天の邪鬼な長靴

夢蒟蒻

天の邪鬼な長靴

雨の日、男は長靴を履いて出かけようと玄関にいた。


案の定、長靴からは水が溢れていた。


その長靴は、足が濡れるのを防ぐという役割を放棄するどころか、足を濡らし湿らせ水浸しにするために、雨の日になると中を水で満たしていた。

こんなに足が濡れてしまったら、もう傘もささなくて良いのでは、と思うほどだ。


男はこの清々しさがどうしようもなく好きで、雨の日には好んでこの長靴を履いた。勿論、傘はささない。雨の日、男はいつもずぶ濡れだ。


しかし、その長靴を長年愛用し続けているため、ボロが出始める。靴底に穴が空いてしまったのだ。


「大変だ。水漏れだ。雨漏りだ。」


気づいた時には玄関は水没し、部屋の中まで水が入り込んできていた。


男は試行錯誤し水漏れを止めようとしたが、長靴から流れ出る水はちっとも止まらない。


水漏れをしたら連絡を、と書かれた水道業者の広告を見つけ、電話をかけてみる。

「長靴が、水漏れしました。」

まともに取り合ってくれるはずもない。



男は水が流れ出る長靴を持ち、途方に暮れた。


「・・・出かけよう。」


雨空を仰ぎ、ずぶ濡れになりながら長靴をじっと見つめた。そして、空へ、力いっぱい放り投げた。


「さようなら。長靴。」



その長靴は空高くまで飛んだ。

ぐるぐると回転し、水を撒き散らしながら、どこまでも飛んだ。

そしていつかそれは、台風となる。


台風となり、多くの人をずぶ濡れにする。傘など不要と感じるほど、清々しいまでにずぶ濡れにする。

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天の邪鬼な長靴 夢蒟蒻 @yume-kon-nyaku

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