第33話 悪だくみは大体失敗する
「あ、勇者…」
山を登り始めてすぐの事だった。
何やら一団が山を降りているなと思ったら、マホちゃんと盗賊団の面々だった。
「…マジかよ」
思わずカクさんを見るが、カクさんは何かを諦めたように肩をすくめるばかりだ。
「何でここにいんの?」
「武装集団を追い返したから、ツギノに乗り込むのよ」
分かりきった事を聞くなと言わんばかりにマホちゃんが言った。
「その武装集団はツギノにいるぜ」
「知ってるわよ」
「今ツギノに言ったらツギノで連中と戦闘になるぜ」
「大丈夫よ。その前にツギノの人と彼らを会せるわ」
「ツギノの人が別にそこの人達に会いたくないと言っていても?」
「問題はそこじゃないわ。彼らが生贄になった挙句、生まれ育った場所を追われているのよ。居場所を奪った人達の言い分なんかどうでも良いじゃない」
その気持ちも分かるけど、そうもいかないだろう。
そんな事を言うと、マホちゃんはマホちゃんで屁理屈めいた理由で食い下がる。
ああ言えばこう言うし、こう言えばああ言う。
かと言って訳も話さずに引き返せなんて言った日には意地でも自分の意思を貫いてくるから困ったものだ。
「知り合いか?」
不毛な問答をしばらく続けていると後ろからそんな声が聞こえてきた。
ビクリと全身が不随意運動する。
背中がピンと真っ直ぐに伸び、全身に電気が流れるようにビリビリする。
こんな感覚を何度か体験している。
幼稚園の時に家のたわしを栗と入れ替えた時。
小学校の時に教室でミミズの流しそうめんをやろうとした時。
中学校の時に人間ダーツをやろうとして窓ガラスを大破させた時。
最近では世界遺産と称する友達のエロ本に落書きした時。
どれも死ぬほど怒られた。
ヤバい。
これヤバいやつだ。
恐る恐る後ろを振り返るとテラが鬼の形相で俺を睨みつけていた。
「違う。これは違うんだ」
やべ。
この言い訳は最悪だ。
「何が違うんだ?」
「元々、俺とこの子は一緒に旅をしていたんだ」
「そうか。それで盗賊を手を組んだという訳か。我々が目障りだからあのような嘘を吐いたと」
「違う」
「だから何が違うと言うのだ!」
地響きのような叫び声が轟いた。
怖い怖い!
「問答無用。お前には死んでもらうしかあるまい。
マジで?
ここでやり合うってか。
咄嗟に手を剣の柄にやるが、テラが自分の寛大さに感謝しろとでも言うような態度で話を続けた。
「しかしこの場ではお互い満足に戦えまい。村の外に戦いにふさわしい平野があった。そこで決着を着けよう。全力で戦って死ねるなら後悔はあるまい」
俺達、死ぬ前提なんだ。
「だから待てって。違うんだ」
「お前の話など聞きたくもないわ! ふざけているが、芯の部分に真っ直ぐなものを感じていたのに。それなのにお前はっ!」
ダメだこれ。
まともに話も出来ないやつだ。
どうしてくれるんだよ。
おかげでこちらの計画が丸つぶれだ。
お前のせいだからな、という感情を視線に込めてマホちゃんを見るが、当のマホちゃんは訳が分からないといった表情で俺とテラを交互に見ていた。
呆気に取られるのも分かるけどね?
だけどマホちゃんのおかげで余計にややこしくなってんだからね?
「マホちゃん」
「何よ」
「後でじっくりとお話をしよう」
「何をしている! 早く着いて来い! それともここで死にたいのか!」
早くもツギノ方面へ引き返しているテラが俺達を急かした。
テラの部下が俺達に武器を向け、おかしな事をしないように見張っている。
大人しく従う他に手はなさそうだ。
もうやだこれ。
ツギノの中を騎士団、俺達、そして盗賊の三団体がぞろぞろと歩くと村中が好奇と怪訝の視線で俺達を見つめ、そしてあろう事か盗賊団の更に後ろを付いてきた。
見世物じゃないって。
テラについてしばらく歩いていると、何もない平野にやって来た。
「我々が向こうに陣を敷く。お前達はここで待機していろ」
「本当にやりあうの?」
「当たり前だ! こうなったら戦いで白黒はっきりさせるしかあるまい」
「勝敗は?」
「相手の大将の首を撥ねた方が勝ちだ」
テラがびしっと俺を指差して言った。
溜息。
「分かった。それであんたが満足するならそれで行こう。ただし、こっちは俺達三人でやる。この盗賊団は元々ツギノの生贄として村を追い出された連中だ。それをこんな意味のない戦いで命を落としたとなれば、救いも何もあったものじゃない。それで良いな?」
「グランシオが誇る精鋭が得意とする平野での戦いに三人で挑むだと? バカにするのもいい加減にしろ!」
「だからこいつらは関係ないんだって」
なるべくへらへらとした様子を崩さないように気を付けながら言うと、テラは馬鹿に構っている自分に嫌気が指したのか、笛の音が開戦の合図だとだけ言うと向こう側へ去って行った。
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