第28話 狩りに出かけたら狩られそうになった
「おい」
ぺちぺちという音が聞こえる。
「起きろ。朝だ」
頬に断続的な衝撃を感じる。
「んお?」
ぺちぺちという音が頬をはたかれている音だと気付くまで数秒の時間を要した。
いつの間にか眠っていたようだ。
「…何で私に跨ってんのよ」
「叩きにくいだろ」
「変態」
「うるせえ。飯にするぞ」
「ご飯!」
勢いよく身体を起こすと、思わずホムラに頭突きをかましてしまった。
「痛…早くどきなさいよ」
「いや、お前…」
「どきなさい。そしてご飯を用意しなさい」
「ごめんなさい」
ホムラがおずおずと退いた。
起き上がる前にホムラに何かされていないか確認する。
「あんた、本当に私に何もしなかったの?」
「だからそんな貧相な身体に興味はな痛い! 止せ。貧相なのは事実だ痛っ!」
やっぱり勇者めいた言動を感じる。
腹立つな。
「ごはん」
「はいはい」
起きて朝の柔軟をしてから本格的に立ち上がる。
「外に井戸がある」
顔を洗ってこいという事だろう。
「暗いな…」
外に出て、まだ夜中だという事を知る。
「まだ暗いよ」
「ああん? 朝なんてこんなもんだろ」
「いや、これ夜だから」
「起きたならもうそれは朝だ。外が暗いのは関係ない」
確かに今から二度寝をするのも何か違う。
仕方ない。
早起きしたと思おう。
やけに冷たい水で顔を洗って家に入ると、湯気が立っている器が二つばかりあった。
「え、これ」
「これだけだ」
「む」
言いたい事を先に言われてしまった。
今日こそは魔獣を狩ろう。
こんなんじゃ飢え死にしちゃう。
お粥のようなものをできるだけよく噛んで食べる。
それでもお腹はやっぱり膨れなかった。
「それで今日も待つのか」
「そうね」
いち早く食べ終えた私を余所にホムラはゆっくりと食べている。
見かけによらず綺麗な食べ方だ。
「そうか」
「問題でもある?」
「待つのは性に合わないってだけだ」
「私も」
「じゃあ一度村に」
「ダメ」
今帰ったらユウに何を言われるか分かったものではない。
ここは我慢だ。
もどかしいけれど、事態が動くまで待つしかない。
「急に帰ってどうにかなる問題でもないでしょ」
「昨日と言ってる事が違うな」
「考え直したのよ」
「ふうん?」
「それよりこんなんじゃ物足りないわ」
「太るぜ?」
「成長期なの!」
本当に勇者みたいな物言いだな。
「という訳で今日こそ狩りに行ってきます」
「おう。一人で大丈夫か?」
「大丈夫よ。私を何だと思っているの?」
「よく食う礼儀知らずの娘だな」
「むきーっ! もう! いってきます!」
「暗いから気を付けろよ」
今日はあの小屋を超えて山に登って魔獣のいる場所まで行く。
昨日と同じ轍は踏まない。
そう思っていた時期が、私にもあった。
「何でこんな事になるかな」
意気揚々と歩いていると、小屋付近に集団がいる事が分かった。
昨日の連中だ。
そうだよ。
昨日のあの時間に山を登っているなら、野営をしていてもおかしくないという事くらい気付くべきだ。
そして厄介なのはあまりにも堂々と獣道から小屋のある少し開けた草原に出てしまった事で私の姿が連中にはっきりと見られてしまったという事だ。
連中が武器を持って立ち上がった。
「やばっ」
踵を返し、来た道を引き返そうとすると、なぜか連中が追ってきた。
「何でよ!」
足が遅くとも単身で森とすいすい進める私。
足は速いが集団で慣れない森を突き進む敵。
私と連中の距離は縮む事はなかったが、かと言って離れる事もなかった。
このままだとスタミナがない私が疲れ、じきに追い付かれてしまう。
「彼方より此方へ! シロ! クロ!」
魔法を使って妨害しながら距離を稼ごう。
そしてホムラと合流だ。
召喚したクロは肩に乗せ、シロを並走させる。
「誰にも与さぬ兵よ。茂り、栄え、弱者の強さを示せ!」
私の呪文に応えるかのようにシロがにゃーと鳴いた。
後方で生い茂る雑草が勢いよく生育を早め、追っ手の足を鈍らせた。
「シロ! あれの相手をしなさい。殺さないようにね。私の魔力はいくら使っても良いから、怪我のないようにね」
シロは応えるように立ち止まり、追っ手と対峙するように構えた。
身体の力が抜ける感覚がする。
ちらりと後ろを確認するとシロの身体が肥大化していた。
あの姿を見るのは随分と久しぶりだ。
この隙にホムラがいる集落へ向かう。
集落へ戻ると、ホムラが外にいるのが分かった。
縄を持っているところを見るに、まだ完全に陽が登っている訳でもないのに仕事をするつもりのようだった。
「何だ? 今日も狩りは不発か?」
ホムラは私が武装集団に追われている事なんか露知らず、呑気そうに言った。
「それどころじゃない! 追われてる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます