は千メートルだから、トラックを五周だ。手抜きするなよー?」


 準備運動を終えた後、隣のクラスも含めて四十名ほどの女子生徒たちが一箇所に集められます。

 もちろんわたしは水嶋さんと距離を取るべく、隅っこのほうで小さくなっていました。


「よし、スタート!」


 タイムウォッチを手にした先生の声を合図に、わたしたちは走り始めます。

 そうしてグラウンドを半周する頃には、わたしは無事に孤立していました。計算ではなく、もともと鈍足なのです。


 運動の得意な水嶋さんはトップ付近に陣取っているはずなので、走っている間はちょっかいを出されることもないでしょう。持久走の苦しさにそんな気苦労まで上乗せされたら、わたしは本当に息絶えてしまいます。


(……本当にひどい一日だ)


 早くも心臓と脇腹のあたりに痛みを覚えつつ、わたしは内心でひとりごちました。

 こんなことなら、出席の単位を危うくしてでも見学を申し出るべきだったかもしれません。


(だいたい、邪神教団なんていうとんでもないものに追われてる身で、出席の単位を心配するってどうなのよ)


 やっぱりわたしは日常と非日常の双方から波状攻撃をくらっているような心境でありました。

 凡庸なる日常生活だけでも満足に過ごすことの難しかったわたしにこんな運命を背負わせるだなんて、運命神は性根が腐っています。


(ドルヒさんは、今もわたしを見てくれているのかな……それともお昼寝の最中かな……)


 そんなことを考えたとき、またぞくぞくとした悪寒を覚えることになりました。

 うっかり朝方の話を思い出してしまったのです。


 学校の周囲を、不審者が徘徊している。もしもそれがドルヒさんでなく教団の関係者だとしたら、今この瞬間もわたしを監視している───ということになるのではないでしょうか。


 いや、それが校内であろうと校外であろうと、同じことです。何にせよ、誰かがわたしを邪神の因子を持つ者と認定し、その身柄を奪おうと画策したのは確かなのですから、その人物はどこかからわたしの動向をうかがっているはずなのです。


