第35話 ひとまず一件落着?
「お疲れ」
悠然とカクさん達に歩み寄る。
「意外とすごいのね。私でも彼には勝てなかったのに。どんな魔法を使ったの?」
「ノミカイゴ」
「え?」
「いや、何か相当酒弱いみたいでさ。効果覿面」
「嘘でしょ? あんな化物じみた強さなのに? そんなしょうもない魔法一つで勝てるの…」
うわぁマジか、とマホちゃんはかなり落ち込んでしまった。
「おい、まだ俺達とやりあうのか?」
攻撃してこなくなっても少し離れた所から武器を構えてこちらの様子を見ていた騎士団は俺がそう言うと、揃って武器を降ろして降参の意思を示した。
「よし。それじゃあカクさん。悪いんだけど、あそこで埋まってるテラを引っ張って来てくれない? 多分、カクさんじゃないと出来なさそうだ」
カクさんは一度頷くとテラを掘り起こして、ここまで担いできた。
「それじゃあ帰るか」
「ちょっと」
「え?」
「これからどうするのよ」
「それはテラが起きるのを待ってからだな。テラが目を覚ましてから盗賊達の事を片付ける。それから俺達も発つ。他に何かあった?」
「いえ、何でも。ただ、貴方もしっかり彼らの事を考えてたんだなって思っただけ」
「マホちゃんが突っ走り過ぎるからこんな事になったんだぜ?」
「私が悪いの?」
「違うの?」
「違うわよ。勇者がしっかり考えを教えてくれたら私もあんな事しなかった」
「俺が悪いの?」
「違うの?」
「うーん」
俺が悪いのか?
「まあ、もうどうでも良いよ。もう全部終わった事だ」
次からはしっかりとマホちゃんのお守りをしよう。
毎回こんな事ばっかりだといつまで経っても旅が終わらない。
「そうね。もう終わった事だものね。誰が悪いかなんてどうでも良いっか。ただ、私も悪かったかも。次から気を付けるわ」
根っこの所で素直だからマホちゃんはどうも憎めない。
「たださ、血の気が多すぎると思うんだよな。もう少し女らしくなったら? やっぱりまな板だと性格も男っぽくなるの?」
そしてからかいやすい。
「うるさい! これから成長するの!」
マホちゃんが俺の肩の関節を的確に殴った。
うん。
しっくりくる。
やっぱりこれがないと張り合いがないや。
「じゃあ、カクさんはテラを担いで村まで頼む。それからそこの騎士団。無駄な抵抗を止めて一緒に村まで来い」
騎士団員を引き連れてツギノまで戻ると、村人と盗賊団が話し合っていた。
「終わったぜ。そっちはどうよ」
話を聞いてみると、やはりと言うべきか意外と言うべきか、村人と盗賊団の双方が共に暮らす事をあまり快く思っていないようだった。
盗賊団はどちらかと言うと、生贄として村を去る時に置いてきた家族であったり想い人であったりのその後が気になっていただけのようだった。
「え? 村に帰化したいんじゃなかったの?」
マホちゃんは盗賊団から何も聞いていないようで、彼らの話を聞いて驚いていた。
「帰りたいとも思ったんだがな。さっきこいつらと話し合ってよ。まあ、色々あるんだ」
名前も知らない盗賊がマホちゃんと仲良さそうに話している。
「ヨイザマシ」
ノミカイゴの効果を打ち消す新魔法をテラに使って話が出来る状態にする。
テラはそこら辺に落ちていた鎖でぐるぐる巻きにしてある。
妙な抵抗をさせないための対策だ。
「よう。気分はどうだ」
「…最悪だ」
「さて、戦う前にした約束は覚えているな?」
「ああ」
「なら良いんだ」
俺はマホちゃんと話していた盗賊団のおっさんにテラとの約束を教えてやる。
「それは本当か?」
「本当だ。あいつは頭は固いが、同時に意思も固い。約束を反故にするような人間じゃないさ。後はあんたら次第だ」
「どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「決まってんだろ。マホちゃんが面倒臭痛っ。マホちゃん、今、このおっさんと話してる最中だから…。ああ、あれだ。正直な所、あんた等に興味はないんだ。俺はただ、早くこの旅を終わらせたいだけ。そのために必要だと思う事をしただけだ」
「随分と開けっ広げだな」
「ここにいる人間にどう思われても痛くも痒くもないからな」
「そうか。ともかくありがとう」
盗賊のおっさんが頭を下げた。
「その申し出、喜んで受けさせてもらう」
「おう」
それは良かった。
マホちゃんが何やら思う所があるような顔で俺を見ている。
それにドヤ顔で応えると、マホちゃんが露骨に顔をしかめた。
愉快、愉快。
「さて、一件落着した所で俺達も補充を済ませて次に行こうぜ」
カクさんが首を縦に振った。
マホちゃんは…何も言ってこないって事は別に異論はないのだろう。
「よし。それじゃあツギノの人達よ。約束通り、当面の食料と水の用意を頼むわ」
「え…?」
初めてツギノを訪れた時に俺達の対応をした村人が声を上げた。
「え…? じゃねーよ。言ったよな? この村の問題を解決する代わりに次の街までの食料と水、それから宿を提供するって。まさか忘れた訳じゃないよな?」
剣の柄に手を当てながら言うと、村人は顔を青ざめさせた。
「しかし、その…あの…」
「何? はっきり言ってくれないと分かんないよ?」
「盗賊が奪う分の食料を代わりにすれば良いって」
「それを保存が効くように調理してくれれば良いから」
「いや、それはもう…」
「ないの?」
「お連れ様が全て食べられましたよね?」
村人はそう言ってマホちゃんを見た。
どういう事?
村人に釣られてマホちゃんを見る。
マホちゃんと目があった。
「え? いや、別に食べてないわよ。そんな時間なんかなかったじゃん」
「ホムラがバカみたいに食べていたと…」
「えっ! あれってそんな大切な物だったの!」
「ごめん。話が見えないんだけど…」
要領が得ないので具体的な説明を求めると、どうやらテラ達が山に登った時に持って行った食料は元を正すと俺達が魔獣に捧げに行くのに持っていた物で、それをマホちゃんが平らげていたという話らしかった。
おいマジかよ。
「マホちゃん」
「うん?」
うん? じゃねーよ。
「何か言う事があるんじゃない?」
「食料がなければ狩りをすれば良いじゃない」
「他には?」
「ごめんなさい」
そうだな。
狩りでもするか。
「じゃあとりあえず水だけでも用意してもらおうか」
「すぐに用意します」
改めてマホちゃんを見る。
こいつ、本当によく食うな。
これから気を付けないとこっちが餓死しちゃう。
…。
あれ?
何かほっぺ膨らんでない?
つーか、全体的にハリがある気がする。
「マホちゃん太った?」
渾身のストレートが飛んで来た。
「ちょっと。何言ってんのさ」
「思っちゃったんだから仕方ない」
いや、きっと見間違いじゃない。
少し太ってるな。
これからは体調管理もしっかりしないと。
太って魔法が使えなくてパーティー全滅って笑い話にもならん。
「お水、汲んできました」
「ああ。どうも。よし、それじゃあ行くか」
ともあれ、これで面倒事はクリアした。
さっさと旅を再開しようじゃないの。
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