4章 作品の山場を盛り上げる
さて、前回におおまかな流れをさらっと提示しましたが、創作慣れしている方はほぼ感覚的にというか論理的帰結に従ってストーリー付けをできるでしょう。
しかし、不慣れだと多分そこでつまづくと思います。そもそも『劇的』『劇的』とお題目のように言うが、どうすれば『劇的』になるんじゃい!と思ってる人も多いでしょう。
というわけで、その方法について、今回探ってみます。引き続き「桃太郎」を例にとって考えます。
昨日までで、作品の見せ場は大体イメージできたと思いますし、そこに至る流れも大体分かってきたと思います。今回はその見せ場をさらに盛り上げるにはどうすればいいかについてです。
昨日立てた流れは果たして本当に盛り上がる流れなのか、再検討します。
まず考えるべき部分は、「動機」です。主人公がなぜその大目的を果たそうと思ったのか。その大目的が果たされないと、どんな悲劇が待ち受けているのか。そこに関わる人はもっといないのか。などです。
主人公の動機が強いものであり、共感できるものであるほど、その悲願の達成される見せ場は盛り上がります。
例えば、桃太郎であれば動機は(やろうとすれば)次のように補強できます。
①幼い頃に鬼に襲われた(幼年期のトラウマ)
②さらにそのとき家族を亡くしている(復讐)
③鬼が不定期に略奪に来て村が貧困状態(社会的正義)
④お爺さんにお前は鬼を倒せと厳しく育てられ、夢としてきた(憧れ)
⑤鬼の刹那的、快楽的、他人を利用する態度が許せない(信条の不一致)
⑥鬼に深く愛する人を痛めつけられた(憤怒)
⑦鬼を倒さなければ、貧困で流行り病が治らず村の子どもを救えない(守護)
⑦村からお前しか倒せるものはないと懇願されている(依頼、期待)
⑧鬼の力の覚醒の儀式が見込まれ、すぐ倒さなければならない(事態の切迫性)
⑨武勇を極めた桃太郎は社会的に恐れられ疎まれ、もはや鬼を倒す事でしか自身の名誉を主張できない(自己犠牲、自分にはそれしか方法がない、承認願望)
⑩鬼の持つ宝がほしい(物欲)
⑪鬼の囲う女達を奪ってウハウハしたい。そして村の女にモテたい(性欲)
⑫鬼の島には秘伝の特性唐辛子が伝わっており、是非とも奪いたい(食欲)
⑬桃太郎は本当は静かに暮らしたい(平和の希求)
⑭桃太郎は最強の男になりたい。最も熱いバトルがしたい。血湧き肉踊るバトルができる存在はもはや鬼以外にあり得ない(武勇の証明、希求)
⑮鬼の肉体美に憧れ、勝利の暁に剥製にして飾りたい(収集欲、征服欲)
などなど、キリがないので、物語の規模、テーマ、主人公の性格、ギャグ度合いなどに相応しくないものを省いて、使えそうな動機を取り込んでいってください。
こんな感じで思いつくままに上げて、さらに時系列順に並べ直せば、そこそこの骨格ができあがります。物語とは動機を補強していく過程でもあるのです。
逆に「なんでそんなことするんだよ……」と読者が冷ややかに見てしまっては、失敗でございます。
マスローの五つの欲求段階というものがありますが、この法則に反するのが典型例です。少し詳しく書いてみましょう。
第一階層「生理的欲求」生きていくための基本的・本能的な欲求(食う寝る)
→ 第二階層「安全欲求」生命の危険を回避し、安全・安心な暮らしがしたい
→ 第三階層「社会的欲求(帰属欲求)」(集団に帰属し、仲間が欲しい)
→ 第四階層「尊厳欲求(承認欲求)」(他に認められ、尊敬されたい)
→ 第五階層「自己実現欲求」(能力を発揮し創造的な活動がしたい)
第一段階から順に満たされていくのが普通で、第一・二段階目が満たされてないのに段階をすっ飛ばして、第四・五回目を満たそうとするのは不自然と言う話です。
この場合は貧しい農村が背景で、鬼による略奪が横行しているわけで、第一・二段階目の生理的欲求も安全欲求も危機的なわけです。
そこで「オラ、強え奴と闘いたいんだ!」「おめえ強えな! オラ、ワクワクすっぞ!」という自己実現欲求を前面に出しすぎると、「こいつ……、村の危機なのに楽しんでやがる!」と思われちゃうわけです。
あくまで正当防衛、障害の打倒に徹したほうが無難でしょう。
(ドラゴンボールを思い浮かべると思いますが、あれはゴクウというキャラが定着しているから許されているのです。
あれは欲求段階を逆手にとって、バトル好きという個性を強調する応用技です。やるなとは言いませんが、段階を飛ばしていると意識した上でやるようにしましょう)。
もっと分かりやすい例を提示すれば、家族が飢えていて隙間風吹くスラム街に澄んでるのに、稼ぎもせず夢のライブ演奏に没頭している主人公なんてのがいたら、周りからも読者からも愛想をつかされて当然なわけです。
というわけで、なんか主人公が目的に対して気乗りしてないなーと思ったら、追い込むなり励ますなりエサを与えるなりして、ストーリーラインに沿って動機を補強してあげてください。
そうすることで、読者もその行動に共感したり、早くやっちまえー!桃太郎!と応援する形になります。
その次に来るのが、問題解決を困難とすることです。成し遂げることが困難であれば困難であるほど、成し遂げたときの感慨、達成感(カタルシス)は大きなものとなります。
桃太郎であれば、鬼が有利であったり強大であったりすること(それを裏付けるエピソードを配置すること。村の略奪シーン、桃太郎を絶命寸前まで追い込む、お供が歯が立たないなど)。
桃太郎が満身創痍でケガをしていたり、敵の罠にハマっていたり、人質をとられたりして味方側が不利な状況であることが挙げられます。
バトルでなくても、恋愛ものなら、女の子が困難な境遇にあったり、強いトラウマを抱えていたり、なかなか人に心を許さない子だったり、主人公のことを誤解していたりなど、相手側のハードル(心理的障壁、要求水準)を上げることで、告白のシーンを盛り上げる事ができます。
応用して、純文学に近いトラウマを抱えた主人公の再生物語を描くとすれば、トラウマの深さや、主人公の対面する現在のアイデンティティを揺るがす危機の切実さ(一番大切にしていたものを失いそう、やむなく信条に反することをしなければならない、誰かを犠牲にしなくてはいけない、ずっと目を背けていた悲劇に直面しなくてはいけない)などで、いかに心理的危機に瀕しているかという形で演出してください。
解決すべき問題の設定で注意点としては、原則的には公序良俗から反しないことです。
主人公が女の子をいじめることを目的にしてたら、不愉快ですよね。銀行強盗をしてもいいのですが、それはもっと大きい目的(何らかの社会的正義)のための手段であるべきでしょう(義賊的な)。
一般的な感覚なら、この目的に対してどう思うかの感覚を持ってください。少しズレた目的を設定したいのであれば、キャラの生い立ちなどの特性付けを頑張ってください。
また、最近の傾向としては、主人公にストレスを与えることを嫌う傾向があります。
そういう場合は、傍にいるヒロインに苦難を負わせてください。ヒロインや相談者が交代するごとに新章に行けますので、連作形式のライトノベルに向いたやり方となっています。
今章はこんなところで、盛り上げ方の特集でした。
しかし、追い詰めれば追い詰めるほど、当然盛り上がりますが、解決策をどう用意しようかと悩むことがありますよね。
次回はそこについて考察してみたいと思います。
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