 なんて不気味な話なのでしょう。

 ストーカーの被害にあわれている方々の恐怖が少し理解できたように思えます。


「大丈夫? やっぱり調子が悪いんじゃない?」


 と、いきなり背後から声をかけられて、わたしは悲鳴をあげそうになってしまいました。

 わたしは周回遅れになってしまい、水嶋さんに追いつかれてしまったのです。


「無理そうだったら、先生に頼んで休んだほうがいいよ? 顔色、真っ青だもん」


「だ……大丈夫だよ……」


 息も絶え絶えに、わたしは答えます。

 肉体的な疲労に精神的な疲労までかぶさって、文字通り倒れてしまいそうです。


「……真面目に走らないと、先生に怒られちゃうよ……?」


「んー? うちは大丈夫さ! それより、田中さんが心配だよー」


 綺麗なフォームで走りながら、水嶋さんはにっこり笑います。

 こんなシチュエーションでなく、そしてわたしがもっと真っ直ぐな心を持っていたら、こんな笑顔もさぞかし得難いものに感じられるのでしょう。


 だけど今のわたしには、恐怖と惑乱の対象にしかなりえません。

 その結果として、わたしは足がもつれてしまい、盛大にすっ転ぶことになってしまいました。


「田中さん、大丈夫!?」


 すかさず水嶋さんがわたしのもとに屈み込んできます。


「だ、大丈夫だから、わたしのことは放っておいて……」


「あ、膝から血が出てるよ!?」


 わたしの言葉など聞かばこそ、水嶋さんはいっそう身を寄せてきます。

 その間に、何人もの女子生徒がわたしたちのかたわらを走り過ぎていきました。


「おーい、どうした? 大丈夫か?」


「大丈夫じゃありません! 田中さんが怪我をしちゃいました!」


「あー、こいつは保健室行きだな」


 見ると、わたしの右膝が大きくすりむけて、すねのほうにまで血が流れていました。

 自分の血を見て、貧血まで併発してしまいそうです。


「うちが連れていきますよ。田中さん、立てる? 腕を貸そっか?」


「ほ、本当に大丈夫だから……」


 わたしは弱々しく後ずさり、何とか自力で立ち上がろうと試みました。

 が、上っ面ばかりでなく膝の中身にまで鋭い痛みが跳ね上がり、またへたり込んでしまいます。


「ほら、無理しなくていいってば。うちにつかまりなよ」


「ほ、保健室に行くなら、保健委員を……」


「うん。うちは保健委員だよ?」


 万事休すです。

 体育教員も、「それじゃあ水嶋、よろしく頼む」などと言っています。

 かくしてわたしは水嶋さんに肩を借りて、保健室まで移動することになってしまいました。


「うちが話しかけたりしたのがまずかったのかなあ。田中さん、ごめんね?」


 そのような言葉をかけられても、返事をすることさえできません。

 右脇から差し込まれた水嶋さんの腕は、ほっそりしているのにとても力が強く、わたしとしては鎖で拘束されているような心地でありました。


 そうしてひょこひょこと歩きながら、わたしはさりげなく襟もとに指を差し入れます。いざというときに、ドルヒさんへと呼びかけるためです。


 だけど幸い、グラウンドから保健室までの間に、完全に人目のなくなる空間は存在しませんでした。

 昇降口から校舎に入り、授業中の教室の前を横切れば、もう到着です。

「失礼しまーす」と水嶋さんがノックをして、保健室のドアを引き開けました。


「あら、いったいどうしたの?」


「持久走の途中で転んじゃったんです。膝を切っちゃったんで、治療をお願いしまーす」


「まあ、それは大変ね」


 わたしは椅子に座らされ、保険医の先生と向かい合いました。

 そして、思わず息を呑んでしまいます。

 すっかり失念しておりましたが、この方も二週間ほど前に赴任してきたばかりの、臨時の保険医であったのです。


「あー、これは痛いわね。ちょっと待ってて、消毒するから」


 名前はたしか、吉原先生です。二十代後半の、綺麗な方です。艶やかな黒髪をアップにして、銀縁眼鏡をかけているのが、とてもよく似合っています。


「あなたはたしか、二年二組の田中さんだったっけ? すっかり常連さんねえ」


 そう、わたしは先週体調が悪かったので、たびたび保健室のお世話になっていました。だから、赴任してきたばかりであるこの方の名前をわきまえていたのです。

 一番ひどいときには、二時間ばかりもベッドを借りることになりました。

 それぐらいの時間、じっくり観察することができれば、邪神の因子とやらを備えているかどうかを見抜くことも可能なのでしょうか。


「んー、切り傷のほうは大したことないみたいね。それより、打撲のほうが深刻かも」


 と、とても優しげな眼差しをわたしのほうに向けてきます。


「ちょっとごめんね? 圧迫するから、どれぐらい痛むか確認して」


「…………っ!」


 わたしは声なき悲鳴をあげることになりました。

