第29話 戦う前には状況をしないと

「はあ?」

 ホムラは腹が減り過ぎて頭までおかしくなったのかとでも言うような顔をした。

「追われてるの。もしかしたら貴方達を狙ってるのかも」

 山小屋で休んでいる連中が私を見て、私を追いかけ始めた。

 狙いは魔獣ではなく、人間だ。

 こんな場所で狙われる人間なんてホムラ達しかいない。

「どういう事だ」

 私の必死さが伝わったのか、ホムラの表情が引き締まった。

「…そうか」

 今の状況を伝えると、ホムラはそれだけを言うと静かに走り出した。

 やがて金属の乾いたカンカンという音が鳴り響いたと思ったら、続々と人がどこからともなく姿を現した。

「随分と用意が良いじゃない」

 ホムラを含め、集まって来た人間は男も女も、子供も大人も関係なく武装していた。

 カスミさんと一緒に山頂を目指していた時に出会った時よりも重装備だ。

「こんな日が来るのは分かっていた。準備はずっと前からしてたんだ。祝勝会用の酒も用意してるんだぜ」

 ツギノに平和をもたらすために生贄となって。

 魔獣にろくに役に立たないからと言われ生贄としての役割を全うできず。

 それでも村を想って村に帰らなかった人達。

 その彼らが今、許されるべき悪事の報いを受けようとしている。

 理不尽だ。

 胸がチクリとしたのは気のせいだろう。

 でも、腹の底で燃える苛立ちは気のせいではない。

「戦うの?」

「死ぬのは怖いしな」

 その一言が彼らを死なせてはいけないと強く思わせた。

「契約の使徒よ、同胞の元に集い主にその姿を見せよ」

 呪文を唱える。

 クロが肩から降り、地面をぽんぽんと叩いた。

 するとその場に一際大きな白い獣が姿を現した。

 その獣の体毛の一部に赤いものが滲んでいる。

「怪我をしないようにって言ったでしょう」

 これは俺のケンカだぜとでも言うかのようにシロは荒く鼻息を立てた。

「元の姿に近くなるほどに性格が荒くなるのは困りものね」

「誰に似たんだろうな。なあ?」

「喋った!」

 驚いたのはホムラだ。

「シロが話しちゃおかしいの?」

「シロ? これがあのちっこいのだって言うのか?」

「どっちも私のシロよ。状況はどうなの」

「手強いのが一人。後はただの人間だ。雑魚にもならない」

「その手強いのはどれくらい手強い?」

「軽く人外の域にいるな。お前が小便漏らしそうになった大男だ」

「余計な事は言わないで!」

 恥ずかしい。

「ねえホムラ」

「どうした、お漏らし痛いって」

「この集団の指揮は貴方に任せるわ。貴方達で雑魚をお願い」

 思いっきり肩パンチを食らわせながら言う。

「お嬢ちゃんはどうする」

 肩をさすりながらホムラが言った。

「その手強いのを相手にしながら雑魚を捕縛する」

「ビビッてちびっちまうような奴に出来るのかよ」

「やるのよ」

 今度は肘を殴る。

「私にはシロとクロがいる。三対一よ。楽勝じゃない。それよりあんた達の役割は理解した?」

「分かったよ」

 何を言っても私が聞かないのを知っているのか、すんなりと私の提案を受け入れてくれた。

「それから一つ確認したいんだけど」

「何だ」

「ツギノから私達が出会った山小屋までは一本道よね?」

「そうだな。それがどうかしたのか」

「いえ、何でもないの。ただ、ちょっと確認をしたかっただけ」

 あの連中はやっぱりツギノからやって来ていた。

 ユウ。

 あんた、一体何を考えているの?

 いや。

 後で考えよう。

「とにかく、今は連中を撃退する事だけを考えましょう。皆、配置に着きなさい」

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