 吉原先生にくりっと右膝をなぶられただけで、とてつもない痛みが脳天にまで響いてきたのです。


「そんなに痛い? だとすると、膝の皿をやっちゃってるかもなあ」


 吉原先生は「よし」と大きくうなずきました。


「病院で、レントゲンを撮ってきましょう。骨折とかだったら大ごとだからね」


「びょ、病院ですか? そこまでひどいことはないと思うのですが……」


「それを確かめるために診察してもらうの。大丈夫、わたしが車を出してあげるから」


 吉原先生が、わたしを力づけるように微笑んでいます。

 これもまた、こんな際でなければさぞかし頼もしい笑顔に見えたことでしょう。


「うわー、心配だなあ。先生、うちも付き添わせてもらえませんか?」


 と、水嶋さんはそのようなことを述べたてています。


「それは駄目よ。あとのことはわたしにまかせて、あなたは授業に戻りなさい」


「えー? だけどこれじゃあ心配すぎて授業どころじゃないですよー」


「そんなこと言ったって、あとで問題になったらわたしが困ってしまうもの」


 何だか玩具を取り合う子供みたいに、二人が言い合っています。

 このどちらかが、教団の関係者なのでしょうか。

 それとも、もしかして───両方ともが教団の関係者であり、手柄を取り合っている、などという事態も想定し得るのでしょうか。

 わたしは改めて、恐怖心を喚起されることになりました。


「わ、わたしは大丈夫です! 授業に戻りたいので、これで失礼します!」


 わたしは立ち上がり、保健室の外に逃げようと思いました。

 しかし、自覚している以上に足がきかず、また転倒しそうになってしまいます。


「危ない!」と大きな声をあげて、水嶋さんがわたしの首ねっこを捕らえます。

 それと同時に、ぷつんと何かのちぎれる音が響きました。


 ペンダントのチェーンがちぎれたのです。

 かろん、という軽妙なる音色とともに、純銀の六芒星が床に落ちました。

「あら」と吉原先生がそれを拾いあげてしまいます。


「田中さん、アクセサリーは校則で禁止されていたはずよ?」


「あ……」とわたしは立ちすくんでしまいます。

 この最悪な展開は、本当に偶然の産物なのでしょうか。


「これはわたしが預かっておきますね。放課後になったら返してあげます」


「そ、それは困ります!」


 わたしは思わず吉原先生につかみかかろうとしてしまいました。

 しかし、身体を支えていてくれた水嶋さんに止められてしまいます。


「暴れちゃ駄目だよ、田中さん! 膝の皿が割れちゃってるかもしれないんだよ?」


「そうね。一刻も早く病院に向かいましょう。車を出すので、ついてきて」


 吉原先生は颯爽とした足取りで出口に向かい、わたしを捕獲した水嶋さんもそれに続こうとしています。

 わたしはもう、絶望のあまり意識を失ってしまいそうでした。


 そのとき───保健室のドアが、外側から開かれました。


「どうしたんです? 何かあったんですか?」


 ドルヒさんではありません。担任の竹本先生でした。

 それでもわたしは、絶望の淵で救いの天使に迎えられた心地でした。


「ああ、竹本先生。田中さんが怪我をしてしまったので、これから病院に向かうところだったんです」


「田中が怪我を? いったいどうしたんです?」


 きょとんと目を丸くする竹本先生に、吉原先生が事情を説明しています。

 その間、水嶋さんはちょっと不満そうな面持ちで先生がたの姿を見比べていました。


「なるほどなるほど。そういうことなら、僕が車を出しましょう」


 竹本先生がそのように宣言すると、吉原先生の顔にも不満の表情が広がりました。


「よろしいのですか? ここは保険医のわたしが付き添うべきだと思うのですが……」


「どうせ僕は午後まで授業もないので手が空いています。保険医の先生が保健室を空にするよりは問題もないでしょう」


「……ですが、男性の教員が女子生徒と二人で車に乗るほうが、のちのち問題になりかねませんよ?」


 吉原先生の声に、はっきりと反感の響きが混じりました。

 それでも竹本先生はのほほんと笑っています。


「そんなことより、生徒の安全が一番ですよ。さ、田中、先生の車まで歩けるかな?」


「はい」とうなずきつつ、わたしは吉原先生を振り返ります。


「あの、竹本先生はクラス担任なので……さっきのペンダントは、竹本先生に預けてもらえませんか?」


 吉原先生は探るような目でわたしを見つめてから、無言でペンダントを竹本先生のほうに差し出しました。


「うん? こいつは田中のなのか? 田中はずいぶんおしゃれさんなんだなあ」


 涙が出るほど呑気な声で言いながら、竹本先生は六芒星のペンダントをジャケットのポケットに放り込みました。

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